05.離別
「ごめんなー、やっぱりリヴェのペアは俺だから!」
リヴェを誘った土属性のクラスメイトに明るく断りを入れたディアスは、リヴェの肩に腕を回した。
いつもなら「近い」「やめろ」と逃げるリヴェが、それを受け入れている。
先ほどの逃避行も相まって、教室の中はざわめいた。
「なんかあいつら、怪しくないか?」
「ついに“リヴェちゃん”落ちちゃったかぁ……」
女とバレていなくとも、線の細いリヴェをそういう目で見る輩がいるのを知っていたディアスは、声の主をギロリと睨みつけ、黙らせた。
それからも、学院内ではたびたび冷やかされることがあった。
「おい。お前ら、また一緒にいるのか?」
「男同士でお熱いねー」
そんな揶揄いの声も、覚悟を決めたふたりにとってはただの雑音に過ぎない。
「今さら何言ってんだか。俺とリヴェの熱い友情は今に始まったことじゃないぞ。ペアは仲が良いほど強くなれるんだ。なぁ、リヴェ」
「ああ、相性は大事だ。お前らも自分のペアとの関係、見直すといいぞ」
余裕の笑みを見せながら、軽口として返すふたりの息はぴたりと合っていた。実際、彼らの実力に敵う者など学院中どこにもいないのは確かだったので、表立って野次る者は早々に消えた。
「リヴェ、行くぞ」
「うん、ディアス」
日常でも実習でも、ふたりはいつも共にいた。傍にいるだけで魔力が自然に響き合う。些細な言葉のやり取りの中に、互いへの信頼が滲んだ。居心地のいい関係はこれからも続いていくと、ふたりはそう信じていた。
✽
3年生後期、秋の日のことだった。
収穫期を目前に控えた学院近くの農村に、熊に似た魔獣──マッドグリズリーの群れが現れたとの急報が入った。
国家魔導士が到着するまでの足止めとして、学院の優秀な生徒たちが緊急招集された。
現場に着くと、褐色の巨体が畑を踏み荒らし、地を揺るがす咆哮を上げていた。鋭い爪が柵を粉砕し、近くの水車小屋はすでに半壊している。
「クソ、斬撃魔法が通らない!」
先陣の攻撃は厚い毛皮に弾かれ、火花だけが散った。
「ディアス、合わせるぞ」
「ああ、やってやる」
真剣な目をしたリヴェと、舌なめずりしたディアスは手を重ね、魔力を一点に集中させる。
光と炎が渦を巻き、眩い閃光がマッドグリズリーを包んだ。激しい爆撃に群れの半数が倒れ、怯んだ個体には監督官の号令で他の生徒たちが拘束魔法を畳みかける。
4分の3ほどを退けた頃、後方から悲鳴が上がった。
「うわぁ、誰か!」
「下がって!」
リヴェは振り返るなり光の障壁を展開し、仲間を守った。
その背後から別のマッドグリズリーが迫り、鋭い爪を振り下ろす。
間一髪で身をひねり、直撃を避けたリヴェは、歯を食いしばって閃光弾を連射した。
体を貫かれた巨体は次々と地に伏し、戦闘不能に追いやられる。
敵影が消えたのを確かめると、リヴェは仲間の元へ駆け寄り、倒れていた数人に手を翳した。
「大丈夫、すぐ治すから」
治癒魔法で彼らの負傷を癒やすと、ようやくホッと息をつく。
だがそこで遠巻きに見ていた村人たちの、泣き崩れる声が耳に刺さった。
「俺の畑が……」「全部めちゃくちゃだわ!」
視線の先には、荒れ果てた畑と崩れた水車小屋が広がっている。
リヴェは唇を噛みしめ、再び両手を掲げた。
体内の魔力をかき集め、高度な再生魔法で農村を復元していく。
「……はあ……ッ、まだ……行け!!」
そこへ、魔獣の死骸を焼き終えたディアスが戻って来て、青白い顔をしたリヴェを見て叫んだ。
「リヴェ! もうやめろ、無茶だ!」
「ディアス……」
ディアスに向かって微笑んだリヴェは、すっかり村を修復すると、ガクリと膝から崩れ落ちた。
「おい、リヴェ!」
ディアスが抱きとめた瞬間、リヴェの意識は途切れた。完全な魔力切れだった。
その横で、生徒たちと監督官が息を呑む。
「女……!」
「女だ……」
幻惑が解け、裂けたプロテクターから白い膨らみが覗く。驚愕が現場を走った。ディアスは慌てて自分の上着を脱ぎ、リヴェにかける。
「見るな! ……頼む、黙っててくれ!」
鋭い声で周囲を制し、懇願を繰り返したが、監督官は苦悩を滲ませた表情で首を振った。
「フローレスのおかげで、被害はほぼなかったといえる。だが規則は規則だ」
「待って下さい、こいつがいなきゃ──」
「わかっている。だが国の掟なんだ。見てみぬふりは出来ない」
短い言葉が冷たく響く。
リヴェは、マッドグリズリー討伐のためにやってきた国家魔道士たちに取り押さえられ、虚ろな意識のまま魔力封じの塔へと連行された。




