佐藤は講習を総ナメしたい
今日は盾の講習だ。
「良し、みんな盾は持ったか?」
「はーい」
「シュクルは今日もよい子のお返事だな。良し。構えろ!石を当てるぞ!」
――ドカッ――
「おっお?振動で手が痺れる!」
「ああそうだろ?だからこそ盾持ちは体格のいい男が多い。だがな盾があれば攻撃をそらしたりそのまま敵に体当たりもできるし、対人間戦であれば盾を見ただけで威圧感や攻撃が通らず勝てないと思わせる事ができる」
「確かにこれを振り回されたら大打撃ですね」
「ああ。ただ重いけどな」
私は盾を観察する。自分より若干大きい盾は木製と鉄製があった。長四角で少し湾曲している。この形は――
「あぁ何だろ?妙な安心感を感じる。これさえあれば野宿でも安眠できる」
「おい?もう盾飽きたのか?それ簡易ベッドじゃないからな?ちょうどシュクルサイズだけどな」
「この湾曲が妙に守られてる感を演出している。ささ、サムスンさんも試して下さいね」
「サムソンだよ。俺が寝たら壊れないよな?大丈夫かな?あ、でも何だコレ?担架で運ばれる時みたいな感じがする」
「え?僕も試したい。あ~これいいね。ただ足が外に出ちゃうな~もう少し盾が長ければ寝れる。二つあればいいな」
「え?俺も試そう!あ、これ悪くないわ。地面で寝ると虫に刺される事あるからな。これならいいわ」
「みなさんも良さがわかりますか?いや~盾も悪くないですなぁ~でもお高いんでしょ?サンソンさん?」
「サムソンだよ。シュクルお前キャラがおかしくなってるぞ?
盾の値段か?どうかな、木製はそれほどでもないぞ。だが鉄は物によるな。細工があるものは高いだろうし」
いいなぁ盾。でも高いし重いから無理かな?大人になったら買おう。意味もなく名前彫ってもらって大人買いしょう。
今日は剣の講習だ。
両刃の剣は日本人にはあまり馴染が無いかもしれない。どうしても剣と聞くと日本刀を思い浮かべてしまう。え?私だけ?年寄りだけ?そうか。
「今日は剣で戦いつつ、蹴りなどの体術も使っていく」
体術かぁ。経験ないなぁ。でも魔王城へ行かなければならない時は帯剣出来ないだろうし、学べきだな。クラリスやノエルは私が守る。気配を消して二人に近づくいかがわしい輩の背後からドゴンと脳天に踵落とし。そして逃亡。素晴らしい計画だ。
「はい!頑張ります!」
「今日は張り切ってんな。じゃあまずはあの藁人形を剣で切りつけ、鳩尾に蹴りを入れてみろ」
「行くぜ!エイエイエイ」
「あーすげぇなうさぎの蹴り⋯⋯その藁人形は一人一つなんですけど?どうすんの?全部壊れちゃったじゃん。他の講習生の分は?おい聞いてる?」
「いかがわしい輩はすべて消しました。証拠隠滅です」
「いかがわしくねぇよ。俺が今日の講習用に作ったんだよ。結構時間かかったんだよ?知ってる?」
「はい!」
「よい子のお返事でごまかされないよ?シュクルが次使う用の藁人形作るんだ。いいな?」
「わかりました」
藁人形作りは初体験だなぁ。新たなポイントのためにも頑張るか!
「出来ました!」
「⋯⋯⋯⋯あぁ?」「ははっはは」「クスクス」
「シュクル、どうして藁人形に俺の顔がついてるんだよ!何か微妙な気分だぞ!」
「サムスンさんが強そうだからです!より練習に真剣になれるかなと思って」
「え?うん。そうか、強い俺と戦う感じにしたかったのか。あと俺はサムソンだ」
やっぱ顔が無いと戦う感じにならないよな。実践感が欲しくなる。
「では気を取り直して訓練開始!」
「エイ!」「ハッ!」「シャッ!」
「え?何でみんな俺の顔狙うのよ?おかしくね?別に俺本体は傷ついてねぇけど、心に傷がつくわ」
藁人形に顔を付けただけで、みんなこれだけ真剣になるんだな。新たに学んだぞ。
私は皆が藁人形と戦っている間、じっくり剣を観察する。この鍔じゃなくてガードなのが微妙だな。どうも慣れない。そもそも何と戦う事を考えて作られているんだろう?対人間?だとしたらどんな防御服を持った人だ?魔法攻撃もあるのか?それとも対魔獣?それによっても剣の形状は変わるよな。
時と場合によって使い分けられた方がいいと思う。剣の講習は出れるだけ出よう。
「よーし、みんないいぞ。次は盾を片手に持ちながらだ。片手剣を利き手に持ち、反対の手で盾を持て」
これは中々重労働だな。盾は丸い物にしてもらったが、それでも重い。でも剣で捌けなかった魔獣を盾で押しやれるのはいい。盾を持っているだけで安心感があるな。
これを使えるようになったらかなり強くなれる気がする。だが基礎体力の向上が必要だな。安定して片手で剣を振り回せるほどの腕力が今は無い。長時間の戦闘に耐えられる力もない。
「よし、鍛錬を増やそう」
私は基礎体力向上を当面の目標にすることにした。