佐藤は二度目の小学生生活を堪能する
今日は学校に来ている。いや毎日来てるけど。
「今日は写生会ですよ。みんなさんは校庭に出て好きな物をよく見て描きましょう」
「「「「はーい」」」」
一人につき一枚紙が配られた。顔料は何だろうな?赤は赤土を粉末にしたみたいだな。茶も灰色も黄色も土だと思う。あ、またしても素材を気にしてしまった。そうじゃない子供らしく写生をしなくては。さて何を描こうか。クラリスかノエルか、それが問題だ。
「シュクル~何してるの~?」
またおっさんだな。校庭にいると絶対声かけて来るんだよな。なんかこういうおじいちゃん佐藤の家の近所にいた気がする。小学校の通学路にいた。
「先生こんにちは。え?どっちがトーマス先生だ?」
隣の家の窓にトーマス先生が二人いる。おかしいな双子だったのかな?あんな眼鏡が世の中に二つあったなんて。どんな意図を持ってあんなデザインを捻りだしたんだろ?作成者にインタビューしたい。
「やあシュクル!元気か?」
「⋯⋯クレマンさんですか?」
「あぁ!今日も先生の元で毒草研究だよ。そうだ聞いてくれ!私は不穏なダークサイドに狙われなくなったのだ!ありがとうシュクルのおかげだよ!」
「あー見ればわかります。よかったですね」
私は世の中からイケメンを一人消した。女性の皆様ごめんなさい。
「はははシュクル~!きちんと毒草に水は与えているかい?枯らさないでくれよ~毒草が悲しむぞ~」
「きちんと水やり当番がいますから。あ、ちょっと動かないで下さいね」
「写生会お疲れさまでした。みんな上手ですね!せっかくですから廊下に展示しましょう」
「「「「はーい」」」」
「うん。ここからちょうどあの窓が見えるな。ここに貼ろう」
「シュクルは何描いたの?」
「クラリスは花壇の絵かな?綺麗だね!私は後ろのアレだよ」
「あ!そっくりだね!凄いなぁ」
「シュクルちゃんの絵のタイトルは何かしら?『後ろを見よ。双子の肖像』?」
「そうです先生、後ろを見て下さい」
「え?あの変な隣人双子だったの?!確かに似てるわ。それにシュクルちゃんの絵もそっくりだわ」
数十年ぶりに行った写生会。真面目に行うと意外と面白いものだな。
「みなさん今日はみんなが住んでいるヴィクトワール国について勉強しましょうね」
「「「「はーい」」」」
シュクルも実はこの国についてあまり詳しくはない。七歳児の授業だから触り程度だと思うが授業を聞く。
「みんながいるのがここべレンガ―辺境伯領です。王国の北ですね。王国の南は海です。ヴィクトワール国の王都は王国の中央から少し南へ行った辺りです。東と西には他の国があります」
なるほど。この国は大陸にあるのかな。南は海で南以外は他国との国境線があるのか。そりゃ簡単に城を攻められないように王都は国の真ん中に置くよな。あれ?北はどうなっているんだ?
「北は険しい山々が聳え立ち、北の人々との交流はあまりありません。北は様々な民族がそれぞれの生活形式で住んでいます」
少数民族が住んでいるのか。国という感じではないのかな。
「ベルンガー辺境伯領では林業や魔獣から採った素材などが特産物です」
うむ。あまり裕福そうではない領だな。宝石でも採れればいいのにな。
「最近ではミスリル合金が採掘されました。今後この領の特産品になるかもしれません」
え?マジ?!掘ってこようかな?!盗掘は駄目かなぁ?辺境伯に怒られるか。
「王都にはヴィクトワール城があります。そこには王家の方々だけでなく、沢山の人々が働いています。みんながよく知っているのは騎士団かしら?それだけではなく、お掃除する人、料理をする人、王族の侍女達、政治をする政治家や文官達などがいます」
王城か。きっと「え?彼が駄目ならアソコの彼にすればいいじゃない?」とか「媚薬は水です」みたいな世界だろう。
七歳児の授業にしては楽しかった。毎回社会科は受けよう。
「いいな~お城でお仕事したいな」
「いやいや!クラリス駄目だよ?あそこはクラリスみたいな可愛い子が行ったらもう骨も残らないからね?」
「え?そうなの?魔獣がいるのかなぁ?」
「あぁ王城は魔王城とも言える。母も父も言っていた。年に一度は夜会に参加しなくてはならないけど、その日は本当に地獄だと」
「そうなんだ⋯⋯今度夜会に行くって言ってたよ。お母さんもお父さんも大丈夫かなぁ?心配だな」
チッ、クラリスもノエルも十五になったらデビュタンじゃないか!それまでに淫獣を寄せ付けない良い方法を考えないとな。
盛大にフラグを立てまくったシュクルは、ぼろ糞に貶したその王城と関わりを持つ人生を送るはめになる事を今はまだ知らない。