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佐藤はグレイ型よりタコ型宇宙人が可愛いと思う

 大捕り物があった翌日、学校に行った私は困った事態に陥った。


「よし!みんな昨日町では色々あったみたいだが、予定していた通り水泳を海岸で行う!」


「え?!」


水泳だと?!昨日学校を休んだ私は知らなかった⋯⋯今日水泳の授業があったなど⋯⋯


「今から水着に着替えろよ。それから走って海岸まで行く。そして水泳の授業だ!」


「「「「やった~!楽しみ!!」」」」


私は一人机に座り机の傷を眺める。傍から見たら楽しみにしていた水泳の授業だったのに水着を忘れて落ち込む生徒だが、問題は勿論違う。『水着を忘れました~だから見学します』などと言って水泳から逃げる事は絶対に許さないという熱意をひしひしと感じるのだ。


アベル先生は予備の水着を持ってきている⋯⋯無論、海パンだ。


さすがのシュクルもこれはイカン。今朝も元気一杯に走って登校したので怪我、病気系の言い訳は使えない。ではどう回避するのが正解だろうか。


「あれ?カイザー君着替えないの?水着忘れちゃったの?」


「先生に借りられるよ!いつも何人か忘れてくる子がいて、楽しい水泳が見学になったら可哀そうだからって先生が用意してくれてるんだ!」


「イイ センセイ ダネ」


もう先生に正直に言うかな⋯⋯私の正体に気づいてるし⋯⋯


「先生ちょっといいですか?今日の水泳ですが⋯⋯」


「あ!カイザーは昨日いなかったもんな。水着忘れたんだろ?貸し出すぞ?」


「そうではなくて、その⋯⋯水泳は出来ないですね」


いざとなると『自分、本当は女です』なんて言いにくいな。


「⋯⋯あ!そうか、獣人は水が苦手なヤツ多いもんな!じゃあ見学になっちゃうけどいいか?」

「はい!」


あぁ獣人でよかった。




 冬の海を生徒達が楽しそうに泳ぐ。将来海上警備をする者達にとって水泳が出来る事は必須条件だ。

クラスメイトが泳ぐ姿を横目に私は砂浜でリゾート気分を味わう。


「やはり海での面白アイテムと言えばナマコだ。これは思春期の子供達の興味や笑いを生み続けてきた基本的アイテム。基本は外すべからず」


海中に佇んでいるだけのナマコなので早速見つかったが、素手で触っていいのだろうか?毒はあるのか?でも数多いるマンガの主人公たちが掴んで振り回してきた歴史があるし大丈夫だろうな。


「この形状がウケるのか?それとも柔らかさか?色か?若干醸し出されている、いかがわしさだろうか」


水中でナマコを掴む。茶色くてイボイボした大きいナマコだ。よく観察しようと水中から出したその瞬間――


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!何かが出た!!」


いきなり何かを噴出したので怖くて投げ捨てた。こんな突発的な事態を友人達と笑って楽しめるのが若者か?あぁ若者ぶった行動で無駄に心臓に負担をかけてしまった⋯⋯


「アカン。元おっさんは大人しく海の家でイカを焼いているべきだった。生き物観察はハマグリの中のチビっ子カニで十分だった」


残念な事に見える範囲には中年のオアシス、海の家がない。する事もないので定番の貝殻拾いか砂に絵でも描くか?


「違うな。砂浜は金目な落とし物を探すトレジャーハントの定番ではないか!」


あぁ金属探知機が欲しい。マグネットフィッシングもいい。きっとゴミしか手に入らないだろうがワクワクがある。そうだこの世界には圧倒的にワクワクが足りない。


「トレジャーハンター出動!!」


小枝を集めて落ち葉を集める時に使う手箕(てみ)の様な道具を作る。これで砂浜をガリガリして砂に埋まっている金目な物を探すのだ!


「お金が落ちていても銅貨は塩でダメになってそうだよな。なら貴金属がいいかな?でも塩がな~フンフ~ン」


しばらくガリガリするが石と枝しか出なかった。誰か財布とか落としておけよ!私なら絶対に落とさないけどな。


「でもこの道具は使えるな。食べられるアサリとかカキとか集めよう」


トレジャーハントは時間の無駄だったので堅実的に行こう。

靴と靴下を脱ぎ、裸足で水の中に入る。ひんやりしていて気持ちいい。


「あ~気持ちいい!生き返るね~あ~~~」


あまりの気持ちよさに、いつもは抑えられているおっさんパッションが漏れ出る。

砂浜に誰もいなかったのが幸いだ。


「あ~生きてるっていいな~!あ~あ?」


真横から強い視線を感じる。周辺には誰もいなかったはずだが⋯⋯恐る恐る強烈な目線を私に送り続ける相手を確認する。


「え?タコ?大きい⋯⋯」


小さな岩に大タコが乗っていてこちらをガン見していた。体長⋯⋯いや、タコの体長の図り方がわからない。八本あるのは足なのか腕なのか。目は分かるがあの頭みたいな袋状のエリアは何だ?まさかそんな場所に胴体が?それに水が出入りする短いホースみたいなのは何だ?


「お、お前見た目が奇怪すぎるぞ!!宇宙人だろ!!変な目で見てんじゃねーよ!!」


「⋯⋯」


大タコは動かず無言(当たり前)で私を見続ける。


「昔クイズ番組で見たぞ!お前の血は青いんだろ!心臓も脳も何個かあるって聞いたぞ!この異星人がぁ!帰れ!」


「⋯⋯」


全く動かない。嫌だ怖い。


「タコよりイカの方が絶対可愛い!お前――あれ?消えた?ううううううわわわわ」


岩から音もなく消えたと思ったらこちらへ泳いで来た。想像していた以上に泳ぎが早い。


「来るな侵略者!吸盤野郎はあっち行け!!な、黒い毒がぁ噴射されたぁー!ギャァァァァ!」


――ザバン――


驚きで足をもつれさせ、水中にひっくり返ってしまった。気づいた時にはタコはもういなかった。


「タコの襲撃⋯⋯?」


一体何だったのだろうか。びしょ濡れになってしまった。



「おいカイザーどうした?びしょ濡れじゃないか。そうか、お前水が苦手なのにみんなと水泳したかったんだな」


「⋯⋯はい」


今日は実についていない一日だった。

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