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佐藤はあの船で最後まで演奏していた人に感動した

 巨大ムカデが足を絡ませる事なくシュクルに向かって来る。これほどの恐怖があるだろうか?いや、無い。でもアレに食べられるのはもっと嫌だ。アレに触れて欲しくない。出来れば視界にも入れたくない。ならば――


「風魔法で吹き飛ばす!!フン!」


――ドゴン――


「あぁぁぁぁあああ キモい!!バイオハザード!!」


そうだここはくねくねした洞窟内だった。風魔法で吹き飛ばしたってそばの壁に当たるのだ。先ほどのムカデの殻が割れてもう⋯⋯絶対モザイク入れないと放送禁止レベルな光景が広がっている。


「いいね~シュクル!硬い殻が割れたよ~これで食べられるよ~」

「無理です!」


先生はムカデに近づき火の魔石で焼き始めた。その異常な光景にシュクルは目を背けていたが、次第に洞窟内に充満する香ばしい香りに何故か腹が鳴りだした。


「いやいやいや、ないないない。さすがに無理だろ?」


自身の胃に忠告するが、今度はシュクルの脳が――


『初めて蜂の子とかタガメを食べた人間だってありえないと思ったんじゃん?でも食べてみたよね?初めはみんなそんなモンだって!』


「いやいや、別に食事に困ってないし⋯⋯」


『食わず嫌いは良くないよ?それに食材を無駄にするのは駄目!命を狩ったのだから責任をとりなさい』


「正当防衛では?しかも食材じゃないし⋯⋯」


『お腹鳴ってるじゃん。シュクルの体は食材と認めてるよ?拒否してるのは最早お前だけだぞ?』


「えぇ?!多数決的な感じなの?私が負けたのか?!」


なんてこった。でも私は民主主義な人間だしな⋯⋯多数決には従うべきか?でも開票方法なんて信用できなくね?票は操作されてるだろ?私の免疫系も消化器系も反対してるはずだぞ?どうしようか――



「シュクル~焼けたよ~」

「はーい」


ムカデの一節?が丁度お椀の様になっていて、そこから香ばしい匂いがふわりとシュクルの食欲を促す。確かに食わず嫌いはよい子ではない。とりあえず一口⋯⋯


「⋯⋯よくわからない味ですね⋯⋯塩でもかけるか」


バッグから塩を取り出してかけてみる。まぁ味気ないお粥というかプリンというか⋯⋯食べられなくはないのか。とりあえずこの一節は食べるか。


「シュクル~焼けたよ~」

「はーい」


お高い魔石で焼いてもらったのなら食べなきゃ駄目じゃないか。仕方ないなぁ、次はテクノポリス皇国産の唐辛子で行くか。


「シュクル~次~」

「は~い」



「シュクルこれで全部だよ~」

「全く⋯⋯美味しいのか美味しくないのかわからない味でした⋯⋯うぅぅ?」


突然謎のビジョンが脳裏に映し出された。ぼんやりとした変な視野、これはまさか⋯⋯


「うぇぇ巨大ムカデの記憶?!見たくない!止めろ!あぁぁぁ何食ってんだよ!巡りに巡って私の胃に入ってくるだろう?!おぇぇぇ」


「ははは~シュクルは面白いね~」


もう二度と虫は食べないと誓ったシュクルだった。



心をゴリゴリと削られたシュクルはトーマス先生の背中を追う。迷う事なく先生は洞窟の奥に進んで行った。


「もう巨大ムカデは出ませんよね?」


「どうかな~ムカデは一匹いると十匹はいるからな~それにムカデの匂いが充満しているから呼び寄せるんだよね~」


「ヒィッィ」


嫌だ早く洞窟から出たい。でも一人じゃ恐怖過ぎて歩けないのでトーマス先生の後を追うしかない。


「着いた~ここだよ~見て~」

「あれ?洞窟内なのに湖があるんですか?」


洞窟内に湖があった。


「先生、水中に光る物がありますね?何でしょう?」


綺麗だし売れたらいいなと思い手を伸ばすと――


「え???ええええ?!?!?先生助けて!!」


音もなく水草がシュクルの体に絡みついて水中に引きずり込もうとしている。


「いいよ~!シュクル!それがフラコンだよ~!花弁部分が欲しいな~!」


体が水に入る。信じられないくらい冷たい。心臓発作を起こしそうだ。そんな危機的状況でふと佐藤は友人との何気ない会話を思い出した。


『タイタニックの生存者って避難ボートに乗れた人達だけなのかね?』


『いや、それが海に投げ出されても助かった人はいたらしいよ。アルコールを飲んでいた人だとか。でも氷河が浮かんでるような海水なんてヤバすぎるだろ』


(マジでヤバすぎる!誰か私にアルコールを!!)


水中の中で先ほどの白く光る何かが近づいて来る。水中なので視界がぼやけているが、あれがトーマス先生の欲しいフラコンの花だろう。腰にある短剣を構えて近づいて来るのを待ち、花弁の下にある茎を切る。想像していたよりも花の動きはゆっくりだ。多分水草を絡めて獲物を水中に引きずり込んで、窒息させて食べるからだと思う。なのでゆっくりでも構わないのだ。


そしてシュクルの体を拘束していた水草は解けた。


「プハァ!はー、これですか?先生?」

「そう~ありがとう~」


急いで岸に戻り服を乾かさねば!シュクルは水中から出た。先生にフラコンの花を手渡し、服を脱ごうとしたのだが⋯⋯


「何だ?!先生いぃぃぃ!自分が変です!」


自身の体から湯気が出ている。そういえば雪解け水の中にいたのにそれ程寒さを感じない。


「ははは~シュクルはサウナみたいだな~それが多分さっき食べた火属性の魔力じゃないかな~?」


「何それ微妙過ぎる!でも何だか服も乾いてきてるからいいか」


そういえば乾燥機も欲しかったんだよな。風魔法だけだと寒くて湿度の高い日は乾きが悪いからな。でもムカデはもう食べたくない。


「シュクル~あそこ見てごらん?あのやもりがフラコンに狙われてるよ~」


「ん?あ!あれは!」


ウーパールーパー風やもりだ!あいつは洞窟内に生息していたのか!確かに洞窟内は虫が多いし暗い。洞窟内の食物連鎖の邪魔はしたくないが、ついウーパーやもりを助けてしまった。


「先生もう一つフラコンをどうぞ――ズン――」


「ありがとう~そのやもりはどうする~?焼いて食べる~?――グ――」


「絶対に食べません――ゴゴ――」


「「⋯⋯?」」


先程から何か変な音がする。


「先生、フラコンは冬眠明けの動物を食べるんですよね?冬眠明けにこの湖を通る動物ってどんな動物でしょう?」


「魔獣かな~?」


「ほう⋯⋯⋯⋯」


音は洞窟の奥から聞こえてくる気がする。しかもその音が徐々にこちらへ向かっている感じがするのだが⋯⋯


「僕は魔獣除け持っているから多分平気だよ~シュクルは~?」


「何一人で狭い横穴に入ってるんですか?!魔獣除けって何ですか?!知りませんよ!」


「嘘~?シュクルは魔獣除け無しで森に入るの~?すごいね~ちなみにこの横穴はお一人様用だよ~」


「おぃぃぃぃ?!」


――ガツ――ドシ――ジャリ――


さらにこちらに向かって来ているんですけど?!

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