秘密裏潜入からのドタバタ劇場!
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
月光が、ひび割れたアスファルトと雑草に覆われた校庭を青白く照らしていた。
かつて子供たちの声が響いていたであろう木造の旧校舎は、今や無貌教団の手によって異様な通信基地へと改造されている。屋上からは、血管のようにうごめく黒いケーブルが地上へと伸び、その先にある巨大なパラボラアンテナが、夜空に向かって不気味なノイズを放っていた。
「……いい、作戦はこうよ。まずは哲人とタケルが、あの配電盤からシステムに侵入して通信を遮断。その隙にレオがデータを引っこ抜く。マックスは私の護衛兼、万が一の時の『盾』。いいわね?」
朝宮シャーロットが、茂みに隠したアウローラの影で、低く、しかし有無を言わせぬ口調で命じた。
「理事長、万が一の時じゃなくて、最初から俺が壁をブチ破って入りゃ早いんじゃないっすか?」
マックス(大林マックス)が、太い腕を鳴らしながら不満げに鼻を鳴らす。
「馬鹿ね、美学がないわよ。まずはスマートに、エレガントに。……さあ、行きなさい!」
哲人(緒妻哲人)は、タケル(タケル)と共に闇に紛れて校舎の裏手へと這い寄った。
「タケルさん、足元。赤外線センサーが仕掛けられてる。……でも、僕の作った『位相ズレ鏡面反射機』なら、数秒間だけ死角を作れるよ」
哲人が、古いカメラのレンズとプリズムを組み合わせて作った妙なガジェットを構えた。
「へぇ……。独学で光学兵器の原理を応用するなんて、やっぱりあんた、ただの発明マニアじゃないっすね」
タケルが、普段のドジな整備兵とは思えない鋭い目つきで哲人の手元を見つめた。その手には、レムリアの技術が結集された超小型のデータ解読端末が握られている。
「いまだ、走って!」
哲人がスイッチを入れると、目に見えない光の屈折がセンサーを欺いた。二人は音もなく、錆びついた非常口から校舎内へと滑り込んだ。
廊下は、カビ臭い空気と機械の焼けるような匂いが混ざり合っていた。教室の壁は取り払われ、そこには巨大なサーバーラックが並び、不気味な緑色のランプが明滅している。
「……あった。あれがメインの制御ユニットだ」
哲人が指差した先、かつての校長室があった場所には、教団の技術が詰め込まれた巨大な金属筐体が鎮座していた。
「よし、俺がハッキングを開始するっす。哲人くんは、その間に回路を物理的にショートさせる準備を……」
タケルが端末を接続しようとした、その時だった。
ビギィィィィィィィン!!
静寂を切り裂くような、鋭い電子音が校舎内に鳴り響いた。
「……ちっ! 物理的な重量センサーか! まんまと嵌められたっすね!」
タケルが叫ぶと同時に、天井のスピーカーからサイレンが吹き荒れた。
「侵入者だ! 殺せ! レムリアの器を確保せよ!」
廊下の左右から、異様なフルフェイスのヘルメットを被った教団の工作員たちが、一斉に武器を構えて雪崩れ込んできた。
「あーあ、だから言ったじゃないっすか! スマートなんて柄じゃないんだ!」
校舎の外から、凄まじい衝撃音が響いた。
ドガァァァァァァァンッ!!
廊下の壁が紙細工のように粉砕され、そこから巨大な「鉄の塊」——万能戦車アウローラが、マックスの咆哮と共に飛び込んできた。
「おらぁぁ! 待たせたな、ガキども! 掃除の時間だぜぇぇ!!」
マックスがハッチから身を乗り出し、手に持った巨大な鉄パイプを振り回しながら、教団の工作員たちを文字通りなぎ倒していく。
「マックス! 校舎を壊しすぎよ! 修理代をどこから出すと思ってるの!」
シャーロットが、揺れる車内から叫ぶ。
「理事長、今はそんなこと言ってる場合じゃないっす! ほらよっ!」
タケルが、いつの間にか奪い取っていた教団の小型爆弾を、迫り来る増援の足元へ正確に放り投げた。
「うわぁぁぁ!? タケルさん、危ないよ!」
哲人が憂(大神憂)を庇いながら叫ぶが、タケルはニヤリと笑って親指を立てた。
「哲人くん、今のうちにあのユニットをぶっ壊すっす! 叩いて直せるなら、叩いて壊すこともできるでしょ!」
「……やってやるよ! 僕のスパナは、壊す時だって一流なんだから!」
哲人は、殺到する工作員たちの間を縫うようにして駆け抜けた。アウローラが盾となり、マックスが暴れ、タケルが変幻自在な動きで敵を翻弄する。
その中心で、哲人は制御ユニットの正面に立った。
「……計算なんて、後回しだ! いけぇぇぇ!!」
哲人は愛用の巨大スパナを両手で握り締め、ユニットの最も脆弱な、エネルギーの循環部へと叩きつけた。
ガギィィィィィィィンッ!!
ユニットから青白い火花が噴き出し、校舎全体を揺るがすような過負荷の唸り声が上がった。
「やったか!?」
「いいえ、まだよ! 上から何か来るわ!」
憂が碧いペンダントを握りしめ、空を指差した。
天井を突き破って降臨したのは、教団がアウローラを倒すためだけに開発した、多脚型の対戦車自律兵器「デストロイヤー」だった。
「ひぇぇ! あんなの聞いてないっすよ!」
タケルが仰天しながらも、素早くアウローラの背面ハッチに飛び乗った。
「マックス、左だ! レオ、ホバーを全開にしろ! 哲人、憂さんを連れてこっちへ!」
アウローラの車内で、哲人は憂の手を強く握った。
「……大丈夫、憂さん。僕たちが、この闇を吹き飛ばしてあげる」
「はい……。哲人さんの力、信じています」
憂のペンダントが、哲人の勇気に呼応するように、かつてないほど激しい碧い光を放った。
「おらぁぁ! 鉄クズが! アウローラの意地を見せてやるぜ!」
マックスが全開でアクセルを踏み込む。
廃校の校舎を突き破り、アウローラと巨大な対戦車兵器は、月の砂漠へと転がり出た。
爆発する校舎を背に、時速百二十キロの死闘が、今、荒野で幕を開ける。
哲人のガジェット、マックスの怪力、タケルの技術、そして憂の光。
バラバラなはずの仲間たちが、一つの「家族」として、教団の最新兵器に立ち向かっていく。
最高の冒険は、硝煙と笑い声の中で、さらに熱く、激しく燃え上がっていくのだった
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




