表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男装した“災厄の少女”は、秘密を知った熱血ライバルに溺愛される  作者: 矢井瀬 月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/8

04.告白


「……お前、なんで……胸──」


 その言葉を最後に、ディアスは何かを飲み込むように顔を歪め、踵を返して駆け去った。

 リヴェは伸ばしかけた手を宙に残したまま、ただ呆然と立ち尽くす。


(ディアスに知られた──嫌われる。せっかく親友だって言ってくれたのに……)


 喉の奥がぐっと詰まり、苦いものが込み上げる。


(それより……まずい。誰かに話されたら)


 気を許しすぎたツケが回ってきたのだ。

 リヴェの魔力に耐性のできたディアスにはもう、リヴェの施す状態異常の類は一切効かないだろう。


 あの、事実を見たときの歪んだ表情が、瞼に焼き付いて離れない。


 誰かに知られるかもしれない恐怖と、ディアスの顔が脳裏にちらつく苦しさに、その夜、リヴェは一睡もできなかった。



 翌朝。

 目の下に隈を作ったリヴェと、普段の溌剌さを欠いたディアスに、班員たちは首を傾げた。


「フローレス……大丈夫か?」

「ディアスも、どうしたんだよ?」


「別に……」


 そう答える、ふたりの表情は硬い。

 リヴェの体調を心配した班員のひとりが、戦闘の指揮を代わろうと申し出た。

 判断力の低下を自覚していたリヴェは、その提案をありがたく受け入れた。


 森を進む足取りは、湿った落ち葉を踏むたびにかすかな音を立てた。

 仲間と歩調が合わなくなったふたりは、いつしかその列から少し離れていた。

 沈黙が重く伸びるなか、ひりつく胸を押さえつつ、口止めを頼もうとリヴェが深く息を吸った、その時だった。ディアスが、低い声で呟いた。


「……誰にも言わねぇ。安心しろ」


 リヴェは目を見開き、ディアスを見つめる。

 一度詰めた息をゆっくりと吐き、リヴェは安堵の笑みを浮かべた。


「……ありがとう」


 ディアスはリヴェの笑顔を見てほんの一瞬固まると、痛みをかみ殺すように目を伏せた。


「でも、ごめん。お前と、どう接していいか……わかんなくなっちまった」


 早足になったディアスの背を追うことが出来ず、リヴェはひとり、立ち止まった。

 足が動かない。瞳の奥が熱い。

 苦しくて、苦しくて、堪らず嗚咽が漏れた。


(そうか……オレ、ずっとディアスが好きだったんだ……)



 実習期間中も、その後の日々も、ディアスは陰ながらリヴェが女性と悟られないよう、さりげなく気を配ってくれていた。

 それに気がついていても、お礼が出来ない。声をかけようとすると、ディアスはくるりと踵を返してしまうのだ。彼の背を見るたびに、リヴェの胸はギシギシと痛んだ。


 数日後、ペア実習の日を迎えた。

 悩みを抱えたまま、リヴェは教室の隅でひとり、弁当箱を片付けていた。

 ディアスに避けられている以上、別のペアを探さなくてはならない。けれど相性が良すぎれば、彼のときのように幻惑が効かなくなるかもしれない。

 どうしようもない不安と寂しさが、リヴェの心を覆っていた。


 そのとき。


「なあ、フローレス」

 学外演習で同じ班だったクラスメイトが近づいてきた。

「いっつもディアスと一緒だったから声かけられなかったんだけど、コツとか色々教えてほしかったんだ。アイツと仲違いしたならさ、今日から俺とペア組まない?」


 彼の魔力はそれほど強くなく、リヴェの光とは混ざりにくい土属性だ。


「うん、いいよ」


 安堵して彼と握手をしようとリヴェが差し出した手を、横から別の手が(さら)う。


──慣れ親しんだ、温かく力強い掌。


「ダメだ! リヴェは俺の……ッ」


 咄嗟の大声に教室が一瞬、静まり返った。

 注目の視線に気づいたディアスの顔が、かあっと赤く染まる。


「……来い」


 ディアスはリヴェの手をぐいと引き、そのまま駆け出した。



 辿り着いたのは学院の屋上。

 昼下がりの空が、雲ひとつなく広がっている。


「ディアス?」


 リヴェが名を呼ぶと、自分たちがまだ手をつないだままでいることに気づき、ディアスは慌てて手を放した。


「わ、悪い」


 真っ赤な顔を肘で隠しながら、ディアスは言葉を搾り出す。


「俺、妙に意識してさ。ずっとお前を男だと思ってたから……ベタベタ触りすぎたよな、とか。気持ち悪かったならどうしよう、とか。お前に散々近いって言われてたのに、やめなくて悪かったなって」


 リヴェはぶんぶんと首を横に振った。


「気持ち悪いなんて思ってない! ディアスといるの、楽しかったから」


「……そっか、よかった」

 ディアスは息を吐き、真剣な瞳を向けてくる。


「俺……リヴェとのペア、誰にも譲りたくない。魔力が混ざる瞬間とか、すげぇ心地いいし。あれをリヴェが他のヤツとやるなんて、考えただけでムカムカする」


 真っ直ぐに射抜くような視線がリヴェを捉えた。


「俺、多分……いや、絶対。お前が好きだ。先に言っとくけど、性別知ったのがキッカケになっただけで、女なら誰でもいいとかじゃないぜ。リヴェだから好きなんだ」


 そう告げたあと、思い出したように慌てて両手を振る。


「あっでも、別に今すぐどうこうってわけじゃない! 秘密も守るし、ただ……ペアだけは解消したくないってこと、リヴェに知っといてほしくて」


 また顔を赤らめて、忙しなく立ち去ろうとするディアスの上着の裾を、リヴェは慌てて掴んだ。


「待ってよ。オレもディアスが好きなんだけど!」


 振り返ったディアスの瞳が大きく開かれる。


「嘘だろ? なんで」

「なんでって……、あんなベタベタされて意識せずにいられると思う? オレこそ聞きたいよ。なんで? 女の魔導士なんて厄介でしかないよ」


「それさ……よく今までバレずに来れたよな。こんなかわいくて。とか言ってる俺も気づかなかったんだけど」

「かわい、ってどこが……女らしいところなんて、ひとつもないのに」


「かわいいとこなんて、いっぱいあるだろ。

 小さくてかわいい。白金色(プラチナブロンド)の髪がサラサラでかわいい。まんまるの目がかわいい。金色が、俺と一緒で嬉しい。

 俺がくっつくと赤くなって逃げるところがかわいい。人に頼らずに生きていこうと頑張ってるところが、健気でかわいい。勉強も実技も手を抜かないところが、尊敬できてかわいい。っていうか、何しててもかわいいしかない」


 自分の“かわいいところ”を挙げ続けるディアスが見ていられない。

 嬉しいのに恥ずかしくて、リヴェは、顔を覆ってへたり込んだ。


「ほら、そういうとこ。そのままのリヴェがいい。お前はかわいいよ」


 目の前にしゃがんだディアスに手を取られ、頬に熱がこみ上げる。


「でも、オレとじゃ普通の人生を送れない」

「お前となら、周りに一生“男色”って揶揄(からか)われても構わねぇよ」


 絡めあった指に魔力が混ざる。その心地よさにリヴェがうっとりと目を細めると、同じように蕩けた瞳が近づいてきた。


 ちゅ、と軽く唇が触れ合っただけで優しく甘く、いつもよりも濃密に魔力が溶け合う。そのあまりの多幸感に、始業開始のチャイムがなるまで、ふたりはしばらく唇を重ね合った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