佐藤はエナジードリンクを飲んでも翼は生えない
「ギルド長、実は自分ちょっと卵採集には苦い思い出がありましてね?」
「え?たかが卵じゃないの。卵は動かないし、攻撃もしてこないのに何か問題があるの?」
「大有りですね。だってあの両親最強ですから!!」
ギルド長の怪しい馬車に押し込まれて数時間後、どこかの森に辿りついた。これから森での簡単な作業をするのだとギルド長に言われて、しばらくついて行くと崖の上だった。
途中でおかしいと思ったんだよな。だって森での簡単な作業と言えば薬草採集とか木の実拾いだと思うのにどんどん緑の少ない危険な岩場へ向かうのだから。
「最強?シュクル何を言っているのよ~最強は獣王である私達じゃないの。あれはただの爬虫類よ?爬虫類なんて脳みその少ない原始的な生き物なの」
「は――ぁ」
どこからどう見ても二頭の竜だよな。私は魔獣に詳しくないので何竜だとかはわからないけれど。
だがギルド長は私に竜の卵を破壊しろとご命令だ。あぁグリフォンの時の苦い失敗を思い出す。
「今のうちに卵を破壊しないと卵が孵ってしまうわ。そうしたら竜が増えて困るのよ」
竜はSランクの魔獣だ。今いる竜を無暗に討伐しては生態系が壊れる原因にもなるので討伐対象ではない。だが竜がこれ以上増えると森の生態系のみならず、家畜への被害も出るだろうし、餌が減れば最悪人間を襲うかもしれない。竜は寿命も長いので今の均衡を保つためにもこれ以上増やすことはできないそうだ。
卵から孵ったばかりの小竜だろうと竜は竜。孵ってからではそれなりに討伐は面倒になるだろう。やはり卵のうちに対処するべきだとは思うが⋯⋯親竜がそばを離れない。
私は気配を消して岩陰から様子を伺う。
――体感で五時間後――
「やっと動いたぁ!!」
巣で卵を温めていた竜がやっと飛び立った。竜が確実に巣の周りにいない事を確認してハルバード片手に最速で竜の巣に向かう。卵は三つあった。それを見た瞬間、グリフォンの兄弟を思い出したが心を鬼にして戦斧を振りかぶり一つ目の卵を割る。
「う~ごめんな!」
ドロリと白身が漏れ出る。急いで二つ目も割り、一番小さい三つ目を割った時、二つの卵とは明らかに違う変な感触を感じた。
「え?何だ?」
不思議に思い卵からハルバードを引き抜き、割れ欠けた卵の中を覗く。
「ヒィィうわぁ!!!!」
ソレを見た瞬間、縺れそうになる足を気合で動かし脱兎のごとくギルド長の元へ逃げ帰った。
「ギ、ギ、ギルド長!!!ヤバいっす!!やっちゃいました!!」
「何よシュクル、ちゃんと卵は割れたの?⋯⋯もしかして遅かったのかしら?」
「え?」
「あなたのハルバードに血が付いているわ。もしかして竜になってしまっていたのかしら?」
「血?ギャァ!!!そ、そうなんです!卵の中から私をじっと見てたんです!!」
深淵を覗く時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。byニーチェ先生
怖い怖すぎる。顔を見られた私は、すべての竜を敵に回したのかもしれない。
人生終わった。オワタ。チーン。
「⋯⋯シュクル、後ろ」
「え?あああああああああああ」
あの深淵から私を追って来たらしい子竜が血を流しながらヨチヨチと近づいて来る。昔見た映画の幽霊が、井戸から這い出て追ってくるアレの子竜バージョンか。
「怖いよぅ!!ギルド長助けて!!」
マジ震えしながらギルド長の後ろに隠れる。私はまだ十歳だから許されるはずだ。
「あぁなるほど。あの子竜は初めに見たシュクルを親だと思っているのよ。だからシュクルを追って来たのね」
「え?鳥じゃないんですから、ありえませんよ!」
そういえば佐藤は鶏の祖先が恐竜だったと聞いた事がある。じゃああり得るのか?
