死ぬ前に一回でいいから恋愛をしてみたかった
一応ラブコメになるのでしょうかね?
ノリと勢いと眠気の中書いた作品ですが、それでもよろしい方だけお読みください。
「ごめんなさい」
目の前の女性は迷う素振りを見せる暇さえ与えずに、首を横に振り、そそくさとその場を去っていった。
「な……、」
呆然と立ち尽くす少年、名を青山昴と言う。青山は立ち尽くしたまま大きく息を吸い、
「何故だぁぁぁぁぁぁぁ!?」
たまらず絶叫。
絶叫はそのまま愚痴に移り変わる。
「別に大きくは望みませんよ? 彼女と下駄箱とか校門前で待ち合わせて一緒に帰りたいとかそのまま寄り道をして買い食いしたり、他愛ない話で場を繋げつつ、不意に当たる僕の手と彼女の手が触れてしまって、そのまま自然に手を繋いでしまうような男子も女子も胸キュンしてしまうようなイベントぐらいだよ、それぐらいしか望んでいないのに!」
青山は所謂負け組みだ。
例えるなら今目の前を通った仲慎ましいカップルを見て、
「死ね! リア充死ね! 心中しろ!!」
と。
カップルの奇異の視線を背中に浴びながら、心の中で叫ぶような人種である。
彼女いない暦=年齢と言えばもっとわかりやすいのだろうか。
つまりはこのままでは三〇を迎えたころには魔法使いの仲間入りをしてしまう可能性がある――そんなかわいそうな人種だ。
「あー……何かもう、やるせなくなってきた……本当に」
可愛い女の子とデートしたい。合コンしたい。メールしたい。電話したい。遊園地行きたい。プリクラ撮りたい。花火したい。海水浴行きたい。ボーリングしたい。クリスマスしたい。バレンタインデーしたい。女の子といろんなことがしたい。
「このまま……何も出来ないまま死ぬのかなぁ……。思い出が何も出来ないまま……死ぬのかな?」
ぼそりと呟いた自分の言葉に自分で傷ついてしまう。
帰るか。帰ってエロ本でも読むか……と、青山がその場を去ろうとすると、
「すればいいじゃん」
何か声が聞こえてきた。
「???」
辺りを見回すが声の主は見当たらない。
「こっちだ、こっち」
声は何やら横でも後ろでもなく、上から聞こえてきた。
容貌は少女らしき、容貌である。
年にして一一か一二くらいだろうか。白いワンピースに少女の長い黒髪が少女をより清楚に見せている。
少女の顔は幼いながらもどこか大人びた雰囲気を醸し出している。もしくは青山に呆れているのかもしれないが。
しかし、その表情よりも青山は少女の背中に生えている大きな白い羽に目が行く。
「と、鳥人間……」
少女は器用にも空中でずっこけた。
「何でこの姿を見て鳥人間な訳? 普通天使でしょ、天使。黒髪少女ちゃんマジ天使とか言えないの?」
呆れたまま少女は青山の目の前にふわりと着地する。
「あ」
風に舞う少女の香りが青山の鼻に届く。
いい匂いだ。他に例えようがない少女の――女の子の香り。どうにも目の前の少女は年齢=彼女いない暦の負け組みの少年が生み出した幻想なんかではないようだ。
「今日で貴方が異性に振られた回数が三桁を突破しましたー、ぱちぱちぱちー」
少女は覇気なく手を叩く。どこか馬鹿にされた感じだ。
「ここまでモテない人間に出会ったのも本当に久々。ねぇ? ずっと気になってたこと訊いていい?」
「な、何」
あまりの出来事に頭がついていかないが、どうやら目の前の自称天使ちゃんは何やら自分に質問がある様子だ。
「貴方はどうしてモテないの?」
「そ、そんなもんこっちが聞きたいわ!」
あまりにも馬鹿らしい質問に思わず叫んでいた。
それでも少女はたじろぐ様子一つ見せない。
「んー? じゃあ質問を変えましょうか? どうして貴方は自分がモテないと思うの?」
「う?」
今度の質問は答えようと思えば答えられる質問であった。
しかしこの質問に答えてしまうと、何か青山昴という人間の中で何かが壊れてしまうような気がする。
「そう……だな」
青山は色々逡巡して、結果。
