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0081  作者: 北川瑞山
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第十六章

 その後女は衣服を纏い、先に部屋を出ました。僕は一人薄暗い部屋に取り残され、頭を抱えました。僕の追い求めてきた自然の権力は、畢竟無意味であった!僕は暗澹たる思いに胸を掻きむしられ、張り裂けそうに膨張した空白を空白で埋める様な息苦しさに喘いでいました。絶望というにもあまりに虚無的な自失の念が周りの景色を滲ませました。涙も枯れる程の皮肉に、僕は自嘲し、笑いが止まりませんでした。無意味というこの一言が世界を埋め尽くしていたのです。ホテルの階下へ下りるエレベーターの中でも、僕は一人うずくまって頭を抱え、堅牢な無意味の密室を感じていたのでした。

 僕は街に出ると、無意味な街の明かりをぼんやりと見つめました。自然の権力を金銭という不自然の権力で売る人々。それを買う人々。結局彼らは意味のない権力を追い求め、無意味のうちに死んでいくのです。華やぐ街の景色が無意味と化した荒廃の中で、僕は嘔吐が静かに治まっていくのを感じました。僕の心は無意味を宿し、平静を保ちました。生まれて初めて感じた平静でした。ただしその平静は僕に何物をも与えてはくれませんでした。とにかく無意味であることに無意味の価値を僕は感じていました。


     *


 それから三年の月日が流れました。僕は今や大学の卒業を間近に控え、就職先も決まっています。何の問題もありません。僕は人並みに不自然の権力を手にしたのです。しかしこの三年、僕は廃人の如くひたすら無意味を漂い、貪り、漂着した先はやはり無意味だったのです。語るべき事など何一つありません。なぜなら僕は何一つ進歩していないのですから。人間は無意味のうちに生まれ、生き、死んでいく。その間ひたすら自然、又は不自然の権力を追い求め、掴んだものはやはり無意味なのです。権力の無意味さを知ってしまったら、人間はとても生きる事が出来ないでしょう。しかし僕は生きようと思います。死者という無上の権力ですら無意味であるからです。この無意味さを呪い、憎む事こそ僕にとって生きるという事の意味なのです。

 嫌いです。皆嫌いです。自分も嫌いです。「善」という無意味な権力を崇める全ての存在が嫌いです。しかし生きるという事はいいものですね。この無意味さを感じる事が出来るのですから。街の片隅に佇む僕は呟きました。

「ごめんなさい…」

僕はそんな議論を一蹴し、冷たい風に吹かれて歩き出しました。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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