佐藤は昔、有刺鉄線に服を引っかけて破いて怒られた
「⋯⋯⋯⋯⋯ちょっと?どうして増えてるんですか?」
ホテルに帰ったらアレが増えていた。
「記念よ~シュクルが神になったのだもの~お土産に買ったの~」
この町は私のおかげで水の女神関連商品の売り上げを伸ばしているな。この偉大なるインフルエンサーに一割くらい売り上げを捧げよ。
「あ!これニーチェですよね?この神の使い商品も売っているんですか?」
「そうよ~可愛いぬいぐるみもあるのよ~」
「欲しい!」
ニーチェには到底見えないけど可愛いので記念に私も欲しい。だが何故神の使いは可愛くなっているのに水の女神は恐ろしいままなのだ?格差を感じる。
「これもあるわよ~」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
頭が開く水の女神の生首小物入れ、女神の顔で煙草を消すのか?女神灰皿、これは特に酷い⋯⋯マグカップの底に強烈な顔が描かれていて飲み干した時に目が合う、咽る事間違いなし女神マグカップ。心底いらねぇ。心底センスがねぇ。
「ギルド長、何か進展はありましたか?」
「テクノポリス皇国にいる諜報員と連絡が取れたわ~皇族が住む宮殿の方を調べてもらうのよ~」
私は今日苺さんから得た情報、ダサい皇弟が以前この製薬会社に訪れた事がある事を伝えた。
「さすが女神ね~仕事が早いわ~もうイチゴと仲良くなったのね~」
「そうですね⋯⋯」
ふと思い出すガッツリ被弾した言葉の弾丸⋯⋯うさ耳転生おじさん⋯⋯キモカワ⋯⋯カワがあればセーフか?オワコン⋯⋯オワコン?まだHOTだろ?頼むイケてくれ-。うさ耳おじさんは虫の息だ。
「あ、そうだ苺さんが沢山試供品くれたんですよ!」
「いいわね!私も今朝何点か購入したのよ~でもそれは諜報員に分析用って渡しちゃったし~私達も個人的に使いたいわよね~!」
女性は新しいコスメが大好きなのだ。もちろん私もだ。だから大丈夫。私はキモおっさんじゃない。もう完全なる可愛い女の子なのだ。うん。
天気がいい朝、太陽が昇り暑くなる前にニーチェと散歩をする。本当は湖の辺りが最高だが、連日の水の女神騒ぎで人出が多い。仕方がないのでそこから少し離れた林に入る。朝のひんやりとした空気が気持ちよい。
「ニーチェ、ここは食べられる草が少ないな。それに比べて湖の周りは草ボーボーでよかったよなぁ~そばに行っても私は偽女神だとはバレないだろうが、ニーチェの姿を人に見られたらどんな事になるかわからないし⋯⋯」
「ウーウ(あっち)」
「ん?いい場所がありそうか?」
ノシノシ歩くニーチェの後を追う。向こうに美味しそうな草でもあるのだろうか。
だが行けども乾燥した土地でも育つ松やトゲトゲの硬そうな植物しか生えていない。
あっちに見えるお化けサイズのアロエでも食べるのだろうか?
「ウーウ(あそこ)」
「おぉ?」
ニーチェが見つめる視線の先にバリケードが見える。バリケードの上にグルグル有刺鉄線が巻かれ、その向こうに小さい建物が見える。
初日に見たバストラ町の地図を思い浮かべる。確かこの辺りまではバストラ製薬の敷地内ではあるが、製造工場や医薬品研究所からは大分離れている。
「ニーチェはここが気になるんだね?」
「ウー(うん)」
侵入することは出来ると思うが⋯⋯どうするかな?その前にギルド長に相談するか?でも時間勝負な気もするし⋯⋯その後も絶対面倒だと思うなぁ。でもニーチェの言いたい事も分かるし⋯⋯
「⋯⋯二体かな?」
「ウー(うん)」
まぁ二体くらいなら大丈夫かなぁ?いや、物によるよな⋯⋯あーウジウジしてても始まらない。やるか!これはヴィクトワール王国の罪でもあるしな。
五感を強めてその建物の周辺、中の気配を探る。室内に人がいるのでいなくなるまで待つ。
「ウー?(まだ?)」
「まだだな。ニーチェの気持ちは分かるが焦って失敗してはダメだろ?待とうな?」
と冷静に言いつつも心の中では――
(なんて優しい子に育ったんでしょう?!飼い主が素晴らしいのね~!!)
と自画自賛しつつ監視を続ける。そして昼になり誰も建物からいなくなった。
「いいか?ニーチェはここで隠れて待ってて。誰か来たら逃げるんだぞ?」
「ウー(うん)」
バリケード上の有刺鉄線に触れない様にしてバリケードを超える。辺りに誰もいないのを再度確認して建物に近づきドアに手をかけるが鍵が掛かっていた。
どこかの窓から侵入できないか建物の周りを確認するがそもそも窓が無かった。
(困ったなドアを壊すしかないか⋯⋯)
できればあまり痕跡を残したくないと言うか、今回は複雑な問題が絡んでいるので強盗だの産業スパイだのと騒ぎ立てられて必要以上に警戒されたくない。
一応古典的な鍵の隠し場を確認する。まず一番有名なポストの中は⋯⋯そもそもポストがない。水道メーターの中⋯⋯水道ないし。植木鉢の下⋯⋯
「え?あった!」
最新の研究施設において、このザルな防犯は何故だろうか。