02.第2学年、魔力を混ぜる
2年生のはじめ。掲示されたクラス表を見て、ふたりは手を叩きあった。そして同じクラスになったディアスは、当然のようにリヴェの隣に居座り、毎日勝負を仕掛けてきた。
「おいリヴェ、今日も勝負だ!」
「いや、明日座学のテストあるじゃん」
「勝負して、鍛錬してからでも勉強できるだろ?」
「……バケモノかよ」
イヒヒと笑ったディアスは、リヴェの肩に腕を回して演習場に誘う。余りの至近距離に、リヴェは思わず身を引いた。
「ホントに行くのか? ちょ、近いって」
「これくらい普通じゃね? 俺とお前の仲だろ」
「どんな仲だよ」
「ライバルで親友。これ以上の絆があるか?」
(親友……か……)
ムズムズと全身が痒くなるような心地に包まれる。
ディアスの無邪気な笑い声は、いつもリヴェの心を軽くした。距離感の近いディアスに、頭をくしゃりと掻き回されるたび、リヴェは何だか照れ臭い気持ちになった。この時はただ純粋に、“親友”という言葉を喜ぶ自分がいた。
2年生前期の魔法実習では、ペアでの訓練が始まった。
異なる属性の者と手を重ね、魔力を混ぜる。相性が良いと新たな魔法が生まれ、それぞれが単独で扱う術よりも大きな力が引き出せるという。
「なあなあ。俺たち火と光だし、絶対相性いいぜ!」
講師の話を聞きながら、ディアスはリヴェの耳元で囁く。吐息がこそばゆくて首をすくめるリヴェを見ると、その反応が面白かったのか、ディアスは講師の目を盗んで、小さく笑った。
相手が自由に選べると聞くやいなや、当然のようにふたりはペアを組んだ。説明を受けた通りにいそいそと魔力を練った手を重ねると、バチリと大きな音が鳴り響く。炎の赤と光の白が渦を巻いて金色に纏まり、ふたりの体をふんわりと覆った。
「……わっ」
魔力がゆっくりと、互いの身体に染みていく。未知の心地よさに、リヴェは思わず吐息を零した。ディアスの身体はぽわっと光が灯ったように温かくなって、彼は興奮気味にリヴェを見た。
「おお、うまく混ざったっぽいな! ……リヴェ」
リヴェは、こんなに綺麗だっただろうか。
その横顔が、何だかいつもと違って見えて、ディアスはリヴェに見惚れそうになる頭をぶんぶんと振り、気を取り直して声をかけた。
「すげぇな、何かめちゃくちゃあったかくて気持ち良い。これって相性いいってことかな?」
手のひらから伝わる温もりが、じわじわと高揚感を引き上げる。リヴェも「だといいな」と頷いた。
「てか、お前……手ぇ小っさくね?」
男らしく見えるよう幻惑をかけていても、違和感をもって触れれば本来の形が分かってしまう。ディアスは、むぎゅむぎゅと確認するようにリヴェの手を握った。
焦りに加え、説明のつかない心拍数の上昇に、リヴェは慌てて熱くなった掌を振り払った。
「やめろ、ッ」
「あっ、悪ぃ。気にしてた?」
「……そうだよ。女みたいとか考えてたんなら許さないからな」
コンプレックスを装うリヴェに、ディアスは気まずそうに眉を下げた。
「ごめんって。もう二度と思わねぇから」
「……思ったのかよ」
「だってお前、魔力混ぜてから妙に色っぽ……、いや嘘! 謝るから、これ特訓しようぜ。馴染んだら馴染んだだけ、術の発動が速くなるって先生言ってたし」
(もしかして……これ以上、気を許したら危ないんじゃ……)
胸の奥で、小さく軋むような不安が芽を出す。
手に違和感を持たれてしまった。こんなふうに、また女の要素に気が付かれてしまえば終わりだ。それでもリヴェは、ディアスの手を離したくなかった。
結局、リヴェは流されるように、彼と長い時間を共にした。
ある日の特訓後、ディアスはリヴェと肩を並べて歩きながら、ふと笑顔で言った。
「慣れてきてさ、どんどん強くなってく実感あって楽しいな。俺、リヴェと魔力混ぜるの好きだ」
「……そうだね。オレも……割と」
本当は“割と”どころじゃなかったが、何となく気恥ずかしくてリヴェは言葉を濁した。足りないものを補い合い、互いを高めあっているかのような充足感に満たされるのだ。心地よすぎて、ずっと混ぜ合っていたいと願ってしまうほどに──。
こうしてリヴェとディアスの絆は、日々の些細なやり取りや訓練を通して、確かに深まっていった。
✽
2年生の終わり、訓練を重ねたふたりは、手を合わせずとも傍に寄るだけで微量の魔力を混ぜることが出来るようになっていた。
生み出した光と炎の複合魔法が10を超えたころ、ディアスが嬉しそうに笑って言った。
「やっぱ、相性バッチリだな!」
「……まあまあかな」
「照れ隠しすんなって。3年も同じクラスになれたらさ、学外演習で班組もうぜ。そしたら俺たちが、ぶっちぎりだ!」
無邪気な笑顔が、まっすぐに胸を刺す。
リヴェはただ、曖昧に笑って頷いた。
──なぜディアスのように、素直に喜べないんだろう。強くなれて、高め合えて嬉しいはずなのに……。
魔力を混ぜ合うたびにリヴェの内で膨らむのは、不安と、名前のないざわめきだった。
その気持ちの正体に、リヴェはまだ気づいていなかった。




