佐藤は無難な下着しか履かない
「失礼します」
「あら~遅かったじゃない~お茶はまだかしら?」
やっぱり応接室にいた。
「⋯⋯蕗の薹の出汁でよろしければ、すぐにお出し出来ますよ?お気に入りのお茶は少々お持ち下さい」
「おや?この子が次の獣王ですか?」
メッチャ大きい熊獣人のおっさんがいたが、この人がここの城主だろう。
シュクルは丁寧にあいさつをした。
「シュクル~食料あった~?」
「うっ⋯⋯残念ながら」
「そうよね~」
こんなに大きい要塞に食べ物が全く無い状況。一体何が起きたのか。
「ユーグ~あなたもう少し考えて行動しなきゃダメよ~お人よしが過ぎるわ~」
「だが⋯⋯すまん」
ここの領主ユーグ・ムース辺境伯はヴィクトワール王国の北東を治める領主だ。東側はアーディ王国と接している。今年の冬はシュクルの実家、パックも厳しい冬だったが、ムース辺境伯の治めるこの地もそれは辛い冬だったそうだ。
「それで城のみんなで食料をすべて食べきってしまったのですか?」
「いや、そうではなくて配ったんだ」
通常冬の間、ムース辺境伯の土地は雪は降るがそれほど積もる事はないので、頻繁に南から食料が届く。しかし今年は雪が積もり農家の荷馬車や商人の馬車が来れなかった。その為、町の民の買える食料が無くなってしまった。
食料を求め町から逃げ出す者もいたが、他に行き場所の無い者もいる。そんな人々に辺境伯は城に貯蔵してあった食料を配給したのだそうだ。
「現在でもまだ商人が来ないんだ。もう食べる物もないから私は朝から狩りに行ったり、使用人は生え始めた山菜を集めたりして何とか生き延びている」
「知ってるわ~あなたを助けてくれとの嘆願書が王宮に届いてるのよ~」
「そうなのか?だが一体誰が?」
「あなたの領民達が頑張って署名を集めて~今年の冬は大変だったから税の徴収額を下げてくれだの~食べ物が無くて領主が骨と皮になっちゃっただの~あなた愛されてるわね~むさ苦しいおじさんなのに~」
「⋯⋯なんだか恥ずかしいな」
見た目は大きくて怖そうなおっさんだが優しい人なのだろう。熊だしな。蜂蜜の壺をほじって赤いTシャツでも着れば大人気だろう。横に子豚と、疲れ果てた老犬獣人も添えればコンプリートだ。
私達は今後について話し合う。
「失礼いたします」
「お茶が来たわね~」
ギルド長好みのお茶を出された。お湯を掛けた、つくし汁じゃなくてよかった。
「どうぞ⋯⋯は!あなたはお茶の精霊!?」
「マジで違います」
いきなり調理場に現れた怪しい着ぐるみの子供は精霊ではない。きっと日々ひもじい生活の中、食料を与えてくれる人は神や精霊にでも見えるのだろう。
この侍女さんは何度も振り返り、その都度シュクルをガン見しながら下がって行った。
多分モヴェーズ先輩の侍女と同類だろう。
さて荷馬車がこのムースの町にやって来ないとの事だが、これは盗賊による強奪と、それを恐れた商人が南から北に続く街道を通れない状況にあるからだと思われる。
早く街道を一掃しなくてはな。
「アレよね~ジュラ・モーザン辺境伯が例の件で捕まったから~街道の盗賊に対応出来てないのよ~」
ムース辺境伯の南に位置するモーザン辺境伯領は領主がいない状況だ。あのテクノポリス皇国と繋がっていたので騎士団に連行された。ヴィアンネイ辺境伯と同じく、隣国とわざと小競り合いを起こし、両国の関係を悪化させていたのだ。
早く次の辺境伯を決めて欲しいと思う。
「とりあえず賊の一掃はシュクルが旅立てる来週ね~私は森の確認をするわ~シュクルの言ってた卵の確認と~動物と魔獣がどれくらい減ったのか見てくるわ~」
「そうか。ありがとうな。シュクルさんもよろしく。」
やっぱりいい人には優しく接したくなるよな。
「少しだけ席を外しますね」
シュクルは応接室から飛び出し、アレを取に行った。
「では行きますよ~ホラホラ~~」
「おぉぉ?!「まぁ!」「どうなってるの?!」
ここは寒い城の外。シュクルは急いで食品保管庫に行き、萎びて落ちていたジャガイモを拾ってきた。
これを地中に埋めて魔力を注ぐとグングンと成長する。地中にジャガイモが出来て、そのジャガイモを種芋にして増やしていくと、場内にジャガイモ畑ができた。
「とりあえずはこのくらいで。来週には私が賊の討伐を始めますので、そうしたら食料は徐々に届き始めるでしょう。それまではこのジャガイモで食い繋いで下さい」
任務を遅らせているのは私の責任なのでこれくらいはさせてもらう。
「ありがとうございます!」「凄い!!」「食べれるの?食べていい?!」
「いいですよ~」
とりあえず女神のごとく微笑んでおく。正直に言うと、今後自分が獣王になった時の為でもある。この人の良い辺境伯とそこに住まう住民達と仲良くしておけば、自分が困った時に助けてもらえるかもしれない。恩を売っておくのだ。食べ物の恩は侮れない。
私の未来計画は完璧だ。
「チチ」
「ん?チェリー勝手に馬車から出ちゃ駄目だろ?」
エロ精霊がここに来てしまったようだ。ぴょんぴょんと私の頭に登る。
「ちょ、お前何持ってるんだよ?!私の顔に何か当たってるぞ?」
目の前に布があって前が見えない。何なんだこれは?
「え?きゃぁ!」「ちょ?アレは⋯⋯」「あらまぁ~」「へへへ」
何だ?!この人々の反応は?!
「おいチェリー、これは何だ?見せろ!⋯⋯がぁぁぁ」
「チチ(乳)」
エロ精霊は馬車に置いてあったギルド長のお泊りセットの中から、スケスケエロ下着を握って持って来て私の頭に乗せたのだ。ご丁寧に皆様に見やすい様に広げて。
「ち、違います!私の下着じゃないです!こんな下着⋯⋯違いますから!」
本当に私のじゃないのに!必死になって言い訳をする私に微妙な笑顔で目を逸らす人々⋯⋯ちょっとニヤ付くエロガキ⋯⋯
「や、やっぱりおやじ狩りの怨霊⋯⋯」
パンイチ・デス・マラソン参加者のおやじ達によるリベンジ⋯⋯
「おいおい、来週からどうすればいいんだよ⋯⋯もっとおやじに恨まれるぞ⋯⋯」
ジャガイモを蒸かして喜ぶ人々の歓喜にシュクルのつぶやきは消されたのだった。




