【第一部】ドタバタは突然やってくる!
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「よし……反応あり! 今度こそ、今度こそビンゴだ!」
佐賀県、吉野ヶ里遺跡のさらに奥深く、地図にも載っていない未踏の丘陵地帯。切り立った岩肌の狭間で、緒妻哲人は歓喜の声を上げた。
彼の手にあるのは、廃家電のパーツとジャンクの基板を組み合わせて作り上げた自作の「高周波磁気センサー・プロトタイプ第4号」だ。その液晶画面には、自然界ではありえない規則的な波形が踊り、激しく電子音を鳴らしている。
「この空気の揺れ……間違いない。この岩肌の向こうに、巨大な人工的空洞がある。僕の発明が、ついに都市伝説の扉をこじ開けたんだ!」
哲人は、背負ったリュックの中でスパナやドライバーがカチャカチャと音を立てるのも構わず、前のめりなエネルギーのままに岩の隙間へと身体をねじ込んだ。
14歳の少年としては人並み外れた機械への執着と、未知のものへの飽くなき好奇心。それが哲人の原動力だ。冷たい湿気を帯びた岩の産道を抜けた先、彼の眼前に広がったのは、およそ現代の土木技術では説明のつかない巨大な石の神殿だった。
天井からは、電源も配線も見当たらない未知の発光体が、淡く、それでいて力強い碧い光を放っている。
「すごい……。何千年も前の遺跡のはずなのに、このエネルギー反応は何なんだ?」
哲人は息を呑み、足を踏み出した。神殿の中央、静謐な空気が満ちる台座の上には、一人の少女が横たわっていた。
彼女は、まるで時間が止まったかのように深く、穏やかな眠りについている。そしてその胸元には、神殿全体に満ちる光の源であるかのような、深く澄んだ碧いペンダントが輝いていた。
「……きれいだ。これ、本物のロストテクノロジーか?」
哲人が、吸い寄せられるようにそのペンダントへ手を伸ばそうとした、その時だった。
少女――大神憂が、ゆっくりと、その瞼を持ち上げた。
夜空をそのまま写し取ったような深く透き通った瞳が、困惑したように哲人を捉える。
「……ここは?」
その声は、鈴の音のように澄んでいた。
「あ、えっと! 僕は哲人。怪しい者じゃなくて……いや、調査に来たんだけど、君を助けにきたっていうか!」
哲人は慌てて手を引っ込め、顔を赤くしながらまくし立てた。
「哲人……さん?」
憂がゆっくりと身体を起こした、その瞬間だった。
ゴオォォォンッ!!
神殿全体を揺るがすような、凄まじい衝撃音が響き渡った。天井からパラパラと土砂が降り注ぎ、哲人は反射的に憂の肩を抱き寄せた。
「何だ!? 地震か!?」
「いいえ、これは……“欲”の足音」
憂が短く告げた直後、背後の通路から複数の影が猛烈な勢いで飛び込んできた。
灰色のローブを纏い、顔を奇妙な仮面で隠した集団。無貌教団の襲撃部隊だ。彼らは手にした異形の重火器を哲人たちへ向け、冷酷な声を響かせる。
「見つけたぞ、レムリアの器! そのペンダントを渡してもらおうか!」
「な、なんだよ君たち! 誰の許可でこんな歴史的遺産を荒らしてるんだ!」
哲人は恐怖を怒りで塗りつぶし、憂の前に立ちはだかった。彼は腰の工具袋に手を突っ込み、未完成の「高光度・広帯域閃光音響弾」を掴み取った。
「僕の、とっておきの発明を食らえ!」
「やめろ、ガキが何を――」
教団の兵士が引き金に指をかけた瞬間、哲人は全力でその黒い塊を床に叩きつけた。
カッ!!
神殿の碧い光をかき消すほどの強烈な閃光と、鼓膜を突き刺すような爆音。
「うわあああっ! 目が、目が潰れる!」
「今のうちに! 憂さん、こっちだ!」
哲人は混乱する兵士たちを尻目に、憂の手を強く握りしめた。彼女の手は驚くほど冷たく、そして小さかった。二人は崩れかける通路へと必死に駆け出した。
だが、無貌教団は甘くはなかった。視界を奪われながらも、彼らは背後から異形の浮遊機械を放つ。それは機械仕掛けの猟犬のように、鋭い駆動音を立てながら哲人たちの背中を追い詰めていく。
「くそっ、しつこいな! 逃げ道が……行き止まりか!?」
通路の先は、先ほどの衝撃で崩落した巨岩によって塞がれていた。背後からは無数のライトが迫り、教団の包囲網が狭まっていく。
その時だった。
ドガァァァァァァァンッ!!
頭上の岩盤が、内側からの爆発ではなく、外側からの凄まじい「物理的な衝撃」によって粉砕された。
「――ちょっと、そこどきなさいな! 私の道を塞ぐんじゃないわよ!」
降り注ぐ土砂と煙の中から響いたのは、凛とした、そしてあまりにも尊大な女性の高笑いだった。
煙を切り裂いて降臨したのは、丸みを帯びた重厚な鉄の塊。多脚駆動とキャタピラを併せ持つ、シャーロット財団の誇る万能戦車アウローラだ。
そのハッチから身を乗り出したのは、真っ赤なジャケットを羽織り、金髪をなびかせた美女、朝宮シャーロットだった。
「あら、可愛い少年と少女じゃない。レオ、マックス! ついでに拾ってあげなさい!」
「理事長、毎度毎度、無茶苦茶ですよ!」
操縦席から聞こえるのは、冷静だが呆れ果てた様子のレオの声。
「おらぁぁ! どかねえ奴は、このアウローラ様が挽き肉にしてやるぜ!」
そして、雄叫びと共にレバーを叩くマックスの熱い声。
アウローラは着地の衝撃で教団の浮遊機械を文字通り圧殺し、哲人たちの目の前で急停車した。
「乗りな、若人! ここからは時速120キロの世界だぜ!」
マックスが力任せにサイドハッチを跳ね上げる。哲人は躊躇わなかった。彼は憂を抱え込むようにして、オイルと金属の匂いが充満するアウローラの車内へと飛び込んだ。
ハッチが閉まると同時に、アウローラはホバーユニットを最大出力で噴射。遺跡の壁を、まるで紙細工のように突き破り、外の世界へと躍り出た。
「……私、どうなるの?」
激しく揺れる車内、不安げにペンダントを握りしめる憂に、哲人は全力の笑顔で答えた。
「大丈夫! 理由は後で考えよう。今は――この冒険を楽しもうよ!」
追跡してくる教団の装甲車を、アウローラは泥と砂塵を跳ね飛ばしながら、圧倒的な加速力で引き離していく。
夕日に染まり始めた碧宙の下、少年と少女を乗せた鉄の獅子は、運命を切り裂いて走り続ける。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




