佐藤はたまにべッドの下の隙間が怖かった
次の日私達のホテルに人が訪ねて来た。
「初めまして、テクノポリス皇国で諜報員をしていますブレイズです」
ブレイズさんはテクノポリス皇国で二十年も生活を送っているヴィクトワール王国所属の諜報員だそうだ。テクノポリス皇国で結婚もし子供もいる。見た目は普通のおじさんに見え、まさか諜報員だなんて誰も思わないだろう。それこそが諜報員の資質か。
「シュクル~諜報員は各国にいるものよ~勿論ヴィクトワール王国にも他国の諜報員が潜んでいるわよ~」
なるほど。諜報の世界も色々なんだな。
「あの、ベッドの下に何かいますよね⋯⋯?」
「あぁ、あれはヤモリ魔獣ですね。朝日が昇りだしたらあそこに入ってしまいました。夜行性ですかね?」
夜の間ずっと壁にくっついていたが、今は暗いベッド下にいる。確かにウーパールーパーではなく夜行性なヤモリ魔獣なんだろうなと思う。
「それで王宮の方はどう~?」
「一応調べましたが皇帝の体調が思わしくないそうです⋯⋯」
宮殿内には時期皇帝を争う皇太子派と皇弟派があるらしい。皇太子は真面目な方らしく堅実な、悪く言えばクソ真面目で新しい事に挑戦しない従来の政治をすると思われる方、皇弟派はそれに反対する貴族が皇弟を担ぎ上げているらしい。
皇弟は少し阿呆で周りは彼を傀儡の皇帝にしたいのだろうとの事。
「それでその皇弟派がどんな事してるの~?」
「酷いですよ――」
皇弟派は国土を増やしたので戦争がしたい。できれば水が豊富で実りの良い土地が欲しい。そこで目を付けられたのがヴィクトワール王国だ。だがヴィクトワール王国は左隣のコンスタント王国とも右隣のアーディ王国とも友好関係にある。もしテクノポリス皇国がヴィクトワール王国に攻め込んだらコンスタント王国もアーディ王国も敵にまわると思われる。
そこで手始めにヴィクトワール王国とコンスタント王国の友好に亀裂を入れる作戦を立てた。国境のあるヴィアンネイ辺境伯に近づき金銭を渡し、見返りに両国の友好を揺らがせてもらう。さらにヴィクトワール王国を滅ぼした暁にはより大きな領地と権限を与えると約束したらしい。私は知らないがヴィクトワール王国とアーディ王国の国境でもテクノポリス皇国と組んだ貴族が小競り合いを起こしているらしい。
「そしてバストラの化粧品や薬ですが、テクノポリス皇国内で販売されている物には毒は入っていませんでした」
「でしょうね~シュクルが見つけた手紙からもわかったけど、一応確認しただけ~」
ヴィクトワール王国の魔獣から毒を抽出し、医薬品や化粧品に混入させる。毒自体は薄めてあるので即効性はないが、徐々に使用者の健康を脅かす。その医薬品と化粧品をヴィクトワール王国のモヴェーズ商会が国内のテクノポリス皇国にとって邪魔な貴族に優先的に売り徐々に健康を蝕ませる。
モヴェーズ商会の商品はコンスタント王国やアーディ王国にも売られていた。時間が経てば健康被害の原因がヴィクトワール王国のモヴェーズ商会の商品だとわかるだろう。しっかり分析すればそれが魔獣由来の毒だともわかる。
それもヴィクトワール王国と隣国との友好にひびを入れるいい作戦なのだ。
「でもテクノポリス皇国から輸入した商品だとモヴェーズ商会が言ったらテクノポリス皇国にとってよくないですよね?」
「いいえ~そこがテクノポリス皇国の腹黒さよ~?」
テクノポリス皇国は『毒なんて入れていません!そもそも魔獣の毒なんてうちの国では無理ですよ!魔獣いないのですから!魔獣の輸出入は禁止されていますし』なんて言い訳するのだ。
「え?それじゃあテクノポリス皇国から輸入した製品にモヴェーズ商会が魔獣由来の毒を入れて隣国に輸出した事になりますね⋯⋯それは恨みを買います」
「テクノポリス皇国は被害者ズラするんじゃない~?我々に罪を被せようとするなんて酷い!戦争だ~なんて言ったりして~」
最悪だな。隣国から信用や友好を失わせ、真面目なヴィクトワール王国の貴族達は健康被害で動けない。すでにテクノポリス皇国と契約を結んだヴィクトワール王国の貴族達がテクノポリス皇国に寝返り、クーデターを起こし今の王政を廃止する。
「その先も考えていたらしいですよ。最悪、テクノポリス皇国のバストラ薬品が毒を混入させていた事がバレてもすべての罪を異世界から来た人に償わせる気だったみたいです」
「え?!」
苺さんが商品開発者なので、その指示に従い魔獣の毒を混入させた。我々は何も知らず指示通りにやっていただけだと言ってすべては苺さんのせいにするらしい。
「酷いですね⋯⋯」
「戦争は困るわ~隣国との友好だって先人たちが沢山血を流してやっと結べた友好なのよ~」
その通りだ。皇弟派許すまじ。
「モヴェーズ商会の商品を使用していた人達はどうなっていますか?」
「今頃大々的にモヴェーズ商会の商品の危険性について勧告が出されているわ~今はモヴェーズ商会が悪者だけど、この後きちんと今回のテクノポリス皇国の企みはバラしましょうね~!」
「はい!」
もうすぐ皇弟が来るんだよな。どうしてやろうか⋯⋯
「ギルド長いい案があります――」