第7話 冒険者たちの初陣
それから数日、俺は自分でも驚くくらい真面目に働いた。
モンスターを錬金しては配置し、罠を組み立て、通路の角度を決め、扉の開閉条件を考える。まるで学生時代に「自分だけの秘密基地」を夢中で作っていたあの頃の再来だ。
そんな俺を、フェリシアは毎日きらきらした目で応援していた。
「マスター! お見事です!」だの「その配置は冒険者を惑わせますね!」だの、やたらポジティブな相槌を入れてくる。
一方でセレナーデは、俺が半端な錬金に失敗して煙を充満させたときにだけ、口元を押さえて「うふふ……もっと無茶してくださって構いませんのに」なんて危険なことを言うのだった。
そんなふうにバタバタしながらも、俺は徐々に「自分のダンジョン」が形を帯びていくのを楽しむようになっていた。
そして今日。
いよいよ、その成果を世に問う日が来てしまった。
「本日、とうとうダンジョン開放ですね!」
胸を張るフェリシアは、凛とした秘書のように誇らしげな顔をしていた。その堂々ぶりに、逆に俺の方が気圧される。やめろ、プレッシャーが増す。
「……ほんとに来るのか?」
「はい。登録した以上、冒険者ギルドの方から“初級探索対象”として告知されました。すぐにでも駆け出しの方々が挑戦に参ります!」
うわあ。胃が痛い。
「では、マスター。こちらを操作して“確認モード”に入ってください」
フェリシアが端末を示す。
俺が言われるがままに指を滑らせると──視界がすっと切り替わった。
自分の姿は消え、まるで幽霊のようにダンジョン内部を浮遊できる。
「……おお、ゲームでいう“ゴーストモード”だ」
「はい! 冒険者たちからは見えませんし、実際の戦闘も臨場感そのままに体験できます!」
「便利すぎるだろ……」
と、感心していたその時。
入口の扉ががたりと開いた。
入ってきたのは若草色のクロークを羽織った魔術師風の少年。妙に気合いが入っていて、「俺たちの初陣だ!」と声を張り上げている。
その横では、盾を抱えた戦士らしき大男がガチガチに震えていて、足取りすらおぼつかない。
さらに、やる気のなさそうな盗賊風の女が欠伸をかみ殺し、「めんどくせえ」とでも言いたげな顔で後ろをついてくる。
最後は牧歌的な笑みを浮かべた僧侶。場違いなほど穏やかな雰囲気で、むしろピクニックに来たのかと疑うレベルだ。
(……出たな、初級パーティ)
いかにも駆け出し。俺が子どもの頃にプレイしたRPGの「冒険者ギルドで組まされる最初の仲間たち」感がすごい。
だが油断は禁物。こういう奴らに限って、妙なラッキーパンチで突破してしまうこともあるのだ。
フェリシアが小声で囁いた。
「マスター、始まりますよ」
俺はごくりと唾を飲み込み、冒険者たちが足を踏み入れるのを見守った。
──果たして俺のダンジョンは、“初陣”の彼らをどう迎え撃つのか。




