佐藤の営業職の友人はストレスでハゲた。
次の日皇弟一行はバストラ製薬の見学に向かった。私はその様子をバストラ製薬の苺さん付きの従業員ズラして共に見学をしていた。
「皇弟様に起こしただけるなど恐悦至極でございます~ささ、こちらへ~」
「うむ」
ペコペコしているのはバストラの社長か?ストレス貯めながら会社の為にペコる社畜営業職みたいだ。マジで営業は大変だよな⋯⋯ふと日本の営業マンを思い出し同情する。
皇弟ご一行は二度目の来社なので新しく増築した製造所の見学をして終わった。
「見学お疲れ様でございました。どうぞどうぞ、粗茶でございます。」
ペコリ社長はお茶を勧める。私は皇弟とその後ろに控えるお付きの者達の顔を眺めながら苺さんとお茶の準備を手伝う。
「ささ、お付きの皆様も粗茶どうぞ~お茶菓子は今バストラで大人気の水の女神サブレでございます~」
⋯⋯何だこのサブレ⋯⋯赤いつぶつぶが入ってるな。多分乾燥したベリーだろうけど見た目が完全に水疱瘡の水の女神だな。食べたいか?あれを。
「こちらの者が商品開発者のイチゴでございます」
「皇弟様そしてお付きの皆様こんにちは。バストラ製薬の商品開発を担当しています苺と申します。皇弟様にお会いするのは二度目でしょうか?では本日は新商品である即効性と遅効性の便秘薬の説明を――」
苺さんは新商品の説明を始めた。私はここにいる者達、テクノポリス皇国の皇弟派の者達の挙動を観察する。こいつらの中にバストラ製薬に指示を出している者がいる。昨日の夜、ギルド長が皇弟の滞在しているホテルを張っていたら二人の男が出かけ、バストラ製薬の者達と合流し小一時間ほど密談をしたらしい。
勿論その男の特徴はギルド長から伝えられている。
「ち、ちょっと失礼⋯⋯」「すまぬ、私もだ⋯⋯」
二人の男が立ち上がる。
「お手洗いでしょうか?こちらでございます」
親切な私は二人を案内する。しかし残念ながらそこはトイレではないがね。
「ん?ここがトイ――」「え?どうしまし――」
部屋に二人が入った瞬間、二人の意識を瞬時に奪う。
「ギルド長~お願いしまーす!」
「は~い」
二人をギルド長に引き渡し、普通の顔をして苺さんの元へと戻るとまだ商品の説明途中だった。
「この男性用ED商品のおかげで離婚率が下がり、出生率は高まり――」
先程とは違い室内は異様な雰囲気がした。テクノポリス皇国の人々が落ち着きなくモゾモゾしている。実に面白い。観察を続ける。
「で、私からは以上です。⋯⋯皇弟様どうかなされましたか?先ほどから前屈みですが。これから湖に行かれる予定ですが大丈夫ですか?」
「いや、大丈夫だ」
「あ、そういえば先日湖で女神様に会ったんです」
「そ、それは本当か?!」
「ええ。その時に言われたのです。『もうすぐ悪の化身がここに訪れる。その者達には天罰が下る』と。意味がわからなかったのですが、『戦争を望む者、大いなる天罰を受ける』とも言っていました。テクノポリス皇国は戦争をする予定はありませんよね?すごく不思議な体験でした」
苺さんの話を聞いる者達の顔を観察する。これは皇弟以外全滅だな。
「では湖の方へ案内いたします~え?どされましたか?」
「いや、何でもない⋯⋯」
「どうぞどうぞ~本日は天気もよろしく、最高の入水日和でございます!」
何故か体がくの字に曲がった集団がヨチヨチ歩きで会社を出て湖に向かう。道には皇弟を一目見たさに群がる町の人々がくの字に曲がった皇弟の集団を不思議に思い目を皿にして眺める。そのうち人々は白ビキニ一丁の男のビキニに注目し始めた。
シュクルは急いで湖に先回りした。
「こちらの湖でございます~皇弟様はすぐにでも入水されますか?」
「⋯⋯あぁ」
「あの?先ほどから前かがみになっておられますが、本当にどうかなされましたか?体調不良であれば医師もおりますし、バストラ製薬の薬もございますが?」
「いや、いい。入水して隠そう⋯⋯?あれ?あれは何だ?」
皇弟の指す先には――
「あ、先日私の前に現れた水の女神様です!!」
苺の大きい声で湖にいたすべての人々が注目する。
湖の中央から黒髪の色白い水の女神が現れた。手には神の使いを抱き抱え、物凄い存在感を放っている。
『我に向かって薄汚い物を見せつける失礼な者よ、今すぐに止めたまえ。お前じゃ、皇弟だったかの?』
「は?!はい?薄汚い物?!何でしょうか?」
『ソレじゃ!その下腹部のじゃ!神の冒涜と捉えるぞよ。他の者もじゃ』
お怒りの水の女神様に叱られる皇弟集団の下腹部に人々は注目した。
「えぇ?!」「何で?噓?」「信じらんない!」「見ちゃダメよ!」「あらぁ~?」
人々は女神様の前でありえない失態をする皇弟集団を軽蔑の目で見る。
『我は人々を不幸にする毒物は許せぬ。毒を広めし者に天罰を下した』
水の女神の目線を追うと意識のない裸の男が二人、蔓植物から吊るされていた。
『我は平和を愛する。戦争をする者にも天罰が下る』
皇弟の集団がお腹を抱えて倒れた。
そして女神は皇弟に静かに近づき
『そなたにはこの神の使いの世話を任せよう。政治から離れ神に忠誠を誓え』
『は、はい』
女神より手渡された女神の使いを丁重に抱く。彼の背筋が伸びた事によって目立つ白ビキニがテントになってさえいなければ絵師が書き残したいと思えるほど神聖な場面であった。
「め、女神様」
『何じゃ?』
「女神様って結構貧乳で――ガッ――⋯⋯」
何かを女神さまに言った皇弟は一瞬で後方へ飛ばされ木に頭をぶつけ意識を失った。
そして湖に目を戻すと湖から女神様はすでに消えていた。