クラリスの事情
「うぅぅぅ栗が一つも残ってなかったぞ!」
酷い⋯⋯私の楽しみ、甘味がぁ!
「シュクルどこに行ってたの?栗が拾えなかったの?私の半分あげるから一緒に食べよ?」
「グハぁ!天使!クラリスが甘い!御馳走様っす!」
こんなかわいい子から栗を徴収するなんて出来るかよ!
「クラリスは先に帰っててね!さてちょっと木に登るか。まだ木から落ちていないのを落としてやる!」
「でもシュクル、ジュール先生が栗の木をゆすって全部落としてたよ?」
「絶望!!」
あの筋肉野郎め。どうせ筋トレの延長で木ゆすってたんだろ?
「今日でよーくわかった。私には植物採集は向かない。今から冬眠前の油の乗った獣を狩って来る!!クラリスはお腹を減らして家で待っててね!とう!」
「あ~シュクルまた行っちゃったな⋯⋯お肉よりもシュクルと一緒に過ごせる方が嬉しいのに⋯⋯」
私達は三つ子だ。私が長女で、ノエル、シュクルの順番で産まれた。
妹のシュクルは昔からすごい。弟のノエルは病弱で両親の関心をいつも独り占めにしていた。でもノエルはすごくいい子だし熱を出していつも苦しそうにしていたから何も言えなかった。
お母さんは体調の悪いノエルと過ごす時間が長いので、私はお父さんに抱っこしてもらったり甘えたりしていたけど、シュクルは一度もそんな事をしてもらっていなかった。
(シュクルは寂しくないのかな?すごいなぁ。私の方がお姉ちゃんだけど、シュクルの方がお姉さんみたいだね)
シュクルはいつも何かをしている。一緒に遊びたいけれど、シュクルは遊びじゃなくて家族のためになる事をしているのだから邪魔できない。
森で食べ物を探したり、家族で使う薪を割ったり、文字も読めるし、計算も出来る。
ある日、私には読めないお父さんの本をシュクルは読んでいた。
『何だ?この小学生レベルのエロ小説は!官能小説界隈は深いんだぞ!こりゃ私が書き直すべきであろう?将来この国のエロ小説を転生者らしく牛耳ってやろうか?ククク⋯⋯ヴィクトワール王国総〇起計画を立てよう』
『シュクル何言ってるの?』
『いや、違うんだこれは!その、父の本であって私に疚しさはないよ?うん』
シュクルは難しい言葉をよく知っている。きっと沢山本を読むからだと思う。
そしてシュクルはより強くなっていった。
『おや?今日もお肉が沢山あるね!今日のお肉は何肉かな?』
『ロバートおかえりなさい。シュクルが魔猪を一頭丸ごと狩ってきたのよ。腸詰も作らなきゃね。塩漬けにして保存もしたいわ』
シュクルはどうやってこんなの大きな魔猪を捕まえたんだろう?私だったら怖くて逃げたくなっちゃうよ。獣人は運動能力が高いって聞いたけど、うさぎ獣人は愛玩?大人しくて可愛い獣人だって聞いた事がある。
学校に通い始めてもシュクルに学ぶ事は無かったみたい。シュクルは冒険者ギルドの冒険者になってお金を稼ぐって言っていた。シュクルのおかげでうちのご飯は豪華になったし、一杯食べれるようになってノエルも前より元気になった。お父さんも前より逞しくなって私も背が伸びた。そんなある日――
『シュクルが戻らないわね。どうしたのかしら?』
『森に行ったんだよね?少し見に行って来るよ』
いつもシュクルは日が暮れる前に帰ってくるのにその日は真っ暗になっても帰って来なかった。お父さんが探しに行ったけど、夜の森は真っ暗で危険だから朝まで捜索を待たなければならなかった。朝になってお父さんは冒険者ギルドに行って冒険者達と捜索をしたけどシュクルの身に着けていた物さえも見つからなかった。
『森の奥に今グリフォンの巣があるらしい。それで周りの魔獣も餌になってて、その⋯⋯』
