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佐藤のモンシロチョウ観察日記の最後はほろ苦い

「そうだ狩りにでも行くか。獲物は少なそうだけど、起きた時に何か食べる物があった方がいいよな」


もうすぐ日が暮れるので急いでひとっ走り行ってみよう。



今日歩いた道とは違う道を通りつつ森に入り、五感を使って周囲の気配を探る⋯⋯森に帰って来た鳥達の声はするが動物の音は全く感じられない。もう夜の帳がすぐ後ろまで迫ってきている。


急いで少し森の奥へ入ってみても気配はやはり感じとれない。カミーユの言っていた通り動物たちは冬を越せなかったのだろうか?それとも食べ物を求めて南に移動してしまったのだろうか。


「参ったな⋯⋯これからどうなるんだ?冒険者も森で狩りが出来ないぞ?」


このパックの町はヴィクトワール王国の中でも魔獣が多い所で有名なのだが、これは一体⋯⋯


「ん?あれ?あそこにいるのは動物っぽいな?死んでいるのか?」


白い雪がまだ残っている木の陰に横たわる茶色い毛が視界に入った。野生動物だろうか。やはり食事が足りずに餓死してしまったのだろうか。近づいて動物を確認してみる。


「ん?魔鹿だな⋯⋯角デカ!⋯⋯おぉ鹿ってかっこいいな⋯⋯こりゃ惚れ惚れするな」


随分と大きな魔鹿だった。辺りが暗くなり始めて視界が悪いが、その魔鹿をよく観察して見ると腹部に穴が開いていた。


「おいおい?!まさか?!」


アレか?アレなのか?!シュクルは近くに落ちている木の棒を二つ手に取り穴の中が良く見える様に左右に皮を押さえて中を覗く。


「あ、ああああああああ!何なの?!怖い!」


鹿の体の中には今日カミーユの体の中に入っていた物と同じ卵があった。


「ホラー過ぎる!トーマス先生に相談!!」


シュクルは急いでバッグからロープを取り出して鹿を縛り、急ぎ担いで持ち帰る事にした。



「トーマス先生大変です!世紀末です!寄生獣に森を奪われます!」


普段は開けない先生の怪しい研究室の扉をバン!っと開ける。室内には床にダイレクトに置かれた数百冊の本、謎が詰まったフラスコ、謎物体をピン留めした標本が至る所に転がっている。


「シュクル~興奮してどうしたの~?」


「もう一つ見つけたんです!寄生卵!」


「えぇ本当~?見せて~」


すぐに床に散らばった本を押しのけ魔鹿の体を床に置き、腹部の穴と卵を見せた。明かりの下でしっかり見てもやはり同じ卵だった。


「先生これ何の卵ですか?恐ろし過ぎですよ⋯⋯」


「調べたよ~多分北にいる魔鳥の卵だね~」


今年は酷い寒波に見舞われたので、いつもはこのヴィクトワール王国にはいない、もっと北に生息している魔鳥がここまで産卵に来てしまったらしい。この魔鳥は魔動物の体内に卵を植え付けその魔獣の魔力で成長するそうだ。


「え~?!さすがに体に穴を開けられたら魔獣も気づきますよね?!どんな鳥ですか?!」

「すごいんだよ~」


まず魔獣を見つけ背中などから(くちばし)で突き、睡眠薬の様な作用を持つ、だ液を魔獣の体に注入し眠らせ、その間に卵を産み付けると思われると本に書かれていたそうだ。


何それ怖い⋯⋯怖すぎる⋯⋯ 通り魔?


「これがその魔獣の絵だよ~」


「ぴんぐぅ?」


意外と見た目が可愛い。でも見た目に騙されては駄目だよな⋯⋯クリオネ系とかアライグマ系だと思おう。


「シュクルも一つ温めてみれば~?」


「ええ?怖いですよ!私に卵を植え付けられたらどうするんですか?!」


ある日突然目覚めたら体に穴が開いていて、体内に卵を植え付けられていたらショック死は免れないだろう。 佐藤は子供の頃にモンシロチョウの幼虫を飼育していて、蛹になったのを喜んでいたら違う虫が出てきて心を抉られた事があるのだ。



さて二つ目の卵もトーマス先生に渡したし、気になるのはカミーユの容態だな。もしかすると卵にかなりの魔力を吸われたから寝覚めないのかもしれない。魔力を送らねば。


「ニーチェ、カミーユはどう?まだ意識は戻らない?」


「ウー(まだ)」


カミーユの塞いだ傷から魔力を送ってみる。体温も少し低い気がする。先ほどの魔鹿を起きたら食べてもらおう。魔鹿はまだ息を引き取ったばかりだった様で新鮮だ。 明日まで寒い外に保管して置けばいいだろう。今夜は暖炉の火を絶やさない様にして寝た方がいいな。


もう夜だ。パックの町より南側の町で買ったドライフルーツ入りのパンとりんごを食べて、水魔法で服と体を洗いトーマス先生の家に一応ある客間で寝る。今日も色々あって疲れたな。うっ⋯⋯駄目だあの巨大ムカデを思い出しては。寝よう⋯⋯


こうしてシュクルの長い一日が終わったのだが⋯⋯

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