佐藤はうさ耳転生おじさん
バストラ中央図書館は町の真ん中にあり、美術館と見間違えるほどの彫刻が素晴らしい図書館だった。
入り口には左右二体の男女の彫刻があり、神像恐怖症気味なシュクルをドキドキさせた。
「すみません。初めて来たのですが、お金はかかりますか?」
この世界で本は高価な物とされるので図書館とはお金を払って入館させてもらう所らしい。ギルド長が言っていた。
「館内での閲覧でしたら無料ですよ。貸し出しにはお金がかかります」
「そうですか。ありがとうございました」
バストラ製薬で町が儲かっているから市民への公共サービスが充実しているのかもしれない。
図書館館内はひんやりと涼しく、図書館独特の雰囲気と匂いがした。
館内は広い。この中で顔すらわからないイチゴさん?は見つかるのだろうか? 日本人顔なら分かるかもしれないが⋯⋯
とりあえず館内を歩き回り、それらしい人物がまだ来ていない事を確認した。
「よし、ここにいれば入り口がよく見える。読書している風を装ってイチゴさんが来るのを待とう」
ちょうどいい場所に椅子を見つけたので適当に本を手に取り読んでいる振りをする。
「ん?何だこの本?石鹸の作り方?そういえばテクノポリス皇国の港町は石鹸で有名だったな」
油、水分、苛性ソーダ?あぁ水酸化ナトリウムか。簡単に作れそうだが苛性ソーダは値段的にどうなんだろう?そもそもどこで購入するんだ?薬局か?
「あ、まずい!入り口見てなかったわ。コンビニみたいに音が鳴ればいのにな」
「コンビニ?」
「うぇ?!」
真後ろに日本人な女性がいた。石鹸の本に夢中で気づかなかった!
「コンビニ?今、コンビニって言った?」
「あーあー?どうでしたかね?あれ?私何を言ったか忘れてしまいましたよ?」
どう答えるのが正解なのだ?!情報を得る為にも彼女と仲良くなるのは悪くないが、簡単に自分が転生者だとは伝えたくない。転生者は裏切られるのがお決まりだからな。
「どのコンビニが好きだった?おにぎりはどの具が好き?」
「⋯⋯⋯⋯⋯イチゴさんですか?」
「そうです。あなたは苺はキラキラネームだと思う?それともセーフ?」
「⋯⋯⋯⋯⋯可愛いのではないでしょうか?」
「ふ~ん?なるほど。あなたは転生者ね。そして中年だったのね」
「えぇぇ?!」
いきなりのプロファイリングが怖い。そして合っている。
「会えてマジ嬉しい!転移したら同じ転移者や転生者に会うのがデフォだもんね。なのに全然いないし、イケメンもいないし、可愛い物もないし!」
「は、はい」
「だから趣味の推し薔薇カプ探しに禁欲そうな神殿に行ったんだけど、枯れ果てたジジイしかいなかったの!ジジカプすらいなかった」
「はぃ?薔薇?かぷ?」
「ちょっ!あなたBLは守備範囲外とか?!⋯⋯もしかしてあなた元中年ジジイ??」
「えぇぇ?!」
何も話していないのに何よ?恐ろしい子⋯⋯
「おっさんが可愛い女の子に転生するアレ?噓でしょ?あなたそれオワコンじゃん?」
「いやぁぁぁ」
会って一分で止めを刺された。
もぬけの殻にされた私は外のベンチに連行された。ついでにフード外された。
「うさ耳転生おじさん!!いいかも!ある意味キモ可愛!!」
「うぅ⋯⋯⋯⋯⋯」
おかしい、こんなはずでは⋯⋯私は諜報活動を⋯⋯
「それでこの町に何か用事で来たの?ここら辺獣人いないから家族に会いにとかじゃないでしょ?薬でも買いに来た?」
「そう!日焼け止め買ったよ!苺さんが開発したの?」
「モチ!日差しヤバいっしょ?美白シリーズもね!」
苺さんは全女性の味方!彼女こそ女神だ。
「入って~!適当に座ってね」
「お邪魔します」
結構ゴリ押しが強い苺さんに連行され、彼女の部屋にお邪魔させてもらう事になった。想像と違い、室内は意外とシンプルだった。
「ハーブティーどうぞ~」
「どうも、お気遣いありがとうございます」
さてどこから切り出すかな?こんなチャンスまたとないよな。
「獣人ってどんな感じ?!すごい気になる!」
「運動神経もいいし五感が鋭いよ。でも種族によるみたい」
「そういえば前にナマケモノ獣人に会ったんだけど、すごいトロかったよ~」
ナマケモノの獣人なんていたのか。それは⋯⋯うん。それはそれで幸せだろう。
「私の国は魔獣も多いから能力使って魔獣狩りをしたりしてるよ」
「魔獣?うわ~ファンタジー!いるって聞いた事あるけどマジ怖くない?」
この感じだと苺さんは魔獣を見た事が無い?では魔獣成分を混入させているのは?
「種類によるね。物によっては毛皮や魔石を売ったりできるよ。魔術師は魔獣の色々な部位を魔術に使ったりもするみたい」
「へぇ~魔術師とか聞くと異世界だよね~クールだね」
魔術師も周りにいないのかな?
「マンガみたいに転移者は皇族に保護されたり~なんて事はないの?」
「ないね~でも一度私が開発した商品の視察に皇族が来たかな?でもイケメンじゃなくてダサメンだったから」
ほう?皇族が一度製薬会社を訪れていると。いい情報だな。
「テクノポリス皇国の皇子?」
「いや、皇帝の弟らしいよ。なんかキモかった。服のセンスが血迷った高校デビューな感じ?初めて香水使ってみたけど、いい匂いじゃなくて、おじいちゃんが頭に塗る変な匂いのコロン?使っちゃったみたいな?」
「ぷっ」
皇弟はお洒落分岐点無視し続け、大人になってから目覚めたのだろうか。
「笑えるけど、靴のつま先がとんがってたの!そのとんがりの先がクルリンって丸くなってたの!魔法の絨毯乗れそうなくらい!」
「あ~~~典型的オサレ迷走中~」
反面教師としてシュクルも少しはファッションに気を付けようと思った。
そして何だかんだで楽しい時を過ごし、これからも連絡を取り合う事となった。