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佐藤は悔しいがもらったお年玉よりあげたお年玉の方が多い

「石鹸も欲しいな~」

「石鹸は簡単に作れるよ。今度一緒に作ろうよ」


私達はバストラの町にお別れを告げ、港町のアンジュに戻って来た。


なんと苺さんも一緒だ。


『何かシュクルから聞いた毒の件もムカつくけど、何よりあんま愛着ないんだよね、この土地に。だから同郷のシュクルがいる国に行くよ。また商品開発してもいいし、違う仕事してもいいし』


『ヴィクトワール王国としてはありがたいわよ~あなたの商品を愛用している人って多いのよ~歓迎するわ~』


苺さんは元々持ち物が少なかったので一日で荷物をまとめた。バストラ薬品は皇弟一派の件でてんやわんやで苺さんを引き止められなかった。

こんな感じでこれから三人と一頭と亀一匹でヴィクトワール王国に帰国する船に乗る。


「ねぇ~せっかくだからアンジュの町で遊んでから帰りましょ?だって明日は新年じゃない!」

「いいですね!」


日本で言う今日は大晦日だ。町は大勢の買い物客で賑わっている。シュクルの地元のパックの町は深い雪に覆われているので、家で少し豪華な食事をするくらいだが、ここは太陽ギラギラな南の地。海産物やパン、お菓子の屋台が所狭しとひしめき合っている。


「何食べます?色々買って試してみたいです!」


「まずはお酒よ~新年には必要不可欠ね~」


「いいですね~私も買お」


苺さんは日本人らしい童顔なので年が分からなかったが、余裕で成人していた。


⋯⋯ギルド長と二人でお酒とかズルくないか?私だって飲みたい。この国には明確な飲酒についての規制はない。すなわち私も飲めるのだが、子供は駄目だよね?っていう風潮があるそうだ。悔しい。でもアルコール度数0.5%はセーフじゃないか?0.5なんてほぼ0だよな。お菓子に使われるリキュールみたいな物だろ?ウィスキーボンボンもお菓子だろ?ならあそこの甘い系のアルコールはお菓子だ。甘酒と同様OKに違いない。うん。


「大丈夫、シュクル用の飲み物も買ってあげるわよ~だからニーチェと亀用のサラダ買ってきてね~はいお金」


「よかった!行ってきまーす」


人混みの中、ニーチェとサラダを買いに行ってニーチェはきゅうりを所望した。


まだギルド長と苺さんは買い物を楽しんでいるので、私はニーチェと綺麗な船が見える船着き場で一息ついた。木陰のベンチで潮風にあたりながら汗が引くのをのんびりと待っていると――


――トッ――トッ――トッ――


「?!お、お前はこの間のカモメか?!また来たな!あ?あれ⋯⋯」


目の前に現れたカモメは『フン』と目で言い、素通りしてそばのゴミ箱へ向かった。


――ガサガサ――カプカプ――


「おうぃ?!それさっきベンチにいた子がチキンの骨を入れて捨てたゴミ袋だぞ?!袋ごと食べちゃ駄目だろ?!」


カモメは袋ごとゴミを丸飲みした。喉はゴミの通過時、驚くほど膨らんでいた。


「ちょっと!お前どんな胃してんだよ?!今、胃の体積とか形状とかおかしいだろ?!」


と、カモメに注意勧告をしたら⋯⋯


――ビュン――


「うわ!カモメアタックだ!!」


いきなり低空飛行でこちらに向かって飛んで来て、そして『バーカ』とテレパシーを送って真後ろの噴水へ飛び去った。


「メシ食った後は噴水で水浴びかよ⋯⋯カモメは最強じゃないか⋯⋯」


やはり大晦日である今日も動物に嫌われているのであった。




「⋯⋯どうしてギルド長は泥酔してるんです?」


苺さんと合流したら何故かギルド長がすでに出来上がっていた。


「あぁ、利き酒選手権てのに参加してセリーヌさんが優勝したんだよ!優勝賞品の豪華食べ物詰め合わせをゲットしたよ!」


そりゃ獣人だもの。人より鼻も利くし優勝するだろうよ。苺さんでは重くて持てそうにないので、力持ちな私が詰め合わせを持つ。


「うわ~この詰め合わせ凄い!蜂蜜もある!ジャムもある!ギルド長ありがとう」

「えぇのよ~」


大量の荷物とギルド長を抱えホテルに帰った。


――その夜――

「「乾杯!」」


「⋯⋯私だけジュースですか?」


「子供なんだから仕方ないでしょ~?シュクルはお酒に憧れる年頃なのかしら~?大した物じゃないのよお酒なんて~」


私だけ仲間外れなんて酷い。大晦日なのに。年を越しても全お子様の心を躍らせるお年玉文化もないし。


「あ~酒はおっさんの命の源だもんね!ポーション的ポジ?うさ耳転生おじさんウケる~」


「ぐぐぐ⋯⋯クソぅこの食料全部食べてやる!」


二人が乾杯している間に優勝賞品のジャム壺をほじり、蜂蜜を舐め上げ、パンを口に放り込み、カラフルなドライフルーツをパンケーキに挟んで飲み込んだ。そして可愛い砂糖菓子をガミガミ噛み砕きジュースで流し込む。


オリーブの瓶を開け、種ごと歯ですり潰す。サラミ三本もプレッツェルの要領でサクサクいく。瓶詰めの白豆は流動食のごとく胃へスルーさせる。ナッツ入りの大きいパンはカバがキャベツを数回咀嚼後飲み込むのと同じく、シュクルも最短で胃に送った。


可愛らしいミニケーキは映画館で食べるポップコーンのごとく鷲掴み、一つずつ空中へポンポンポンと投げ、曲芸並みの軽やかさでシュクルの口に消えた。


メインディッシュであるローストビーフは薄く切らず塊のまま消し、蝶々型のパスタもシュクルの口へ飛び立った。茹でガニはチミチミ穿(ほじ)るのが面倒なので殻ごと咀嚼する。殻も身も同じカニだから食べても大差なかろう。サラダは亀とニーチェにあげた。


この部屋からすべての食品が消えた。


「シュクル、私もお腹減ったーって?!何?何も無いんだけど?」


「ご馳走様でした」


「シュクル~オリーブの種まで食べたの~?駄目よ~種はゴミよ~あら?カニの殻はどこかしら~?」


「え??全部一人で食べたの?!どんな胃してんのよ?胃の大きさおかしいよ?!」


「フン。シャワーでも浴びよ~」



「シュクルの胃って最強じゃない⋯⋯」


カモメは同族嫌悪でシュクルに冷たかったのかもしれない。

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