佐藤はアイスの天ぷらで腹痛を起こす
「あらよく見ればこの子ヤモリ系の魔獣よ~」
「ヤモリですか?」
ウーパールーパー魔獣ではなかったらしい。まぁ水中にいなかったしな。
「その前にギルド長、ヤモリを浴槽からどかしますのでシャワー浴びて下さい。真っ裸だとお腹が冷えますよ」
ウーパールーパー風ヤモリを水から出しタオルで軽く拭く。きっとお腹が減っているだろうが餌は何を食べるのか?
「⋯⋯まさか虫系じゃないよな?トカゲがコオロギ食べてるイメージがあるんだよな」
ウーパーヤモリはまったく動かないが喉元は動いているので生きている。試しにレタスを置くが食べない。バナナを置いても食べない。それらは結局亀に食べられた。
「シュクル~今日屋台で美味しそうな物買ってきたの~レストランも飽きたし、いいでしょ~?」
「いいですね~!温めてたべましょう!」
このホテルの部屋はキッチン付きの長期滞在者用だ。たまの外食はいいが、続くと正直疲れるのでありがたい。
「これは何でしょうか?」
ちまきのような謎の葉っぱに包まれた物がある。初めて見たし食べ方がわからない。
「葉を剥いて中を食べるのよ~」
「葉の中身は何だろう?イモを混ぜた肉団子?」
見た目も味も謎だが美味しい気もするし正直わからない。そういえば昔――
『ねーちゃん留学行って太ったな』
『お前デリカシー無さすぎ。だから筋肉にも愛想尽かされるんだよ。このマッチ棒。いいか?女は食の適応力が高いが男は低い。だから欧米に留学すると男は食事に適応できず痩せる。女は現地民と同化する』
『もう帰国したんだからそのマカダミアナッツチョコ止めなよ。カロリーヤバいよ』
『日本も欧米化してるからいいんだ。お前も食え』
『うぇ!甘すぎ!無理』
『お前が留学したら骨と皮になるだろうよ』
ねーちゃんの独断と偏見を含んだ持論も一理あったか。こういった謎メシを男の佐藤なら食わず嫌いで一口も食べなかったよな。だが女のシュクルは酷く不味くない限り残さず食べるのだ。
次はコレだな。天ぷらに似ているから期待できそうだ。
「どうかな?ん?バ、バナナ天ぷら?」
頭では塩味をイメージしていたから甘くてビックリした。これはデザートだな。
南は油が安いのか、嬉しい事に揚げ物が多い。楽しみな甘い物は最後だ。先にメインを食べなくては。
「あ!これは絶対に美味しいヤツだ。ケバブっぽい!」
袋状のナンみたいな物に薄切りの肉とみじん切りの野菜が入っている。これに外れはないだろう、期待できる。
おや?ソースが赤い。ケチャップじゃないし何のソースだろうか? ペロリ。
「辛い!!」
このコクのある辛みはタバスコじゃない。確かアリッサ?
そうだ!シュクルのいるヴィクトワール王国には辛みが無い。これはイカン。中年おっさんの味覚と食欲は下半身と比例して減退しているので食事に七味などの刺激が必要なのだ。香辛料買って帰るべ⋯⋯っておい!私は可愛い女の子だった!うさ耳転生EDおじさんじゃないのだ!
「ん~~!!!これ痛い~~!!食べられない!!」
ギルド長は辛い物がダメらしい。ネコ科の虎獣人だし仕方ないな。⋯⋯でも動物に有害そうなアルコールを飲みまくってるから種族だの科だのは飲食にそれほど関係ないのか?謎だな。
勿論ギルド長の分も食べる。シュクルは五感の内、味覚だけ鈍いのかもしれない。
私が転生ぶりの辛みを堪能していると急にギルド長がわめき出した。
「えぇ?!何?!凄!」
「ギルド長どうしま――」
――レロ~~~ン――パク――
「うぉぉおぉぉ?!」「ええええええ?」
いきなりウーパールーパー風ヤモリが壁を駆け出しランプのそばを飛んでいた蛾をレロ~ン、パクリと食べた。
「マジックハンド?!そんな巨体でどうやって壁を駆けるんだよ?!ロッククライマーの上級種かよ!」
「凄いわね~お腹が減っていたのね~」
その後も壁に貼り着いたままランプに寄って来る虫を食べ続けた。このホテルの窓には網戸がないのでランプに引き寄せられた虫が絶えず飛んでくるのだ。
「まぁ虫を退治してくれるし、いいか」
シュクルはバナナ天ぷらを美味しく食べて寝た。 今日はなかなか忙しい一日だった。