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真説・碧宙の星々のレムリア -The First Story That Vanished-  作者: 久遠 魂録


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叩けば治る!

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

アウローラの狭い車内は、オイルの匂いと焼けた電子部品の香りが混ざり合い、逃走劇の興奮をそのまま煮詰めたような熱気に包まれていた。

「ちょっと、マックス! もっと丁寧に運転できないわけ!? 私の髪が台無しじゃないの!」

ハッチを閉め、真っ赤なシートにどっかと腰を下ろした朝宮シャーロットが、手鏡も見ずに自分の金髪をかき上げた。その声は、絶体絶命の窮地から脱した直後とは思えないほど堂々としている。

「無茶言わないでくださいよ、理事長! 背後からは教団のイカれ野郎どもがミサイルぶっ放してきてるんですよ!? 丁寧な運転なんてしてたら、今頃みんな仲良く墓石の下ですよ!」

操縦席で、丸太のような腕を忙しなく動かしているのはマックスだ。熱血漢という言葉をそのまま形にしたような男が、アウローラの巨大なレバーを力任せに引き絞る。そのたびに、車体は悲鳴のような駆動音を立てて荒野を跳ねた。

「マックス、計算上、今の回避機動は左に三度ずれている。衝撃に備えろ」

その隣で、無数のモニターが並ぶコンソールを淡々と操作しているのは鳴門レオだった。冷徹なまでの冷静さを崩さない彼の指先が、流れるような速さで複雑なキー入力を繰り返していく。

「そんな細かいこと言ってられるか! 全開だ、全開で行くぜぇぇ!!」

マックスがアクセルを踏み込むと、アウローラの背面に装備されたホバーユニットが青白い炎を噴き上げた。時速百二十キロ。荒野の砂塵が猛烈な勢いで後方へと去っていく。

そんな大人たちの怒号と機械音の嵐の中で、緒妻哲人は床に転がったまま、目を白黒させていた。その腕の中では、大神憂が小さく身を震わせている。

「……生きてる、よな? 僕たち」

哲人がようやく声を絞り出すと、隣に座っていたシャーロットが、形の良い唇を吊り上げて彼を見下ろした。

「当たり前じゃない。私が拾ったのよ、勝手に死なせるわけないでしょ」

「え、えっと……あ、ありがとう。……ございます?」

「敬語なんていいわよ、少年。私は朝宮シャーロット。この最高の万能戦車アウローラの持ち主であり、シャーロット財団の理事長。そっちの暑苦しいのがマックス、横のスカしたのがレオ。覚えなさい」

「暑苦しいとは失礼な! これが男のパッションですよ!」

「私はスカしているのではない。効率を重視しているだけだ」

マックスとレオが同時に言い返す。そのやり取りがあまりに息が合っていて、哲人は思わず吹き出しそうになった。

「僕は哲人。こっちは……憂さん。あの、シャーロットさん。どうして僕たちを?」

「決まってるじゃない。あなたの持っているそのセンサー、自作でしょ? なかなかのセンスだわ。それに、その子が持っているペンダント……ロストテクノロジーの結晶。あんなカルト教団に渡しておくには、あまりに惜しい宝物ですもの」

シャーロットの瞳に、冒険家特有の獲物を狙うような鋭い光が宿る。

その時、アウローラのコンソールから嫌な音が響いた。

ビーーーッ! ビーーーッ!

赤い警告灯が車内を不吉に照らす。

「おい、レオ! 何だこの音は!?」

「……どうやら、さっきの無理な突破で、ホバーの出力安定器に過負荷がかかったらしい。磁気回路が焼き付いている。このままだと出力がゼロになるぞ」

「なんだって!? 冗談じゃねえ、後ろにはまだ教団の車が張り付いてんだぞ!」

モニターには、砂塵を巻き上げて迫る教団の装甲車両が映し出されている。アウローラの速度がみるみるうちに落ちていく。

「くそっ、この大事な時に! レオ、どうにかしろ!」

「無理を言うな。この状況で回路のバイパスを手動で行うには、あと三つは手が足りない」

レオの冷静な声に、絶望的な響きが混じる。

その時、哲人が這いつくばるようにしてコンソールの下へと潜り込んだ。

「……これか! 磁気回路の同期ズレだ!」

「少年、何をする気だ!」

レオが制止するよりも早く、哲人は腰のバッグから大きなスパナを取り出した。

「あ、それ! 触っちゃダメよ、精密機械なんだから!」

シャーロットが叫ぶ。だが、哲人は確信に満ちた目で、火花を散らす安定器のユニットを見据えた。

「昔から、こういうのは『気合』が一番なんだ……! いけぇっ!」

哲人は全力で、その精密な金属筐体をスパナでぶん殴った。

ガキィィィィィンッ!!

凄まじい衝撃音が車内に響き渡る。

「バ、バカ野郎! 何てことしやがる!」

マックスが悲鳴を上げる。精密なロストテクノロジーを物理的な打撃で解決しようなど、正気の沙汰ではない。

だが、その瞬間。

シュゥゥゥゥ……。

不快な警告音が消え、代わりに力強い低音のハミングが車内に戻ってきた。モニターの警告灯が次々と緑色に変わっていく。

「……治った?」

マックスが呆然と呟く。

「回路の接触不良を、物理的振動で強制的に同期させたのか……? ありえない確率だが……」

レオが眼鏡を押し上げ、信じられないものを見る目で哲人とコンソールを交互に見た。

「ほら、やっぱり! 僕の発明も、だいたいこれで治るんだ!」

哲人が得意げにスパナを回すと、憂が隣で「ぷっ」と小さく吹き出した。

「哲人さん、すごいです……」

「だろ? 憂さん、見ててよ。僕たちが絶対に逃げ切って見せるから!」

「あはははは! 気に入ったわ、少年! あなた、最高にイカれてるわね!」

シャーロットが膝を打って高笑いする。

「マックス! 治ったんだから出し惜しみしなさいな! 教団の連中に、アウローラの本当の脚を見せてやりなさい!」

「合点承知だぜ、理事長! おらぁ、しっかり掴まってな! 胃袋をひっくり返されても知らねえぞ!」

アウローラが再び咆哮を上げた。

砂漠の地平線に向かって、鉄の獣が猛然と加速する。

背後で教団の車両が放ったミサイルが空しく荒野を爆ぜさせたが、アウローラは既にその爆風の届かない場所まで駆け抜けていた。

「ねえ、哲人。……これ、本当に冒険なのね」

憂が、流れる景色を見つめながら静かに呟いた。

「そうだよ。始まったばかりの、最高の冒険だ!」

哲人の言葉に応えるように、碧宙を突き抜ける風がアウローラの車体を揺らした。

オイルの匂いと笑い声。そして、未知なる明日への期待。

少年と少女を乗せた戦車は、追跡者の影を振り切り、さらにその先へと突き進んでいく。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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