戦場の雨宿り
砲台が火を吹く。
地煙が舞い、炸裂音が鼓膜を揺らす。
ここは戦場。
十年以上続く戦地にて、若い新兵がライフルを持って駆け回る。
「今日も雨か」
乱れた戦場。
崩落した瓦礫ばかりが積もる地で、男は雨宿りの場所を探していた。
戦場で男は一軒の駄菓子屋を見つけた。
そこは男が子供の頃に通っていた駄菓子屋であり、現在では半壊している。
中には散乱した駄菓子、それを見て男は懐かしさに笑みをこぼす。
だが安堵の笑みはすぐに消えた。
後頭部に銃口を向けられ、男はすぐに銃を落とした。
思い出の場所で死ねるなら本望。
そう思い、両手を挙げた男だった。
が、背後にいたその人物は銃を下ろした。
「どういうつもりだ」
「雨宿り中は停戦だろ」
男は振り返る。
背後にいたのはやはり敵兵だった。
彼女を見て、男はある少女を思い出す。
「駄菓子でも食べるか」
「食べるはずないだろ」
「そうか」
男の横で、女は淡々と駄菓子を食べる。
「まだ戦争が始まる前、私はこの駄菓子屋をよく訪れていた。だから懐かしくてな」
女は淡々と話し、男は黙って話を聞き続けた。
雨がやむと、女は駄菓子屋を飛び出した。
女が去っていく後ろ姿を、男はいつまでも見つめていた。
数日後、また雨が降る。
男は別の雨宿り場所を見つけていたが、雨の中を突っ走り、駄菓子屋へ向かった。
中には既に彼女がいた。
「やっと来たか。少年」
男は黙って腰を落とし、駄菓子を手に取った。
二人は雨の中、駄菓子を静かに食べる。
敵兵と二人きりの密室だったが、男の緊張感は既になくなっていた。
それからも雨が降る度に、同じ光景が繰り返された。
だがいつまでも続かなかった。
終戦へ向け、戦地での攻防が激化していく。
既に男の陣営は勝利を間近に控えており、進軍を進めていた。
激しい戦場で、男は引き金を引き続ける。
やがて敵兵士の一人を撃った。
男はとどめを刺すために足早に近づく。
だがその足は近づくにつれゆっくりと、しまいには足を止めてしまった。
快晴の空の下で、ポツンと一滴の粒が落ちた。
いずれこうなることは分かっていた。
いざその時が来れば、それを簡単には受け入れられない。
それでも戦わなければいけない。
男は曇った視界で敵兵の心臓を捉えた。
思い出すのは初恋の記憶。
少年時代、あの駄菓子屋で、男は見知らぬ少女に恋をした。
「…………」
言葉は出なかった。
銃声とともに、初恋は終わりを告げた。




