最終話 私の隣の部屋の彼
「優希斗さん、優希斗さん!」
俺が次に目を覚ました時、既にそこは病院だった。
大家さんが発見して運んでくれたらしい。
「優希斗さん…!」
進藤さんは涙目で俺を見てた。
「進藤さん、学校は…」
「今日は始業式だけだから…。帰ったら優希斗さんいないし……病院に運ばれたって聞いて…。」
「そっか…」
進藤さんはずっと泣いていて、俺はどうする事も出来なかった。
ただ時間だけが過ぎ、いつのまにか俺は眠っていた。
「ん……」
俺が目を覚ますと、進藤さんは横で寝ていた。睫毛、長い。
彼女は、目が大きくて、睫毛も長くて、口元も鼻も綺麗に整っている。いわゆる世で言う、美人、という類いなのだろう。
そんな進藤さんの目には、涙の跡があった。俺はそれをそっと拭い、髪を整えた。
「ふ、ん……ぅ…。……あれ?優希斗さん?あ、私寝ちゃって……」
進藤さんは目を覚ますと、俺の顔を心配そうにのぞきこんだ。
「そんな顔しないで、進藤さん。俺は大丈夫だから」
それでも、心配そうにしていた進藤さんを見て、俺は一番気にしていた事を口にした。
「それより、家に帰らなくていいの?進藤さん、明日も学校だろ?」
「あ……そうですね。私が居たらゆっくり休めないと想うし、明日も学校だし、そろそろ帰ります。」
進藤さんは「明日も来てもいいですか?」と聞いた。俺が「もちろん」と答えると、嬉しそうに帰っていった。
それから、進藤さんは毎日ここに来てくれた。
俺が死ぬまで、毎日。
「スケッチブック、持ってきましたよ」
そう言って、スケッチブックを差し出す進藤さん。
俺は、医者に「もって、後1年です」って言われてから、絵ばかり描いてきた。そんな俺に近寄ってくる人なんていなかったし、それに、これ以上俺と関わると迷惑をかけてしまうと想って、誰とも関わろうとしなかった。
でも、進藤さんは違った。
進藤さんは俺を避けようとしなかった。俺の絵を好きだと言ってくれた。俺といると楽しいって言ってくれた。
これ以上関わると進藤さんに迷惑をかける。
でも、無理だった。
離れるなんて無理だった。
だから、一つだけ、死ぬ前にやると決めた。
進藤さんの絵を完成させること。
俺はそれを描く途中に倒れてしまった。だから、スケッチブックを持ってきてもらって病院でその絵を完成させよう、そう考えたんだ。
俺が死ぬ前に。
俺に異変が、死ぬときが訪れたのは、残酷にも進藤さんと散歩をしてた時。
「優希斗さん!しっかりしてください!すいません!誰か!誰か来てください!」
「進藤さん……俺…絵…が……」
「無理しないでくださいね。今医師呼んでもらってますから。」
「絵……進藤さんに持ってきてもらったスケッチブックに……進藤さんの絵…を描いたんだ……。」
「私の…?」
「俺、ずっと絵ばかり描いてきたんだ。友達とかもいないし。進藤さんに、逢えてよかった」
俺は、最後の力を振り絞って、
「好きだよ…」
と、呟いた。
「私も……っく、ぅ……大好き…です、優希斗さん」
彼女が辛そうにしているなか、そんな彼女の頭を撫でようと手に力を込めたが、それすらも叶わず俺の意識は途切れた。
進藤さんは今も元気に友達と学校へ通っている。進藤さんはもう大学生になった。
時々、俺の事を思い出してるようだけど……。
大丈夫だよ、進藤さん。
俺はずっと、一緒にいるよ。
大好きだよ。
おかげさまで、完結。
というわけですが、最終話遅くなりました(汗)
最後まで読んでくださった皆さん!
本当にありがとうございました!
どうか、優希斗と南乃をハッピーエンドにしてやってください。