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佐藤もぬいを作ってみたい

 家は貧乏な男爵家だ。我が男爵家が管理するパックの町周辺は人口が増えてきているので、どんどん税収が上がると思っていたが、常に魔獣被害や雪の影響で出費がかさむ。なので結局我が家は貧乏なままなのだ。

だがね、この間お邪魔した伯爵家の邸宅より豪華なのはなぜだね?

士農工商⋯⋯王公侯伯子男⋯⋯?なんだその順番は。一番の金持ちは商才のある商人だろ?

けしからん。非常にけしからん。


「ジェロームさん、ここは美術館で間違いありませんか?」


「はぁ?俺ん家だけど?カイザーは美術品がす、好きなのか?」


「勿論大好きです(金目な物は大好きに決まっているだろう)」


「⋯⋯大好きぃ⋯⋯大好きぃ⋯⋯」


美術館の回廊を抜け、老舗ホテルみたいなテーブルに案内された。座った瞬間にお菓子とお茶が出てくる。嬉しいがどうしてだ?今日私が遊びに来る事は知らなかったはずなのに準備万端じゃないか。


それにしてもこの目の前に存在する三階建ての食物は何だ?アフタヌーンティー的な物の大きさではないぞ?この規模は最早ウエディングケーキだろ?一人で入刀していいのか?夫婦初めての共同作業じゃなかったか?じゃあ私の右手と左手の両手で入刀なら妥協点だな。稀なる一人でウエディングケーキ入刀体験ポイントゲットだぜ。


「素晴らしいおもてなしですね。感動しました!美味しそうです!」


「一杯食べろよ。中にカイザーの好きなフルーツも沢山入ってると思うぞ!」


「はい!所でこのケーキはいつ準備したのですか?」


「お?カイザーが遊びに来るって決めた時に俺の従者が知らせに戻ったんじゃねぇか?」


「そんな短時間で準備を?!この家にもセバスがいるんですね?」


なんてこった。たかが十五分位でこの準備を整えたのか?金持ち恐るべし。


「?セバスって誰だ?」


「悪魔レベルにシゴデキな執事の総称ですよ。それではいただきます」


まずはお茶を一口。これはジャスミンの香りがするぞ。沖縄の修学旅行で飲んだ懐かしの味だ。目を閉じると太陽と程よい湿度を感じる。サラサラと風が吹いていて揺れる⋯⋯


次はケーキだ。私が入刀したかったがメイドさんが切り分けてくれた。さてケーキを⋯⋯ってこのフォークの細工細かいな!この皿の絵も凄!しかも金で縁取っているけどさぁ、ぶつけたらどうするの?全く皿ごときに金かけやがって!けしからん!


さて抗金持ちへの突っ込みも十分だな。それではケーキをいただきます。


「なんとケーキの中がフルーツの宝石箱!!」


まずは定番の宝石箱発言から始めるのが食レポの定石。定石は外せない。なぜなら先人達、いやあの重鎮であるお方がきっと試行錯誤をして生み出した最強パワーワードだからだ。それは実に洗練されていて無駄が無く、ピンポイントで聞いた者の脳裏を光り輝く七色に染める。


「ツヤツヤなフルーツ!甘い~!甘酸っぱい!」


日本人なら擬音語を使いこなすべし。むしろ新しい擬音語を君が生み出すも良し。ツヤツヤ、プリプリ、キラキラ、プルプル、シコ⋯⋯おっとイカン。これはシュクルが学院に入学するまではダメだ。R15はまだ早い。ちなみに十五歳になったらR18指定ギリギリを攻め続けるエロチャレンジャーなギリ卑猥アスリートになる所存だ。


次、女子を味方につけるならやはり”甘酸っぱい”は外せない、デザート用語界の定番中の定番。正直佐藤は苦手だったが、甘酸っぱいと言うパワーワード一つで口の中を唾液に支配させる美食界隈のミサイルワードだ。口内への攻撃力が高い。


「凄い美味しい~!!幸せ~!!ジェロームさんこんなに美味しい物を毎日食べられるなんて幸せですね!羨ましい!」


本気で美味しいが、この発言のポイントは『そんなに好きならお土産に持って帰りな』や『また食べに来いよ』を促す事にある。モヴェーズ家への訪問を是非とも日課にしたい。


「そうか、そんなに喜んでくれるんだな!うちの料理人も嬉しいだろうよ!親父や兄達の客は食いもんに手ぇ付けねぇからな」


「えぇ?こんなに美味しいに食べないんですか?!」


「食わねぇな。手ぇ付けねえの分かっていても形だけは出すけどな。そうだこのケーキは持って帰るか?」


「いいんですか?!嬉しいです!ニーチェも食べるかもしれない」


「⋯⋯あの竜がケーキを食べるんか?それと美容だかのクリームも持ってけよ?俺は商会の仕事は詳しくねぇが、この屋敷には使わねぇ商会の商品が結構あるんだよ。いらなきゃ捨ててかまわねぇからな?」


