佐藤とシュクルとロバとヤギ
ギルド長が借りたボロ荷馬車で国境に続く道をのそのそ進む。あ、馬車じゃない、だってロバだもの。
「ギルド長はどうしてロバを借りたんですか?」
「安かったのもあるけれど、ロバの耳がシュクルに似ていたからよ」
「えー」
ロバの顔を見る。ロバは顔がデカいし耳もデカい。
「イーヨォーギーョォ~ゲーゲ~」
そして変な声で鳴く。
これから戦うってのにすっかり気が抜けた。
クラス一のおバカさんはロバの耳がついた帽子を被らされるらしいがロバを見てたら確かに⋯⋯と思ってしまう。
「シュクルはどの得物にするのかしら?騎士はなるべく生け捕りがいいのだけれど」
「⋯⋯この中から選ぶんですか?⋯⋯うーんどうしましょう?」
「これはどう?」
「⋯⋯マジっすか?」
「はーい止まって下さい~へへへ」
「何ですか?」
「ここを通りたいなら通行料を払えよ」
しばらく進むと情報通りの場所で早速得物がかかった。全くセリフに捻りが無さすぎる。
「そ、そんなぁ~お金がかかるなんて知りませんでした!騎士服を着てますがあなたたちはヴィアンネイの騎士なんですか?!」
「あ?んなのどうでもいいだろ!金出せよ。無いならお前達売りさばくぞ!お?よく見りゃ可愛い顔してんじゃねぇか。へへへっへ」
あぁもう捻りどころか昭和チックな悪人の、典型的なセリフそのまんまでこちらが羞恥を覚える。
止めてくれ~「へへへっへ」とかマジで言ったら恥ずかしいだろ!
「お?お前達獣人じゃねぇか!高く売れそうだぜ!だがその前に俺様がちょっと味見してもいいよな?へへへへ」
何が味見だ、ヘヘへへだ!もういい加減にしろよ?私はドMじゃないから高度な羞恥耐性無いんだよ。いちいち使い古されたお恥ずかしい悪人セリフを吐きやがって聞くに堪えないんだぞ!
「へへへこっち来いよ!俺がいい思いさせてやるよククク」
あぁぁぁぁ!!「ククク」も出たぁ!もう無理!!
――ガッン――
「あぁ⋯⋯お前ら⋯⋯覚えとけよ⋯⋯」
最後まで典型的負け犬セリフかよ⋯⋯
「ちょっと~シュクル駄目じゃないの。ここで長々騒ぎを起こして、他の奴らが皆集まってから一気にヤるんでしょ?」
「すみません。でもこいつの会話がお恥ずかし過ぎて勝手に拒否反応が出まして」
「えぇ?野党なんてこんな奴らばっかりよ。頭が悪いから会話に捻りが無いの。そもそも阿呆だからこんな事するのよ」
なるほど。だったら他の奴らも⋯⋯
「おい!何か声が聞こえたぞ!何があったんだ?お?通行人か?ここを通りたいなら通行料払えよ」
「⋯⋯マジっすか?」
「金出せよ。無いならお前達売りさばくぞ!お?よく見りゃ可愛い顔してんじゃねぇか。へへへっへ」
最悪な事にこれを五回繰り返した。
「ギルド長これどうします?」
五人のアホそうな騎士がミルフィーユ状に重なっているが実に不味そうだ。
「とりあえず腕の関節外して足を折っておきましょう」
「怖!」
「シュクル駄目よ~無断で通行料をせしめる事はもちろん良くないけれど、こいつらはそれ以上の罪である人身売買にもかかわっているのよ。甘えは許されないわ」
確かにそうだ。さっき獣人は高く売れるとか言っていたから実際に売った事があるのだろう。許せない。
「好いわ~そうよ~こうやって思い切りね!」
「⋯⋯これ使いにくいです」
「ダメよお?戦闘では身近にある物すべてを得物に出来なくちゃ!今から慣れないとね?」
「ですが、何故に楽器のギロなんですかぁ?!」
荷馬車の中には楽器しかなかった。出発前は音楽家を装って国境超えする市民を演じるためだと思ったのだが戦闘道具だったらしい。
「あらぁ?ギロいいじゃない!シュクルもギロ掴んでクソ騎士の股間メッタ打ちにしてたじゃないの」
そうだけど⋯⋯
「それにギロの棒もいいのよ~敵の目に刺して良し、頸動脈狙って良し、左耳から右耳まで貫通させて良し」
美しい笑顔で話すギルド長が怖い。楽器であるはずのギロもなんだか怖い。
騎士達の処置が終わったのでこいつらの足跡を辿り、アジトと思われる所へ向かう。⋯⋯ギロを片手に⋯⋯
しばらく行くと平屋建てで石造りのボロボロな廃墟があった。
「ふぅん?こんな所に古い農家の廃屋があったのね。シュクル、これから私達はどうするべきだと思う?」
まずは中を確認するべきだが迂闊に侵入はできない。外から中に何人悪人がいるのか、捕らわれてる人がいるのかの確認だな。慎重に進めないと彼らを人質として盾にされたら困る。
「そうですね、まずは斥候ですかね。情報収集から――」
「ブ――!!違いますぅ!私たちは最強の獣王よ?そんな小業などせず行くわよ!!」
「え~~??」
突然突撃を始めた俊足なギルド長の後を必死に追う。ギルド長は今日も奇想天外だ。
――ボン――
ギルド長は速度を落とさず廃屋のボロドアを蹴破った。
「何――」「どうし――」「おい!誰だ――」
中に男共がいたようだが⋯⋯ギルド長は竹でできた横笛一本で男共に抵抗させる暇も与えず一瞬で意識を狩った。
凄い。これは芸術の領域。無駄の一切ない動きで力も入っているようには見えなかった。
「三人ね。シュクルは奥の部屋を確認してちょうだい」
「はい!」
イカン。見惚れている場合じゃない。戦闘に集中しなくては。私は物音のしない奥の部屋へ慎重に進む。
ギロを構えながらドアを開けるが誰もいなかった。だが⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
「臭い、血の臭いがする」
鮮血の臭いじゃない。時間が経った血の臭いだ。
もしかすると攫われた人や獣人の血かもしれない。勝手に全身の鳥肌が立つ。
「どうしたのシュクル?⋯⋯あぁ臭うわね⋯⋯ここには地下室もないし、部屋はすべて確認したわ。この血の主はもうここにはいないわね」
「⋯⋯酷いです」
「本当にね。でもこれでも昔より大分マシになったのよ。昔は至る所で起きていたの。でもこんな事をこれ以上起こさせない為にもシュクルは力をつけて立派な獣王になるのよ?いい?」
「はい!!」
「さあ早く行って三人の野獣の骨を折りなさいね」
「はい!行って来ます!!」
「ふふふ。一昨日の収穫感謝祭でヤギ〆たのね~古風じゃない。昔は各家庭でヤギを〆て家族で食べたのよね。今は肉屋で買うだけだもの。この匂い懐かしいわ。シュクルは知らなかったみたいだけど。ふふふ。やる気のなかったシュクルも本気になったみたいだし良かったわ~!いい後継者になりそうね」
誰もいない部屋でニヤリと犬歯を光らせて笑う虎獣人⋯⋯
「クソ鬼畜!!複雑骨折にしてやる!!」
シュクルは日本人的甘さを捨てて、悪人を容赦しない獣人へと成長を遂げるのかもしれない。




