第3話 最初の目標
気がつけば俺は、洞窟から一転、妙に居心地のいい部屋にいた。
いや、妙にというか、完全に「衣食住完備!」をテーマにしたモデルルームみたいなやつである。白壁にふかふかのベッド、木製の机、本棚にはなぜかすでに本が並んでいるし、壁際には小さなキッチンまでついていた。
「どうですかマスター!」
フェリシアは自分の部屋を披露するかのように胸を張る。
「ここがマスター専用の居住スペースです! ゲームのようにダンジョンが大きくなればなるほど収益が発生し、その一部が天界に入り、同時にお部屋もアップデートされていく仕組みになっております!」
「アップデートて……マンションのパンフレットか」
俺はベッドのスプリングを試しながらつぶやく。ふかふかすぎて、正直、もうダンジョン経営なんてどうでもよくなりそうだった。
「さらにこちら!」
フェリシアが机の上の不思議な端末を叩く。ぱっと光が走り、分厚い本が画面の中に展開された。
「ダンジョンガイドブック、冒険者情報一覧、ギルド情報、そして他の競合ダンジョンのランキングが見られます!」
「おお……便利すぎる」
俺は画面をスクロールしてみる。ランキングの上位に並んでいるのは──
《ベリアル・ホールディングス》《アスタロト・エンタープライズ》《ルシフェル・システムズ》
「……げっ」思わず声が出た。
どう見ても「悪魔の名前+企業名」のコラボレーション。絶対魔界のやつだ。カタカナ横文字の威圧感がえげつない。
「やはり魔界は資本力が違いますね!」
フェリシアは明るく解説する。
「彼らはほとんど大規模で、冒険者からの難易度評価も高いんです」
確かに評価欄を見ると、どれも《★★★★★・死ぬほどムズい》とか、《報酬が桁違い》とか書かれている。
なるほど、強いダンジョンほど冒険者に人気が出るらしい。俺は腕を組んでうなった。
「やりごたえがあるほど評価が高いって……ゲーマー心理そのものじゃないか」
さらにページをめくると、魔界以外にもいろんな出自のダンジョンがあることがわかった。獣人族が営む「牙と爪の迷宮」や、エルフの「森羅万象の樹海」、自然発生した“無人ダンジョン”なんてのもある。どれもなかなか手強いと評判で、冒険者たちの間で高難度ランキングに食い込んでいた。
そして問題の「天界」の項目を見てみると──
【件数:1】
俺は二度見した。
「……おい、これ、もしかして俺のだけか?」
「はいっ!」フェリシアが元気よく親指を立てる。
「天界ではあえて転生者にダンジョンを託す方針なんです。ですがご安心を! 神々は全面的にサポートいたします!」
「……いや、その全面サポートって、板チョコと鉄棒しか支給されなかったんだけど」
「これからです!」
フェリシアはさらに真顔で説明を続けた。
「マスターの場合、コアの位置づけが特殊です。普通のダンジョンは踏破されると『ダンジョンコア』と呼ばれる高値のアイテムを冒険者が獲得できます。しかしマスターは──」
彼女は俺の胸を指さす。
「マスター自身がダンジョンコアです」
「……えっ」
「つまり破壊されると、この世界での死を意味します!」
俺はしばし言葉を失い、ふかふかのベッドに崩れ落ちた。
──どうやら俺の死後人生は、命がけの経営シミュレーションらしい。
だが、フェリシアは輝かんばかりの笑顔で両手を広げた。
「目指すは史上最大級のダンジョン! 我々天界チームが全力でサポートいたします!」
その限りなく胡散臭い言葉に、俺は思わず後ずさった。
──まさか、死後の人生でまた「ゲームを始める」ことになるとは。
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