佐藤は海洋生物なのか?
裁判官?から飛ばされて、次に目をさましたのは真っ暗な場所だった。
海の様な音、空腹も温度も重力もあまり感じない。よくわからない俺は大体寝て過ごしていた。俺は海洋生物に転生したのかもしれない。食べられてしまったらどうしょう⋯⋯⋯⋯
しばらくすると狭い空間にいる事がわかった。たまに何かに触られるが害されてはいない。俺は一体何に転生したのだろうか。わからない。
またしばらくすると、より一層狭くなった。この頃は触られるなんて物ではなくて、かなり痛い。佐藤ならもめたくないし、笑って「大丈夫ですよ」なんて言うだろうけど、今世はポイントを稼ぐために俺は蹴り返す。仕返しの通例を守り三倍返しで。ポイントも三倍にして欲しい。
またしばらくすると今度は動けなくなった。もう真空パックの魚並みだ。
多分、いや、これ人間の胎児だと思う。転生ってこんな状態から始まるものなのか?そもそも前世の記憶って残っている物なのだろうか。ある日突然強烈な衝撃を受けて思い出すとかではないのか?
わからない。経験が無いのだから。
やはりと言うか、この日が来た。出産だ。まさか独身の俺が出産に立ち会う日が来るとは思わなかった。立ち会う?違うな。俺が産まれるのだから。
母も大変だと思う。俺も強烈にぐいぐいされている。俺が蹴りまくった双子の片割れはもうすぐ出そうだ。さて外はどんな世界だろう?地球じゃないのだから異世界転生なのか?出るのが少し怖い気がする。いかん、ここでワクワクする人間にならなければいけないのかもしれない。絶対に無になりたくない。ここは男の覚悟を決めて出る!
「もう少しです!頑張って!」
「ん~~~ううう――⋯⋯」
「あ、出てきました!力を抜いて!よし、産まれました!!」
「⋯⋯⋯⋯」
「あら?!泣かない!お尻叩きます!えい!」
「グェッ!(痛え!)」
転生した俺の第一声はグェッだった。
「あら~お母さんに似た可愛い女の子ですよ~」
え?!俺は女の子?!驚いた俺は意識を失った。
次に目覚めた俺?改め私はベッドの上だ。目はあまり見えない。でも匂いはわかる。美味しい匂いがして目を覚ましたからだ。
「ふぇふぇふぇーん」
泣き声?どうやら隣に双子の片割れがいる。姿を一目見たいが首も手足も接続が悪い感じでうまく動かせない。だが耳はかなりいい。赤ちゃんは不思議だなと思う。
「起きたの?お腹すいたのかしら?」
なんとなく誰かが来たのは見えるし、気配も感じる。母親だろうか?いい匂いがする。きっとキッチンで料理をしていたんだろう。腹が減った。どうしょうか、泣けばいいのか?でもなんだか恥ずかしい⋯⋯⋯⋯しかし羞恥で腹は膨れない!
「グェグェグェー」
「あらこっちも?どうしましょう?あなたーお願い!」
「どうしたの?あぁこの子も起きちゃったんだ。どうしょうか?うーん手が足りない」
「待たせるしかないわね。ちょっと待っててね~」
「グェ―?(え?)」
うーん。双子とは大変なものなんだな。まぁ私は元大人なんで待ちますけど。
私は子育てなんてした事がないから実際の子育て現場は知らない。いつも友人たちの子育ての苦労話を聞くだけだった。
その頃から友人達に飲みに行こうとか、出かけようとか誘いにくくなったんだよな⋯⋯⋯⋯
「おまたせ。あら?寝ちゃったわ」
「本当だ。この子は手がかからないね」
「本当に助かるわー」
「あぁ三つ子だもんね。手が足りないよ」
またしばらくすると首が動く様になった。前より目も見える。ド近眼だった佐藤の裸眼くらいだ。
「ふぇふぇふぇーん」「うぇーんうぇーん」
最近思う。これは三つ子じゃないかと。三つ子誕生の確立ってかなり低いよな。三人産んだ母は凄いな。それともこの世界にはよくある事なのか?
私は順調に育っているが、気になることがある。それは⋯⋯⋯⋯
「あら?ノエルの頭が熱いわ!また熱みたい。どうしましょ!」
そう。隣のノエルさんはいつも熱を出す。三姉妹だし心配だ。
なぜ三姉妹だと気づいたか?それは三人とも同じピンクの服を着ているからだ。そしてもう一人の名前は――
「あなた!クラリスをお願い!」
「どうした?またノエルは発熱か?」
「そうなのよ。薬あったかしら?あ、もう無いわ⋯⋯⋯⋯」
「俺がクラリスを連れて買いに行ってくる!」
「ありがとう」
こうして慌ただしく日々が過ぎていく。いつも最低限のお世話以外私は放置されていた。
最近私はお座りをしている。目はかなりいい。耳も鼻もいい。後は歩ければいい感じだ。
「あら?シュクルは寝ないの?」
「んん」
「もう話せるの?」
「んー」
私はシュクルと言うらしい。佐藤の記憶もそのままだ。不思議な事に日本語並みにこの世界の言語がわかる。これが異世界転生チートと言うものか?それとも日本語は異世界語と同じ言語なのか?世界でも孤立した言語だと聞いていたがまさか⋯⋯⋯⋯
ただ舌と口付近の筋肉が足らないので話すことは出来ない。
そんなシュクルには最近すごく気になる事がある。それは⋯⋯⋯⋯
「あら?耳に寝ぐせがついてるわね」
「⋯⋯⋯⋯」
母は私の上空を見ている。そこに何があるのか。それは母を見ればわかる。
「あなたはウサギ獣人なのだから耳に気を付けなさいよ?耳から病気になりやすいの」
「⋯⋯⋯⋯」
私、佐藤竜(享年40)は女性ウサギ獣人に転生していた。あの日の裁判官の言葉を思い出す。真逆の人生を歩めと言われたことを⋯⋯⋯⋯