佐藤=淑女はありえない
「ジュール先生よ、学院とはどんな所ですか?」
「筋肉と同じだ!」
脳まで筋肉化してしまった様だがまとめると、十五から十八までの子供達が通う学院で、午前中は基本学科を学び、午後は選択で騎士、魔術、医療、領地経営、文官系、淑女系だとかを沢山ある講義の中から選んで学ぶらしい。だが真面目に選んで鍛えないと筋肉と同じで身につかないそうだ。
母は領地経営、父は魔術を選択していたと思う。ノエルは領地経営だろうな。
「先生よ、私は騎士科にするか魔術科にするか決めていませんがどうしましょう?」
「騎士だ!魔術科はひ弱だから筋肉量が少ないんだ。駄目だぞシュクル!」
「はぁ?」
将来を筋肉量で決めたくないのだが。そもそも先生だって魔術科出身だろ?
「俺は魔術科の魔道具研究が専門だ!だがいつも騎士科の奴らに嫌がらせを受けていた。きっと俺の筋肉量が少なすぎたからだな」
違うと思う。イケメンでモテモテだけど魔道具オタクっぽかったから、嫉妬されてイジメられたんだろ。男の嫉妬も怖いよな。
「シュクル!さっきから速度が下がってるぞ!まだ五セット目だぞ!」
「はー。何でダンベルしながら語り合わなきゃならないんだよ。こんな教師と過ごす放課後嫌だよ。なんでこんな事に⋯⋯私のせいか」
筋トレしつつ、先生から何だかんだで色々な話を聞けて分かった事は、やはり騎士になるのなら訓練を本格的に始めなければならない事、そして魔術師になりたいのならこちらも早めに指導を受けられる様にしないと遅れをとるそうだ。いや、最早遅い。騎士家系の子は幼い時から本物の騎士に指導をしてもらっているし、魔術師家系の子もしかり。
失った三年間は大きい。
「シュクルは獣人だから騎士だって。正直魔術師に獣人はいないよ」
「あぁ!」
そうだった。獣人は魔力が少ないのだ。では魔術師になっても獣人イジメや皆がやりたくない作業を押し付けられたりして将来の出世は望めないかもしれない。
「絶対危ないよ!うさぎが魔術師棟に入った瞬間に怪しい実験の被験者として攫われるかもしれないし、突然危険な薬を打たれるかもしれないぞ!」
「嫌だ!!」
そっちの意味だったかぁ!!イカン絶対にアカン。マッドサイエンティスト駄目。獣人実験は絶対にNO。
「そうだ!筋組織を鍛えて注射針すら刺さらない体にしよう!今から毒も少しづつ服用して毒耐性をつけるのもいいね!それと肺も鍛えて毒ガスをも弾き飛ばせる鋼の呼吸器を作るのはどうだ?」
「それ人間ですか?」
「いや、半分魔道具の体なんてどう?最悪手足を拘束されても目から攻撃魔法が出て耳から超音波が放たれるとか」
「先生脳筋になっても根本が魔道具師!!」
私が持ってた魔術師のイメージはキラキラローブにすっごい攻撃魔法をぶっ放すイケメンだったのだが、現実は魔術研究オタクの巣窟の様だ。
「先生、私は騎士になります!!」
「良し!今日はこのままダンベルマラソンだ!」
こうして私の将来は騎士になることに決まった。
さて将来が決まったならやる事が沢山ある。学費をギルドで稼ぎながら剣術の稽古、入学試験の勉強の範囲も知りたいし、多少は魔術も鍛えたいが⋯⋯
「シュクル?あなた淑女としての自覚はあるの?足を広げて座っているなどありえないわよ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
なんと学院は貴族としてのマナーが出来て当たり前の世界だった。
「シュクル大股で歩かないの!どうしてあなたはやたら歩くのが早いのよ?」
「移動に時間を取られたくないからです⋯⋯」
「何をする時間に追われているのよ?」
「シュクルの食事のマナーは悪くないわ、だけどどうしてそんなに食べるのが早いのよ?」
「早く食べ終われば他の事が出来るから⋯⋯」
「食事をおろそかにするほど、大切なすることがあるのかしら?」
「シュクルあなたはどうして『よっこいしょ』とか『あ~疲れた~お茶』とかお年寄りみたいな事を言うのよ?」
「⋯⋯言ってませんよ」
「言ってるわよ」
「シュクルあなた、また服を汚したわね?もう十歳なのよ?」
「それは二十キロのダンベル付きで滑空して側溝に落ちました」
「淑女の前にあなた人間なの?」
学院入学にこんなヤバい落とし穴があるなんて考えてもいなかった。




