佐藤は海外のクオリティーの低い着ぐるみが怖い
『シュクルは耳が弱いから気を付けなきゃ駄目よ』
そうだった耳が弱かったんだ。 あんなにも母に言われていたのに⋯⋯
「ウー(大丈夫?)」
「これは中耳炎ね~湖で泳いだ時に耳に細菌が入ったのよ~今日は大人しく休んでなさいね~」
久々の発熱に懐かしさを覚える。佐藤は幼い頃、熱で幼稚園をお休みした時に寝ながら子供番組を見ていた。するといつもは気にならない着ぐるみキャラの漆黒の口の中が怖くなった。他のキャラを見たら今度はメッシュ状の目が怖くなった。次はパコパコ動く左右の口のラインだ。首と頭のつなぎ目もモゲそうで怖かった。
てな事でホテルの部屋に飾られている手作り人形が怖くて仕方がない。裸に薄い布を纏った黒髪の女性で、頭の横に長い角みたいな物が生えている。全体的に肌色は青白く足元にはワニとオオサンショウウオを混ぜた様な奇妙な生き物がいる。
地獄の獄卒みたいで怖い。突然動いたらどうしょう?『転生者み~つけた。地獄へ帰りなさい』とか言って地獄行の火車の乗せられるのだ。
⋯⋯この人形のこの存在感は呪物かもしれない。
そんな事を考えていたらいつの間にか眠っていた。
その後、結局三日も寝込んだ。ウサ耳は大事にしなくてはいけない。
三日振りに外に出る。日光を浴びながら健康っていいな~!と実感する。
ギルド長とニーチェと共に食事に出かけようと道を歩き出したら、なんとあの地獄の獄卒をモチーフにした物で町が溢れ返っていた。
「ヒェ!!やっぱり呪物だったんだ!ウィルス並みに爆発的に増殖している!!」
呪物感染?悪鬼ウィルス?!たった三日で街並みを変えるとは怖すぎる。特級だ。
「どうしたの~シュクル?あぁこの人形?凄い騒ぎなのよ~水の女神様が現れたんですって~」
「はい?女神?」
バストラ大神殿。この国の信仰の場。長い行列を並んで神殿にやっと入れた。
「うむうむ、女神様三柱、愛の神、豊穣の神に水の神。男神三柱、学問の神、戦の神、火の神⋯⋯」
まぁよくある感じだよな。それぞれの大きな神像があって人々がお祈をしたり、ろうそくを置いている。その中でも人々が群がっている像がアレだ。 そしてその前にあの日の少年少女がいる。
「私達は見たのです。湖の中心に佇む美しい水の女神を。頭には左右長い角があり、人とは違う見た目に白い肌をしていました」
「俺は神の使い様も見ました。今まで一度も見た事の無い生き物、まさに神の使い様以外考えられません」
「私にはわからない神の言語を話され、そして水の中にすーっと消えていきました。神の使い様もいつの間にか消えていました」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
地獄の獄卒は私だった。街並みを変えるほど感染力の強い特級呪物も私だった。
「キャハハハハッ~!!シュクル何してんのよ~?!」
「こんな事になるとは思わなかったんです⋯⋯⋯⋯⋯」
今の私は黒髪で肩までの髪の長さだが、水の女神は長い黒髪だ。しかしあの時は湖に肩まで浸かっていたので長髪に見えたのだろう。
二本の角とはうさ耳だろう。ここには獣人も見かけないし、遠くからならそう見えるかもしれない。北出身なので肌は白い。ちなみに『くしゃみ+すっとこどっこい』は神の言語ではない。老人言語だ。
ここには魔獣どころかドラゴンなんて生息しないのでニーチェを神の使いと間違えるのも理解できる。
「でもシュクル~裸で泳いではダメよ~?女性の大切な場所に入り込む魚がいるらしいのよ~引っ張って出そうにも釣り針みたいな返しが付いていて大変な事になるらしいわ~」
「ヒィ~!!!怖いです!!」
もう二度と裸では泳がないと水の女神に誓った。
「それで製薬会社の方はどうでしたか?」
「それがね驚きなのよ~――」
二~三年前に一人の少女が突然町に現れたらしい。その子は自称違う世界から来た子だそうで身寄りがない為、製薬会社の工場で働き始めたそうだ。
だがその子は異世界の薬の知識を持っていたらしい。今まで無かった新薬開発や化粧品の新製品の案を次々に出し、そしてそれが大ヒット。バストラの名を一気に世界規模の大会社へと押し上げたらしい。
「なるほど。ですが魔獣の毒を製品に混入させるのは一体何が目的で?」
「まだわからないわ~でも我が国の貴族とテクノポリス皇国の貴族との手紙のやり取りの内容から、なんとなく読めるわよね~」
実にきな臭い。そして異世界から来た子も気になる。
「噂ではその子、イチゴちゃんていう名前らしいわ~仕事後毎日バストラ中央図書館に行くらしいのよ~」
イチゴ⋯⋯ある日突然現れた彼女は異世界転生者ではなく異世界転移者なのだろうか。イチゴって名前だし、 日本人の可能性もあるよな。
「大人の私じゃ怪しいでしょ?シュクルがイチゴちゃんに近づいてね~」
「はぁ、私も十分怪しいですけど?見た目が地獄の獄卒ですし」
私は夕方になるのを待ち、バストラ中央図書館に向かう事となった。