「ありがとうございます!!あぁ今日ジェロームさんに会えて本当によかったです。幸せです。またお邪魔してもいいですか?」


「ぐはぁ!」


沢山の商品とお菓子を山盛りいただき、家まで送ってくれた。チョロい。


――ジェローム――


今日は開港記念日だから休みだ。俺はやる事もねぇし、家でゴロゴロしてても体が鈍るから町に出た。毎年大して変わらねぇし、見たい物もねぇが暇つぶしがてら人波に合わせて歩く。しばらく行くとベンチに可愛い子がいた。


大砲をぶっ放して以来、可愛い子と仲良くなったと思う。可愛い子カイザーは自分の事はあまり話さねぇが多分外国の貴族だろう。魔力がすげぇってアベルが言ってたし、ペットが竜だからな。竜がペットなんて聞いた事ねぇ。きっと色々すげぇんだろう。


俺はいつもダチ達と一緒にカイザーに話しかけてるから、今日みたいに一対一で話した事がねぇ。何か緊張のあまり、ついダチを相手するみてぇに家に誘ってしまった。


だがなんとカイザーは家に来た。


『ジェロームさん、ここは美術館で間違いありませんか?』


何をカイザーは言ってるんだ?でもたまに同じことを言う客はいるな。美術品が好きなヤツに多い。


『はぁ?俺ん家だけど?カイザーは美術品がす、好きなのか?』


やべぇ、す、好きって言う時舌を噛んでしまった!すげぇ恥ずかしい!


その好きは俺の事じゃねぇぞ!もちろん美術品の事だ!


『勿論大好きです』


⋯⋯大好きぃ⋯⋯大好きぃ⋯⋯頭の中で反響する。あれ?好きって美術品の事だっけ?俺の事だったか?


カイザーはうちの応接室にいる。なんて可愛いんだ。この家は金ぴかな美術品ばっかで可愛い物がねぇ。後ろに控えてるメイド達もカイザーの可愛さに悶えているのが見える。


どうやら俺がカイザーを家に誘ったのを聞いた時点で、俺の従者が即行帰ってお茶の準備を頼んだんだろう。クソでけぇケーキの城みてぇのが出てきた。うちの料理人は火とか水魔法が得意なヤツが多いからな。ガンガン魔力使って作ったんだろう。


カイザーが俺の執事の仕事の早さをベタ褒めた瞬間、俺の従者の口がうねうねし出した。嬉しいんだろうな。可愛い子が褒めるのならコイツを従者から執事見習いに昇格させるか。


カイザーが茶を飲んで笑顔で美味しいと喜ぶ。茶を入れたメイドが今にもカイザーのぬいを作り出しそうだぜ。気持ちはわかる。俺も欲しい。


次はケーキを専門家みてぇに褒める。ドアの隙間から盗み見してる料理人がよだれを垂らす。何でだよ?


そしてもっともっと褒めだす。料理人の目が赤い。あいつ瞬きしてねぇな。


そして目線はカイザーから外さずお土産用の箱を手元で作り出しているじゃねぇか。器用だな。仕方ねぇカイザーに聞いてやるよ。


『そうだこのケーキは持って帰るか?』


『いいんですか?!嬉しいです!ニーチェも食べるかもしれない』


料理人の口からよだれだけじゃなく舌も飛び出た。口元がだらしねぇな?変わったヤツだぜ。


『それと美容だかのクリームも持ってけよ?俺は商会の仕事は詳しくねぇが、この屋敷には誰も使わねぇ商会の商品が結構あるんだよ。いらなきゃ捨ててかまわねぇからな?』


メイドの一人が速足で部屋を出た。きっとクリームだか化粧品だかを掻き集めるに違いない。


『ありがとうございます!!あぁ今日ジェロームさんに会えて本当によかったです。幸せです。またお邪魔してもいいですか?』


『ぐはぁ!』


最後に俺の心臓を止めにキタ――!


今日応接室にいた者は全員カイザー沼に落ちたのだった。


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