佐藤は難易度が海抜ゼロメートル
私は三歳を過ぎた。赤ちゃんや子供の出来る事は日々どんどん増えていく。佐藤は何年生活しても出来る事は大して増えないが。そう考えると赤ちゃんは凄いのだ。別に佐藤が悪かった訳ではない⋯⋯いや、悪かったから今ここにいるのか。
私はトコトコ歩いて初春の肌寒い外へ出る。この土地は北にあるみたいだ。山も近いし、とにかく寒い。冬の間は部屋にこもって少ない保存食を食べて過ごす。そんな時いつも考えてしまう⋯⋯
「ファーストフード食いてぇ!!!!」
と。あぁファーストフード、されどファーストフード⋯⋯脂質フォーエバー
「どうちたの?」
「はっ!?クラリスいたのね、今のは何でもないの。ちょっと叫びたい気分だっただけよ」
「なあにそれ?楽しい?」
「うっ。いや、惨めかな?」
「よくわかんない」
天使のごとく可愛いクラリスは中身も最高だ。一生嫁にはやらん。 欲しければ金目な物を家族に渡し、ウサギの屍を越えて――ヤダ怖い。
そしてノエルだが――
「どうしようまだ熱が下がらないわ。もう薬もないし、どうしましょう」
「もう熱が下がるように祈るしかないな」
そう、長男ノエルは今も体が弱い。そしてこの家はかなり貧乏だ。冬の間は収穫物もほぼ無いし、売るものがないからお金も無い。それに冬の間は特に薬の値が上がるのでそう頻繁には買えない。
薬は薬草で出来ているが、この雪では薬草は採集できないので、薬草を他の場所から仕入れてこの土地の薬屋が調合して売っている。なのでいつもの倍の値段がついてしまうのは仕方の無い事なのだ。
ノエルが熱を出すたびに考えてしまう。私が胎児の時に蹴りすぎたんじゃね?と。
勿論違うとは思うが扁桃腺蹴ってたかな?なんて考えてしまう。
やはり私は人を蹴ったりするのには向かない。
だがしかし今日からは新たなポイントをガンガン貯めなくてはならないのだ!冬ごもりで新たな経験が全く出来ていない! これは万死に値する。本気で。
「今日はこれに挑戦だ!」
雪の畑から少し出た葉っぱ。これは大根風のかぶで今夜の少ない食事のメインだ。
「葉を掴んで引っ張ります。エイ!エイ!オー!!――『バキ』――あぁぁ折れた?!」
⋯⋯これは予想以上に難易度が高い。元都会育ちの私に、これを折らずに引き抜ける日は来るのか⋯⋯?
本気ごぼうとかどうやって掘ってるの?検索したい。
「次は雪おろしだ。両親が忙しくて雪下ろしが出来ない今、雪の重みで家が潰れたら貧乏な我が家は終わる。すべてが終わる。よって私が始末する!」
まずは屋根に乗る。あ、スコップみたいの忘れた。う、高いな。登れたくせに降りられない。
「これも見た目以上に難易度が高い。そしてうさ耳が寒い。うぅ冷たい。このままでは屋根の上で低体温症になる。なんとも世知辛い異世界だ」
「シュクル何してるの?」
「黄昏ている」
「降りてきて遊ぼうよ~はい!梯子」
「天使か?天使の梯子か?尊い」
「とうとうこの日が来た。初めての水くみだ。テレビで何度も見たが実際触れるのは初めてだ」
井戸は危険だから子供はそばに行ってはいけない約束だ。しかし水くみは忙しい親達にとって面倒だし重労働である。ここは元大人な私が手助けするべきだ。そして初体験ポイントも欲しい。
「このバケツを井戸に入れるのか?そして紐を引っ張るのか?井戸に蓋が無いがゴミは入らないのか?多分カエルとかいるだろ?井の中の⋯⋯⋯⋯え?中怖い。すっごい深い。底が見えない。底なしだ⋯⋯⋯⋯落ちたら井戸に住む魔物に食われる気がする」
これは危険だ。戦闘力を上げてから臨もう。時期早々だった。
料理はどうだろうか?佐藤もパスタくらいは茹でられたし、なんとペペロンチーノが作れるのだ。ベーコンをカリカリにして、塩加減もいい塩梅にできる、ペペロン職人である。
ちなみに食べるのは自分だけだ。ふるまう人がいたならば自分はここにはいない。
さてここも子供達は立ち入り禁止のエリアではある。だが今日は違反する!
「キッチンへ参る!⋯⋯⋯⋯これは⋯⋯⋯⋯」
ローマ遺跡レベルだった。
「へぇ~あの遺跡って実際にはこうやって使うんだ?ふーん⋯⋯⋯⋯」
シュクルはローマ式キッチン見学ポイントをゲットした。
しかしこのキッチンで料理なんて最高難易度だ。火起こしの方法すらわからなかった。