佐藤の念願の学ランと逆ハー
「今日からあなたはシュクルではないわ。カイザー・シュナイダーよ」
「⋯⋯もう少し群衆に埋もれる名前にして欲しいのですが⋯⋯」
「あら?シュナイダーはよくある名前よ?それに獣王になるのだから皇帝なんて素敵な名前じゃない~」
真冬のシロクマ対決と冬の魔獣狩り巡業は回避出来たが、ギルド長にまたしても無茶振りを押し付けられた。
「さてカイザー準備はいい?今日からこのアテナ騎士養成校の留学生よ!」
「よくないです。ここには男子生徒しかいませんよ。絶対バレます」
「大丈夫よ~あなたは胸も平らだし、髪も黒く染めたから目立たないわ~」
「確かに胸はないですけど、あるべき物も無いではありませんか!それに髪は染めましたが違和感だらけで変ですって!」
「カイザーは神経質だわ~無い物は作ればいいじゃない?このハンカチでも詰めれば大丈夫よ~おかっぱの黒髪が似合ってるわよ~」
先日ギルド長と共にこのヴィクトワール王国の南東、アテナの町に着いた。この町は王国に数か所ある貿易港の一つで異国情緒豊かで人口も多い。
シュクル念願の海を拝めて喜んでいたのもつかの間、『シュクルはお勉強したいのよね~?なら学校に通いましょう~』と言われ、この地にあるアテナ騎士養成校へ強制入学させられそうになっている状態だ。
「いいカイザー、しっかり情報を掴むのよ~?」
「⋯⋯はい」
私に拒否権など初めから無いのだ。行くしかない。
「カイザー・シュナイダーです。よろしくお願いします」
「みんな仲良くな!俺は担任のアベルだ、よろしくカイザー。そしてよく精進するように。では空いてる席に座って」
「はい」
このアテナ騎士養成校は十歳から十五歳までの騎士志望の子供が通っている。優秀な者や貴族はその後王都の学院に通うが、大抵の生徒たちは卒業後にこの国の第四騎士団の海上警備兵や国境警備兵になるそうだ。
この養成校の制服は学ランぽくてちょっとだけ気分が上がる。佐藤は中高ブレザーだったから学ランに憧れがあったのだ。 ⋯⋯でも首が絞まる感じがしてちょっと嫌だな。
クラスは十歳クラスで約三十名。一番低学年のクラスだ。裕福そうな平民が大半な印象で十歳の割に体格に恵まれた子が多い。この学校に入学するには入学金もかかるし、今着ているお高そうな制服だって購入しなくてはならないのだから貧乏人はいない。あ、いたわ。私だ。
ちょうど私の横には窓があってキラキラ輝く海が見える。いい天気だな。実家はもう雪が降り始めているのに。あ、そういえばまだ海魚を食べていないではないか!これは大問題――
「――カイザー、カイザー!」
「ん?はい!」
「大丈夫か?何度も呼んでいたんだがな。授業は分かるか?この答は?」
「失礼しました。それは65です」
「おう。そうだ。では――」
ヤベェ。早く自分の名前に慣れないと周りから変に思われるぞ。季節外れの転校生で髪も変だしな。
全くなんでこんな髪に⋯⋯そう、あれは旅の途中で起きた⋯⋯
『変装するわよ!変装は私達獣王にとって朝飯前でなくてはならないの。これから美容院へ行きましょうね~』
『そうなのですか?でも生まれて初めての美容院なので楽しみです』
『――シュクル起きて~終わったわよ~』
『あ、すみません気持ちよくて寝てしまいました⋯⋯はい?えぇぇ?』
寝て起きたら黒髪おかっぱになっていた。どこ所属の禿だよ?耳は元のピンクなのが居た堪れない。おピンクなうさ耳付きカチューシャをしてるみたいに見える。
『この変装って成功ですか?私には失敗に見えますけど?』
『あら~⋯⋯何事も経験よ?』
『なるほど。大失敗なんですね』
はぁ~変装は目立たない方がいいのにな。仕事上人々の記憶に残りたくないのに。
さて気を取り直してギルド長からの指示を実行しなくてはな。無料で学生生活を送れるわけではないのだ。あくまで諜報活動の一環なのだ。
「ねぇ君!君はどこから来たの?外国?」
「あぁそうだよ。お隣のアーディ王国から来たんだ。よろしくな」
ギルド長と作った経歴だ。このヴィクトワール王国の東側にある友好国、アーディ王国から親の仕事の都合でやって来た短期留学生である。
「そうなんだ!俺はジャンだよ。よろしく!」
人懐こそうな印象を持つ茶色い髪に青い目の男の子。いかにもいい子な感じが漂う。
「よろしくジャン。ところでジャンは騎士になるのかい?」
「俺は次男だからそうなると思う。でもあんまり強くないからな~お父さん小さいし、俺も大きくならないだろうな」
長男が家を継ぐのがデフォだもんな。次男場合、長男の補佐をする者は家に残れるが、大抵の者は家を出る必要があるので、ある程度大きくなったら職業を決めなくてはならない。その数ある職業の中でも騎士になれれば将来は安泰だと言われている人気職だ。
騎士とは国家公務員みたいな感じだろう。
「筋肉は鍛え方次第らしいぞ。ところでジャンは騎士になったら海上警備をするのかい?海上警備ってどんな感じだ?」
「多分そうなるね。海上警備は輸入輸出の船を管理したり、無いとは思うけど外国の戦艦から攻撃を受けたら国を守るために戦うのが仕事じゃないかな」
「そうなのか。このアテナには沢山の貿易商会があるんだよね?何を輸出入してるんだい?」
「うちの商会は工芸品を貿易してるよ。食器とかね。でもアテナで一番大きいモヴェーズ貿易商会は医薬品から魔獣素材、人も貿易しているらしいよ」
「人?!人身売買じゃないよな?」
「違うよ?教師を他国に派遣したり、技術者を交換したりしてるらしいよ」
「へぇ~」
貿易にも色々あるんだな。だがモヴェーズ商会の情報がすぐさま得られてラッキーだ。このモヴェーズ商会こそが今回の目的だ。
「モヴェーズ商会の三男が五年生にいるよ。でもすごい怖そうなヤツらだから目を付けられない様に気を付けてね!」
「そうなのか、ありがとう」
五年生は十四、五歳くらいのクラスか。学年も違うしどうやって近づくかな⋯⋯