『そんな⋯⋯』
シュクルはグリフォンの餌にされてしまったのだ。
そんな事言われても信じられないけど、シュクルはどこにもいない。家の中が暗くなって、寂しくなった。楽しかった家族との団欒もシュクルがいないと辛くなってしまう。
辛い日々が続いたけれど、段々とシュクルがいない事が日常になった。相変わらずシュクルの知り合いの冒険者のおじさん達が捜索を続けてくれていたけど、何一つ見つからなかった。
そして三年経ったある日――
『クラリス!シュクルが家に帰って来たよ!!』
『嘘?!ノエル本当なの?!』
こんなに人生で驚いた事はなかったと思うくらい驚いた。でも心のどこかでシュクルは生きていると思っていたので、やっぱりとも思った。
シュクルはいつもすごいんだから。
父さんとお母さんの間から三年ぶりのシュクルを見る。一瞬人間に見えない気配がしたし、全身まっ茶色だったが元気そうで安心した。私も大きくなったけど、シュクルも大きくなっていた。
シュクルは疲れていたから次の日まで会えなかったけど、少しお話したらシュクルはいつものシュクルだった。でも少し近寄りがたい気配もする。多分久しぶりだから緊張しちゃうのかも。そして私は学校、シュクルはお母さんとお医者さんへ向かった。
『ただいま!お父さんシュクルは?お母さんは?』
『⋯⋯お母さんはちょっと体調が悪くて寝ているよ。シュクルはギルドにいる』
『う~ん残念!シュクルと色々お話したかったのに~!』
ノエルとは仲はいいけど男の子だし、やっぱり色々お話するなら女の子同士だよね。
私達十歳の女の子の話題は将来の仕事とかお洒落や恋の話が多い。今年から学校に来た新任の先生がかっこいいのだ。明日シュクルにも紹介しよう!
『シュクル~!ジュール先生かっこいいよね?サラサラな銀の髪に紫の目羨ましいよ~私の髪は少し癖があるし、緑の目は普通っぽいもん』
私は休み時間にシュクルに尋ねた。
『うむ。アソコの毛もサラサラ銀髪なのか?鼻毛は?気になるな⋯⋯』
シュクルは先生に全く興味無さそうだったのに、気づいた時には変わった先生と放課後を過ごすようになっていた。シュクルの周りは変なおじさんが多い。どうしておじさんと仲良くできるんだろう?
私は将来家を出なきゃいけない。出来れば好きな刺繍や裁縫関係の仕事がいいなと思っている。でもシュクルはどうするんだろう?冒険者になるのかなぁ?
『シュクルはギルド長と修行に旅立ったらしい。先ほど副ギルド長が家に来てそう言っていた』
『えぇ?』
私は知らなかったけどシュクルは魔力量も多くて、もの凄く強いから将来王国の騎士になる予定だそうだ。その為の修行らしい。 そして十五歳になったらシュクルはノエルと同じ王都の学院へ通うらしいけど、そのお金も自分で貯めてるそうだ。
(二人共学院に行くんだ羨ましいな⋯⋯)
私はお金がないから通えないけど凄く羨ましい。でも――
『クラリス、王都には淫獣が蔓延っているから崇高なるクラリスには危険なんだ。捕らわれでもしたら堕天してしまうぞ!』
シュクルは凄く危険な場所だと言っていたし、両親も王都へは行きたがらない。だから私は二人がいなくなった家を両親と守ろうと思う。
『ただいま~シュクルですよ~あのぅ?少々連れがおりまして、草食ですし?頭も切れるし?トイレも出来る子でして⋯⋯』
『シュクルおかえり!えぇぇ?どうしたのそれ?』
『緑竜のニーチェと言います。今日から一緒に暮らします。よろしく』
十歳の今だからわかる。シュクルは小さい頃から凄く普通じゃない子だ。きっとこれからも驚く様な事をし続けるんじゃないかな? でもそんな妹が私は大好きだよ。




