佐藤はパイプをふかしながら船のハンドルを回してみたい
――パン――
火薬の音が遠くから聞こえた。開始の合図だな。さて行くぞ!
私がいたのは船の最底部。階段を上がりつつ人の気配を探ると上に集中していた。場所は三か所くらいにばらけているな。まずは人数が少ない方から行こう。
「お?――」「何だ?――」
休憩室らしき場所でまずは二人。秒速で意識を奪い、ギルド長に教わった腕の関節外しを施し、足は下船できなくなると困るので折らないが、ドアに差さっていた休憩室の鍵を閉めて出られなくする。このドアは内側からも外側からも鍵無しでは開けられない様だ。
船の甲板に数人いるな。それと操舵室だが私が全員拘束してしまったら船の操船はどうするんだ?わからないのでとりあえず甲板に向かう。
「この船の動力って何だ?まさか風頼りじゃないよな?」
一応船長はキープするとして、他の船員は必要ないのか?帆船だったら帆を動かす必要があるよな。騎士養成校で習ったぞ。仕方がない直接プロに聞くか。
「大声出すなよ?」
「は?何だ?お前何だ?!」
一人で甲板にいた男の背後に回り折れた木箱の欠片を経静脈に当てる。
「この船の動力は何だ?」
「え?は?動力?船長の魔力と風だろ⋯⋯?」
「では今から港に引き返すとしたら船長の魔術だけで出来るな?」
「そ、そうだな――」
この男の意識を落としたので周りに落ちているロープで縛っておく。甲板には船員があと二人いたが同様にした。
残りは操舵室だ。気配を消して操舵室に入り、船長以外の三人の意識を奪おうとしたのだが⋯⋯
「お前は何者だ?!どこから来た?!」
船長と思われる男ともう一人が魔術で応戦してきたが、それほど強い攻撃ではないので避けれた。
「すみませんが港に戻って下さい。すでにモヴェーズ商会の方に魔術師団が調査に入ってますから。終わりです」
「はぁ?お前みたいな子供が何を言ってんだよ?船から降りろよ」
「私の師匠ですかね?あの人は武器を携帯させてくれないんですよ。酷いと思いませんか?だから今日はコレです。召し上がりますか?」
「グァ⋯⋯」
木箱に入っていた長いサラミで男の鳩尾を突く。そしてシュクルらしく股間をバコバコに打ちのめす。
「船長はどうしますか?」
「チッ戻ればいいんだろ!」
股間への無慈悲な攻撃を見てしまった船長は大人しく従った。やはりこの攻撃は男性へのインパクトは大だ。
船長は魔力持ちなので気を抜かずに後ろから監視を続ける。程なくしてアテナの港にたどり着いた。
「王都第三騎士団だ!動くな!」
やれやれ疲れた。後は任せてニーチェと帰るかな~
「あれ?獣人の子供?あなたは⋯⋯」
あ、何て説明すればいいんだ?ギルド長は確かセリーヌって名前だよな?でも苗字は知らないし、騎士団員だよな?彼女の指示と言えばいいのか?説明が難しいな。ああそうだ⋯⋯
「これです」
ギルド長から胸に付ける様に指示されたバッチを見せる。
「?⋯⋯え?!そうでしたか、失礼しました!」
「⋯⋯」
え?何この丁寧な態度?このバッチそんなに凄いの? 獣王だかは有名なの?
「所でサバン魔術師はどこでしょうか?」
まずい。トイレに押し込んだままだった。私がトイレ中のサバンをいきなり攻撃したのもバレたくないな。せめて私が下船してからサバンを解放して欲しい。
「あ、うーん、彼はトイレにいまして、数日間奴隷でしたから色々大変だったみたいです。もう少ししたら声を掛けてあげて下さい」
「⋯⋯そうですか」
休憩室の鍵を騎士に渡し、船員たちの引き渡しを終え、ニーチェを連れて下船する。
「あ~疲れたなぁ~ニーチェ!帰って寝るか!」
「ウー(いいね)」
――コンコン――
「サバン魔術師いらっしゃいますか?おかしいわね⋯⋯このトイレにいるって聞いたけど」
「返事がありませんね?中で何かあったのでしょうか?サバン魔術師に危害を与えられる者が中にいるとしたら危険過ぎます。すぐに対抗できる様、応援を呼びます。おい!皆ちょっと来てくれ!」
「そうね、一応戦闘準備をして、用意はいい?サバン魔術師!開けますよ?いいですね!」
――ドカ――
「⋯⋯⋯え?」
「「「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」」」
トイレの中には下半身を露出して意識を失っているサバン魔術師と少しオネェさん風な船員が狭いトイレに詰まっていた。