佐藤はいつもゲームで適当に連打する
『ねぇシュクルは魚好き?』
『ええ。愛していますね。朝からもりもり食べられます』
『じゃあ寄り道して魚食べて帰りましょ~』
『ヤー!ウィー!』
日本人なら魚だよな。だが魚の値段も年々上がって、安い魚見つけた!と喜んで買ったら薄っぺらだったなんて事は日常茶飯事。日本人の器用さは薄っぺらな魚や肉を美しく多そうに見せるためにあるのかもしれない⋯⋯
だが今日はそんな心配は必要ナシ!だって⋯⋯
「ギルド長、アレ何でしょうか?」
「魚よ?」
「では魚って何でしょうか?」
「はぁ~シュクルは世間知らずなのね~でも子供だから仕方ないわね。あれが魚のうなぎよ」
「うなぎ⋯⋯」
この世界のうなぎは私の胴体より太いのだろうか。そもそも本当にうなぎなのか。色が蛍光イエローで茶色い水玉模様だし、佐藤のマンションの入り口からバルコニーまでの長さより長い。まさかのうつぼじゃね?でも淡水だから違うかぁ。
とにかくスーパーの魚とは違って過食部分が多そうではあるが、食欲が湧かない形状だな。残念。
「それじゃシュクルは魚釣りね~私は情報収集のためにあそこの立ち飲み酒場に行ってくるわ~」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「ウーウー(へいき?)」
「カーカーカ(いつも通り)」
危ないのでニーチェは湖の岸より離れた草むらで草を食みながら待っていてもらう。
うなぎがいるのは緑豊かな目の前の湖だ。きっとここら辺の住民の憩いの場だと思う。
綺麗な湖だな~木陰で読書とかしたい陽気だよな~ピクニックもいいよな!おにぎり食べたいな、などと私は現実逃避してみるが⋯⋯
「そんな事をしていてもうなぎは手にできない。だが漁の仕方がわからない」
ギルド長が置いて行った本日の指定得物を見つめるが勝てる気がしない。
「まずこのスプーンは何だ?スプーンほど安全な物はないだろう?赤ちゃんですら一人で持つよ?お口に入れる物よ?武器になるわけあるかい!!」
ギルド長の無理難題が過ぎる。そして次。
「フォークだ。これはスプーンよりは戦闘力が高いかな?だがこれが牛用の藁をすくう巨大フォークならまだしも、これは普通のフォークだぞ」
巨大うなぎに刺した所で何になる?次!
「ナイフだ。一瞬これはいいかな?って思ってしまいがちだがこれは普通のテーブルナイフだ。多少刃に触れても指さえ切れない」
私が声を大にして言いたいのは私はあくまで獣人の子供であって、悪魔でなければ執事業もおもちゃ会社も営んでおりません。カトラリーで巨大うなぎとは戦えないのです。
「だがギルド長は悪魔だ。さっきから楽しそうに私を眺めながら酒を飲んでいる。何が情報収集だよ⋯⋯もしや私の情報収集か?うわ~『はよヤれ!』てな顔ですっごい見てる!ああもうやればいいんでしょ!やれば!」
三本のカトラリーをポケットに入れ、カトラリーを乗せていた銀のお盆を左手に岸へ進む。水中はあいつの庭だろうから岸で戦いたい所だ。私は周りを見渡して使えそうな物を集め五感を解放する。
「あ、いた!」
私のショボい土魔法で土を掘り返し巨大ミミズを見つけ、うにょうにょ動いているミミズを湖のそばに生えていた蔦植物でぐるぶる巻きにする。それを長め枝に縛り付けて釣竿にする。
「さてうなぎはどこかな?釣っちゃうぞ~あれ?どこへ行ったのかな?」
さっきまで湖の絶対君主のごとく堂々と姿を現せていたのにな?
いや~しかし天然物のうなぎか~贅沢だよな。うなぎパイはよくもらったけどな。
『佐藤さん、先週浜名湖行って来たんでお土産っす!夜のお菓子っすよ!これで色々励んで下さい』
『そ、そうかありがとう』
(こいつは俺に彼女がいないのを楽しんでやがるな。怒りたい所だがブランデー入りの高いうなぎパイだから許す)
懐かしい出来事を思い出してしまった。
「ノスタルジーだな⋯⋯」
「ウーウー!(危ない!)」
「おっふ!!」
間一髪うなぎアタックを躱したが驚いた。こんなに岸まで音もなく忍び寄るなんて⋯⋯しかもうなぎはミミズじゃなくて初めから私を狙っていたし、そしてまた噛みつこうと再度襲って来るようだ。
「せっかく準備したんだからミミズも食えよ!」
大口を開けたうなぎの口にすかさず簡易釣竿を刺し込む。そしてポケットからフォークとスプーンを出し、体の割に小さな右目にスプーンの柄を、左目にフォークを刺す。
痛いのかうなぎはバチャンバチャンとハチャメチャな動きをする。
「逃げるなよー!!ひつまぶしアタック!かば焼き連打!だがやっぱりうなぎはうな重だ!!」
銀のお盆で頭をメッタ打ちにする。最早メッタ打ちはシュクルの十八番だ。
滅多打ち好きの鱗片はすでに佐藤にあったのだ。あれは幼い頃、小さなゲーセンで数匹のワニがベコべコランダムに出て来てやわらかいハンマーでそれを打つゲームをよくやっていた。ゲームが終了したにも関わらず、佐藤は動かないワニを執拗に打ち続けていたのだ。
「お?蛇みたいに丸くなったけど、どすればいいんだ?」
素手で触っちゃだめだよな?蛍光イエローのお肌だし⋯⋯確かうなぎのヌルヌルは毒とかあるのだったか?しかも怪しい警戒色なので、手持ちの木の棒をエラと思われる穴に入れて岸に引き寄せる。
「岸に上げたし、これでいいよな?」
ギルド長に報告へ行こうと、うなぎに背を向けた瞬間 ⋯⋯
「ギャア!!痛!!」
最後の力を込めたであろう、うなぎの反撃にあった。
「尻がぁ!!何するんだ?!私の可愛い尻に!痴漢!」
「ギャハハハ!!!シュクル最高よ!!お尻噛まれてる~あははは!!」
「あぁぁぁぁ!!お尻が二つに割れちゃうぅ」
シュクルは巨大うなぎに噛まれる杞憂な体験ポイントを獲得した。




