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男装した“災厄の少女”は、秘密を知った熱血ライバルに溺愛される  作者: 矢井瀬 月


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03.第3学年、ディアスにバレた


 新年度。クラス発表の掲示板の前で、ディアスは大声を上げた。


「よっしゃ、リヴェ! 同じクラスだ!」


 そのまま赤い髪を弾ませて、勢いよくリヴェに抱きついてくる。


「……離れろ。暑苦しい」

「いいだろ、嬉しいんだから!」


 周囲の視線がちらほらと集まる。

 リヴェは軽く肩を押し返しながらも、強引な腕の力に抗えず、なぜか顔が火照るのを必死に隠した。


「けどさー、お前こんな小さかったっけ?」


 入学時には5cm程だった身長差も、今では20cm以上開いている。顔を覗き込もうとするディアスを、リヴェはギロッと睨んで思い切り押し退けた。


「小っさい言うな! お前がッ、デカくなったんだろうが!!」


 顔を真っ赤にして怒るリヴェを見て、そういえばこれがリヴェのコンプレックスなのだと思い出したディアスは、「ごめんって」と手を合わせた。


「これ以上言ったら、またお前のこと“爆炎の覇者”って呼んでやる」

「ぎゃっ! リヴェ様ごめんなさい、本当にすみませんでした。俺の黒歴史をどうぞその記憶から消し去ってください」


 ディアスは羞恥に顔を覆い、かつて自称した二つ名を闇に葬るべく、必死にリヴェへと許しを請うのだった。



 3年生では都近郊の森を舞台に、大規模な学外演習が行われる。

 簡易な宿泊施設こそあるが、その他は実戦さながらの環境で、班ごとに魔獣討伐をこなす。学院生活でも最大の試練だ。 


 学院は実戦経験を重視しており、この演習は最終試験の一部として成績にも直結する。個人的な理由での辞退はまず認められない。

 もし休めば、教師だけでなく医師への報告までもが必要となる。詮索されては面倒だ。


(2泊3日。……入浴もあるのか、どう凌ごう)


 着替えだけなら幻惑の魔法でなんとかなる。とはいえ、今まで以上に神経を尖らせねばならない。


(……大丈夫。これまでだって問題なかったんだ。絶対に隠し通す)


 腹を括ったリヴェは、作戦会議で迷わず班長に立候補した。



「まさかリヴェが立候補するなんてなー! 面倒臭がると思ってたのに、意外だわ」


 集会所を出て森へ向かう道すがら、ディアスが楽しげに声を弾ませた。朝日を反射した赤い髪が、さらに鮮やかに見える。


「たまには、いいとこ見せたくなったんだよ」

 リヴェは淡々と答え、歩調を崩さずに進む。


「リヴェが仕切るなら安心だな。俺も頑張る!」

「……張り切りすぎて失敗しなきゃいいけど」


 リヴェの言葉に、ディアスは「おっと」と肩をすくめて笑った。


「そういや、班長って夜の見回りとかもやるんだろ? 俺もつきあうからさ」

「必要ない」

「いやいや、一緒にやった方が絶対良いって。他の班のヤツも2人でするって言ってたぞ。心配するな、ちゃんと真面目にやる」


 夜の見回りは一人になれる貴重な時間だ。入浴も着替えもそこで済ませようと思っていた。

 リヴェはわずかに息を吐く。


「お前は体力蓄えとけ。必要になったら呼ぶから」

「んー……仕方ねえな。絶対だぞ?」


 ディアスは不服そうに唇を尖らせると、リヴェの背を軽く叩いた。


 それで納得したと思ったのが、間違いだったのだ。



 演習初日は、想定していたよりも上位の魔獣が現れた。けれどリヴェの指揮で危なげなく討伐を終えた班員たちは、焚き火を囲んで簡素な夕食を済ませると、浴場へ向かう準備を始めた。


「リヴェは来ないのか?」

 ディアスに声をかけられる。


「夜回りでまた汚れる。後で入るよ」

 リヴェは火の周りを片付けながら答えた。

 傍で聞いていた他の班員たちが納得したように頷く。


「ああ、確かに」

「ありがとうな、班長。今日は助かった」

「ディアスとの複合魔法、かっこよかったぜ」


 そう言って彼らは笑いながら、湯気の立つ簡易浴場へ消えていった。

 リヴェはそれを見送ると、深く息を吐く。

 すべては計画通りだ。


 班員が部屋に戻ったのを見計らい、夜回りを軽く済ませたリヴェは、探索中に見つけた湧き水で身体を拭くことにした。浴場は他の班や教師も使う。余計な目を避けるにはここが最適だろう。


 上半身をはだけ、胸のプロテクターを外した、そのとき。


「──リヴェ、そこか?」


 背後で、枝を踏む音がした。

 振り返ると、月明かりに赤い髪が浮かび上がっていた。


「ディ、アス……!?」

 喉がひゅっと鳴り、声が掠れる。


「やっぱり夜回り、ひとりじゃ大変だと思って。……何で服脱いでんだ、怪我でもしたのか?」

 純粋に、ただリヴェを気遣う声音で近寄ってくる。


「待っ──、来るなッ!」

 リヴェは慌てて胸元に衣服を掻き寄せようとして、幻惑の存在を思い出す。下手に隠せば不自然だ。

 恥ずかしさを押し殺し、背を向ける角度に変えてディアスの正面を避けた。

 

「戻れ。オレは平気だから」

 いつもの低い声で告げながら、リヴェは早鐘を打つ心臓を必死に抑えた。


(落ち着け。幻惑の術式はちゃんと展開できてる。男の姿に見えている、はず……)


 だがディアスは、リヴェがはっきりと見える場所までやって来ると、眉をひそめた。

「……なんだここ。お前の魔力が揺らいでる」


 ディアスがリヴェの領域に踏み込んだ途端、互いの魔力が混ざり始めた。

 昼の戦闘でも混和した名残か、共鳴が早く、ふたりの境界が一気に溶ける。


(もしかして、幻惑が無効化された──!?)


 それに気づいたリヴェはぎくりと身を強張らせた。

 そして同時に、ディアスの瞳が大きく見開かれる。


「……お前、なんで……胸──」


 風がザァッと木の葉を巻き上げた。

 リヴェの心臓が、鼓膜に響くほど、激しく鳴った。



身体検査は流れ作業なので、幻惑とプロテクターでごまかせています。みんなには程々に男らしく見えているけど、ディアスは耐性がつくにつれ、徐々に女性っぽく見えはじめています。(という裏設定)


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