色々面倒臭くなってしまったのか、全てを吐露するという考え全てを放棄するという結論に至る。
「……顔?」
「うん、まぁそうだね」
「肯定しやがったよこいつ!?」
「よくはないよね。寧ろ下の下だよね」
「ひどい!?」
しくしくとその場に蹲って泣きたくなったが、流石に目の前に少女がいるようなところで泣くと言う男の尊厳を全て投げ出してしまうような行為は自重することに成功する。
「でもさ。じゃあどうして貴方以外の顔が悪い人は彼女がいるの?」
「え?」
「別にブサイクじゃなくてもいいよ。コンプレックスだったら何でも。例えばハゲとかデブとか……あー、チビでもいいかな? そういう人でも彼女がいる人はいるよね? なのにどうして貴方には彼女がいない訳?」
「え? えっと……それは」
確かに世の中の全てのブサイクに彼女がいない訳ではない。コンプレックスを抱えている人間全てに彼女がいない訳がない。
「な、何でそんなこと初対面の君に言わなきゃならないんだ」
「あー、そうやってお茶を濁しますか。まー? 私にしてみれば貴方とは完全な初対面という訳でもないんだけどね。私は世の中全ての人間に一人は必ず付いている恋天使。もちろんモテない貴方も例外なく恋の天使は必ずいるわ。それが私」
「それを信じろって言うのか?」
少女は呆れ気味に、
「別に信じなくてもいいわ。信じようが信じまいが、恋天使は絶対にいるの。だから人は恋愛が出来るんだから」
腑には落ちないが、背中から思いっきり羽を生やしている人間が目の前にいるのだから信じる他あるまい。
「んで。質問を戻すけど、どうして貴方は他のブサイクと同じように彼女が出来ないの?」
質問が戻ったので、青山はとりあえず考えてみることにした。
「その……ブサイク連中は単純が運がよかったんじゃないのかな? 運よく彼女が出来ただけ。そして僕に彼女が出来ない理由はとにかく運が悪くてどうしようもないからじゃないか?」
恋天使は大きく息を吐いた。
何かとんでもなく馬鹿にされている気がする。
「私は一応? 貴方の恋天使だから。不服だけど。超不服だけど! 恋天使で振られた回数が三桁を突破した貴方に同情したから教えてあげるけど、貴方はとにかく卑屈」
「卑屈?」
「貴方にはどうしようもないくらいの欠点があるって言われて真っ先に答えるのは卑屈な証拠。普通は性格が悪いだの不潔だのって改善のしようがある欠点を言うのに、貴方は真っ先に自分の顔が悪いからモテないって言った。それってどうしようもないってあなた自身でどこか諦めているってことよね? だから貴方は卑屈。だからモテないの」
「そんなこと急に言われたって……どうしようもないじゃないか。そういう性格なんだから」
恋天使はピッと人差し指を立てて、
「とりあえず努力をしなさい。何でもいいの。その卑屈を直すのが無理って言うのなら、清潔を心掛けたり、ハキハキしたり、お金を人並み以上に稼いだり。卑屈な人間だろうが何だって努力しなきゃ彼女なんか出来るはずもないわ」
そこで押し黙る青山。
確かに自分の顔が悪いから彼女なんか出来るはずもないと、心のどこかで思っていたのかもしれない。お洒落も無頓着になり、流行も知らず、自分の世界に閉じこもり、何もかも諦めて、努力をしてこなかったかもしれない。
「努力……か。すれば僕にも彼女が出来るのかな?」
卑屈な顔にどこか笑みを含ませる。
その顔を見た恋天使が笑ったように見えた。
「ええ、きっとね。そのために私たち恋天使がいるんだから」
ふっと笑った恋天使がその場から立ち去る刹那、
「待って」
青山は恋天使の腕を取る。
「努力する。努力するから僕と付き合ってくれませんか?」
恋天使はにこやかに天使の笑みを浮かべ、
「ごめんなさい」
迷う素振りすら見せずその場を飛び去っていった。
如何でしたでしょうか?
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