タケルの正体!
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
地下ドックの厚いコンクリートを震わせる爆鳴。それは無貌教団が放った、地中貫通弾の衝撃だった。
「タケル! あんた、ただのドジじゃ済まされないわよ! この位置がバレたってことは、教団の連中に私の隠し財産を全部くれてやるようなもんじゃないの!」
朝宮シャーロットが、揺れる床を踏みしめながら、タケルの胸ぐらを掴み上げた。二十九歳の美貌は今や、獅子のような怒りに満ちている。
「あわわわ……理事長、勘弁してほしいっす! 違うんすよ、これはその……不可抗力っていうか、通信のハンドシェイクが勝手に――」
タケルは泳ぐ視線で言い訳を並べるが、その手には、財団の備品ではない、奇妙な意匠の施された小型端末が握られていた。
「レオ、言い訳は後よ! アウローラを出すわよ!」
「了解。ですが理事長、教団の飛行戦艦が直上に滞空しています。まともにハッチを開ければ、蜂の巣にされるのは目に見えている」
鳴門レオの冷静な指摘が、さらに焦りを加速させる。
「なら、道を作るまでよ! 哲人、あんたのそのスパナ、まだ出番はあるかしら?」
「もちろんだよ、シャーロットさん!」
緒妻哲人は、不安げな憂(大神憂)をアウローラの狭い操縦室へと押し込み、自らも跳ねるように乗り込んだ。
「憂さん、しっかり掴まってて。僕が……僕たちが、必ずこの光の下へ連れ出すから」
「……はい。哲人さんを、信じます」
憂が碧いペンダントを握りしめると、その石から微かな温もりが哲人の手のひらへと伝わってきた。それは「宇宙の真理」という重苦しい言葉ではなく、ただ一人の少女が寄せる、切実な信頼の証だった。
「おらぁ! 全員乗ったな! 舌を噛まねえように気合入れな!」
大林マックスがアクセルペダルを床まで踏み込む。アウローラのエンジンが、野獣の咆哮を上げて地下ドックに反響した。
万能戦車アウローラ。全長六メートル、幅三メートルの鉄塊が、ホバーユニットの青白い炎を噴き上げながら、急勾配の連絡通路を駆け上がる。
「タケル! あんたも乗るのよ! 捕まえてたっぷり吐かせてあげるんだから!」
「へいへい! 乗るっすよ、乗ればいいんでしょ!」
タケルは身軽な動きでアウローラの背面ハッチにしがみついた。その動きは、先ほどまでのドジな整備兵とは思えないほど、無駄がなく、洗練されていた。
アウローラが地上へ通じる緊急脱出口を突き破った瞬間、視界を埋め尽くしたのは、夜の闇を黄金色に焼き払う無数の照明弾だった。
上空には、全長百メートルはあろうかという教団の飛行戦艦が、巨大な黒い影となって居座っている。
「見つかったぜ! ど真ん中だ!」
マックスが叫ぶと同時に、飛行戦艦の側面に並んだレーザー砲塔が、一斉にアウローラへ狙いを定めた。
「レオ、シールド出力最大! 哲人、安定器を叩け!」
「了解! いっけぇぇぇ!!」
哲人が、火花を散らす制御ユニットに渾身のスパナを叩き込む。
ガギィィィィィンッ!!
アウローラの周囲に、目に見えるほどの磁気干渉波が展開された。直後、教団のレーザーが車体を掠めるが、干渉波によって屈折し、荒野の岩肌を爆破するに留まった。
「……計算通りだ。だが、次は防げない。マックス、三時方向の谷間へ滑り込め!」
レオの指示に従い、アウローラは時速百二十キロの猛スピードで蛇行を開始した。
「ちょっと、タケル! あんたさっきから何を弄ってるのよ!」
ハッチにしがみついているタケルが、懐から出した端末を激しく操作しているのを、シャーロットは見逃さなかった。
「あ、いや、これは……その、お守りっていうか……」
タケルの操作と共に、端末から不可視の思考波が空へと放たれた。
その瞬間だった。
雲を割り、教団の飛行戦艦の背後から、さらに巨大な、しかし流線型の美しいシルエットが姿を現した。
「……何だ、あの船は?」
哲人がモニター越しに目を見開く。
それは、教団の武骨な兵器とは一線を画す、深海魚のように優雅で、それでいて圧倒的な威圧感を放つ白銀の戦艦だった。
「まさか……『星舟』か……?」
レオが、その名を初めて口にした。
白銀の船体から放たれた一筋の光条が、教団の飛行戦艦のレーダーアンテナを正確に撃ち抜く。
「援護……? 僕たちを助けてくれてるのか?」
「……仲間、なんだな。アイツら」
マックスが、ハッチの外で必死に端末を隠そうとしているタケルの背中を睨みつけた。
「タケル。あんた、ただのドジじゃないわね」
シャーロットが、低い声で告げた。
「……バレちゃったっすか。まあ、今の通信で位置を教えちゃったのは事実っすけど」
タケルが、いつものおどけた表情を消し、真剣な眼差しで空を見上げた。
「俺の所属は、あんたたちとは少し違う。……あそこにいるのは、世界を救おうなんて大層なことを考えてる、お堅い連中っすよ」
その言葉が終わるか早いか、白銀の戦艦――星舟ノア・レムリアは、教団の追撃を遮るようにその巨大な船体を盾にし、アウローラの上空を通過した。
「あっちの船長は、俺以上に融通が利かない人でね。あんたたちのことも、いずれ調査対象にするはずだ。……でも」
タケルは、操縦席で憂を守るように踏ん張っている哲人の背中を見た。
「あの少年の『物理修理』は、うちの計算高い連中にも見せてやりたいっすよ。……さて、仕事に戻るっす!」
タケルは再び「ドジな整備兵」の仮面を被り、ハッチからアウローラの外装を叩き始めた。
「おい、何してやがる!」
「いやあ、弾痕が格好悪かったから、応急処置っすよ!」
アウローラは、星舟が作り出したわずかな隙を突き、教団の包囲網を突破した。
背後では二つの巨大な船が火花を散らし、夜空を昼間のように照らしている。
「……何が起きてるのか、全然わからない。でも」
哲人が、震える憂の手を握り直した。
「この碧宙の下には、僕たちが知らない、もっと大きな世界が広がっているんだ」
「哲人さん。わたし、怖くないです。この船の音と、哲人さんの手の温かさがあれば……どこまでも行ける気がします」
憂の微笑みが、戦車の冷たい車内に、確かな希望を灯した。
「さあ、相棒! このまま地平線の向こうまで突っ走るわよ!」
シャーロットの号令の下、アウローラは荒野を切り裂き、未知なる冒険の第二章へと向かって加速した。
タケルという「スパイ」を乗せ、星舟という「謎」を背負い、少年と少女の運命は、時速百二十キロの速度で、世界の深淵へと漕ぎ出していった
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