ギルド長の後ろから子竜を見る。子竜の目は私だけを見つめている気もする。
「シュクルが子竜の片翼をハルバードで切り落としてしまったのね。だから背中から血を流しているんだわ」
「え?」
子竜の背中が血まみれだ。片翼しか見えない⋯⋯これではこの子竜は将来飛べないのではないだろうか。私は飛べないグリフォン時代を思い出した。
あれはグリフォンの兄弟達が寝静まった夜の事だった。
『ガーガガガー(ミミには翼がない。生きていけない)』
『ガガーーガガー(生えるかもしれない。待とう)』
『ガーガーガー(もう飛び立つ時間だ)』
『ガーガー(もう少し)』
『ガガーガガー(他の子もいる。待てない)』
両親の会話を聞いてしまった私は、薄々気づいてはいたが自分が飛べない欠陥品だとわかった。どうせ生きていけないのなら他の兄弟に迷惑をかけたくないとも思った。
結局私はグリフォンではなかったので今も生きているが、あの子竜はどうなるのだろう。誰よりも翼を欲しがっていた私が他所の翼を切り落としてしまったのだ。
「シュクル討伐しなさい。予想外の事態だけれど子竜を討伐すれば終わるわ。怪我もしているし、簡単でしょ?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ヨチヨチこちらへ向かう子竜を見つめる。確かに今討伐すれば片翼無しで生きていくより幸せかもしれないし、討伐命令を遂行できる。だが⋯⋯
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯無理です」
「えぇ?」
「殺せません!!シュクルは子竜と生きていきます!翼無しな欠陥同士で支え合って生きていきます!!」
「あ、あなたどうしたのよ?!いきなり子供みたいな我が儘言って⋯⋯あれ?そういえばシュクルは子供だったわ。つい中年といるみたいな?まったり気分になるのだけれど⋯⋯?おかしいわね?」
「ニーチェ先生大丈夫か?!血を止めような!止血だ!」
子竜に駆け寄り背中の傷口にハンカチを当てるが出血は止まらない。どうしょう。
そういえば確かグリフォンの親は傷を魔力で治していた気がする。私は試しに魔力を子竜の背中に注いでいく。
「お?血は止まったか?でも傷口はふさがらないな」
「シュクル、この子竜の始末は子供のあなたには酷なようだから私が代わりにヤるわ。そこをどきなさい」
「嫌です!!」
私は勝てる見込みも無いのに、子竜の前に出てギルド長と向かい合うが⋯⋯
「ギャー!!ギャー!!」
「「?!」」
子竜がギルド長に怒りの声を上げた。
「はぁ?この子竜私からシュクルを守ろうとしているの?⋯⋯ちょっと上に報告するわ。さて早く行くわよ。今の声で親竜がすぐに帰ってくるでしょうから急いで」
「連れて行ってもいいですか?」
「もう仕方ないじゃない。私は子育て経験とかないけれど、多分シュクルくらいの子供には生き物の飼育とか必要なんでしょ?」
私は大型犬位の大きさの子竜を抱きながらギルド長と森を進み、森の入り口で待機していたギルド長の馬車に流れ込んだ。
「竜の血の匂いは良くないわ。ポーションあげるから傷を治療しなさい」
「ポーション!?あるんですか?」
ポーション!なんてファンタジーな響きだろうか。森で薬草採集して自宅でポーション作って大儲けとか出来たらいいな。
私は渡されたポーションの瓶を眺めるが普通の濁った水にしか見えない。昔の瓶牛乳の蓋みたいなのを開けて少し子竜の傷口に垂らす。
「おお?痛々しさは無くなったかな?でも鱗がないからピンクのお肉っぽい」
「随分とスッパリ切ったのね。切り口が綺麗だわ~治りもいいわね。これなら無理をしなければ大丈夫よ」
「よかった⋯⋯」
――ブリッ――
「ん?うわぁぁぁぁぁぁぁ」
「シュクル何?!あららら!!駄目よ馬車の中は~!!」
子竜が私の膝の上で緑色の落とし物を盛大にかましてくれた。初お通じおめでとう?!
シュクルは竜の飼育をする事になった。




