佐藤は忘れていた虫かごを怖くて見れない
朝になった。身支度のために洗面所で顔を洗いたいが、昨晩浴槽に恐ろしい卵を入れて洗面所のドアを封印したままだ。ビビりなシュクルはドアを開けるのをためらってしまう。
「怖いな⋯⋯」
佐藤は生前ショボ男のくせに調子に乗って購入した、おしゃれ観葉植物に長期間水を与えず衰弱死させた事件とか、子供の頃、虫かごに集めたカタツムリの世話せず放置し、大量殺戮した大罪を思い出す。
「いやいや、違う。アレはそんなつもりじゃなかったんだ⋯⋯」
きっと世の中のキラーはシュクルと同じセリフを口にするのかもしれない⋯⋯犯罪者とは同じ様な言い訳をする生き物なのだろうか。
「⋯⋯悩んだ所で事実は変わらない。いざ!オープン!」
勢いのまま洗面所の扉を開け、浴槽を覗く。
「ええぇ?!無い!何でよ?!」
あの卵が無かった。
「マジで呪物だ!!呪いだ!!」
何度捨てても戻ってくる呪い人形、お祓いしても祓えない霊、ガチャ〇ンの腕にある丸いボツボツ、ム〇クの口の中⋯⋯
世の中には人間の理解出来ない恐ろしい物が存在するのだ。
あの卵は酷い寒波が続く中、餓死して怨霊となり、魔鹿に憑りついたのちにシュクルがたまたま拾ってしまった卵なのかもしれない。
「神殿に相談するか?うーん駄目だあそこは欲望の領域なんだよな。じゃあギルド長に相談するか?呪いなんて信じないよな。じゃあ⋯⋯」
「シュクル~おはよ~」
「あぁトーマス先生、おはようございます。生きてますか?」
「うん。さっきシャワーを久々に浴びたよ~」
「⋯⋯」
久々に浴びないで欲しい。毎日浴びよ。
あれ?シャワー?シャワーって事は?
「シュクル~浴槽に変なのいたよ~これシュクルのでしょ~?」
「はぁ?!何だ君は?!」
トーマス先生の手にドピンクな丸い生き物がいた。
「何ですかそれ?私のじゃないですよ」
「え~?でもシュクルの魔力で孵化したみたいだよ~?それにピンクだし~?」
「私の魔力なんて渡していませんよ。それに私はそんな蛍光ピンクじゃないし⋯⋯」
この生き物は何だろうか。見た事もないし、色が自然色じゃない。言うならばネットで見た怪しい屋台で売られていたカラーひよこのピンクだ。
「シュクルにあげるね~はい。あ~お腹減った~」
「え?えぇぇ?!どうしょう?!」
ピンクの生き物を渡されてしまった。どうするんだコレ⋯⋯
「ムヒヒ」
「ん?」
シュクルの胸元から変な声がした様な?トーマス先生に渡された生き物を見るが、大人しくシュクルの胸にいる。
「⋯⋯とりあえず顔を洗って着替えるか」
危険性が無いのであればいいか。シュクルはその生き物を気にするのは止めた。
そして顔を洗い部屋に戻り着替えを用意する。冬は服が冷えていて着替えるのが寒いなぁ~と考えていると――
「ムフフ」
「?!⋯⋯今お前しゃべったか?」
ベッドの上に置いた動物はシュクルを見つめるばかりで反応は無い。着替えを中断したままでは寒いので、そのまま着替えを進めているが明らかに見られてる感がある。この生き物は何かがおかしい。
シュクルは脱いだパジャマをそのままベッドの上に置いた。そしていつものバッグの中にある香辛料を朝食の為に出していると⋯⋯
「へへへ」
「⋯⋯」
ドピンクがシュクルの脱いだパジャマに乗り何か声を出していた。
「⋯⋯お前⋯⋯まさか⋯⋯違うよな。多分寒いんだろう。寒いから私の服で暖をとってるんだよな?うん。そうに違いない」
そうだ。同じ家の中にアレがいてはいけない。あれは外にいて、寒い冬は冬眠をしていて、春になると夜道とかに沸き出るって佐藤姉は言っていたではないか。だから断じて違う。
「そ、それよりお前は何を食べるんだ?アレだろ?あの、苺とかチェリー的な感じだろ?いや、駄目だ!その二つの果実には微妙にいかがわしさと言うか、あざとさがある気がする。お前は人参でも齧ればいい。いや、駄目だ!長細い系はイヤラしい。無骨なジャガイモにしろ!」
ドピンクは何も言わないが⋯⋯
「スーハースーハー」
「お、お前!止めろ!人の脱いだパジャマをスーハースーハするのはぁぁ!!!」
どうやら卵から孵った生物は変態だったらしい。
これはシュクルが狩りまくったオヤジ達の呪いだろうか。大量のオヤジ達の怨念が一致団結し、シュクルを襲った結果なのかもしれない。逆恨みも甚だしいが、人の念と言う物は侮れないものだ。
「あ、そうだギルド長にあげよう。ふわふわしてるし、きっと喜ぶだろう。お前も大人の美人の方がいいだろうしな!そうに違いない!」
シュクルは朝食も摂らずにギルドへ変態おピンクを連れて行った。




