佐藤はストーカーなど対岸の火事だった
「シュクル~これ食べて~!!早く~!」
「何です?これ?」
見た目はホルモンかな?でもこの形状は危険な気がする。本当に食べてもいい物なのか?でもスープからいい匂いが漂ってきて恐ろしさより空腹が上回った。
そうだ。シュクルはすでに洞窟で巨大な魔ムカデを食べたんだ。恐れる品など最早無い。生きとし生ける物、すべてはシュクルの食品だ。
「いただきます。ん?んん。これ自体に味はないな。スープと食べる感じか」
特に問題なく食べられた。この食品を私に進めた意図は何だろう?
「シュクルは氷を欲しがっていたから~氷ミミズを捕まえてきたのよ~氷属性の魔ミミズ~」
「ミミズ⋯⋯」
そうか、シュクルはミミズもイケる口なのか。そうか。
「おおおお?ミミズビジョンがぁ!!」
いきなりミミズの生前の記憶が脳裏に写し出された。それは何も見えない真っ暗な氷の中を、氷を食べながら進む。ただそれだけ⋯⋯そこに栄養価はあるのか?
「ねぇ~氷魔法は使えるかしら~?」
「う~ん?どうでしょうか?」
実は氷魔法を見た事がない。水魔法は結構あるが、氷魔法を使える人がそばにいなかったのだ。
ムカデを食べた時は勝手に水分を蒸発させ始めたが、火魔法自体は結構使える人が多く、何度も目にした事があるのでイメージが頭にあったのかもしれない。
「いい人物がいるわ~紹介するわね~というか~今も窓にへばりついているわ~」
「えぇー⋯⋯いつもいるストーカーですか?」
王宮で生活を始めてからいつも目線を感じていた。被害はないし、殺気はないので対処に困っていた。
だがその人物はだるまさんが転んだの如く徐々に近づき、いつからか窓にへばりついてシュクルを観察し始めたのだ。何度も言うが見られているだけで被害が無いので正当防衛で攻撃もできないし、騎士団に相談もできない。この世にストーカー防止法もないのだからシュクルはカーテンをきっちりと閉めて、見て見ぬふりをするしかなかった。
これは佐藤がストーカー関連のニュースを他人事の様に聞き流していた罰が当たったのかもしれない。怖すぎるストーカー被害ポイントをゲットした。
――コツコツ――
窓を叩く音がする。怖い。会話を聞かれていたのかもしれない。私達は耳がいいので、それほど大きい声で会話をしていないのだが⋯⋯まさか室内に盗聴器を仕掛けられているのだろうか。
シュクルは窓を振り向く勇気はなかった。
何をそんなに恐れているかって?そりゃコツコツの音が右窓から一度目のコツ、左窓から二度目のコツが鳴っている事だ。同じ気配が二か所からしている。目の端に入れるとその二つは同じ顔、同じ髪型をしている。服まで同じ物を着ていて違う部分が一切ない。
「シュクル~どうしたの~?」
「ア、アレはなぜ二体なのでしょうか?」
「そりゃ双子だからよ?」
「わ、私だって三つ子ですよ?!でもあんなにそっくりじゃありません!」
ノエルもクラリスも超可愛いが、似てはいない。
「一卵性双生児なのよ」
「でも服装まで一緒ですよ?子供の頃ならまだしも。気配も一緒だし、表情まで同じなんです!多分妖術とかのソレでしょ?!」
――コンコン――
「ヒッ⋯⋯!!」
シュクルは恐怖した。
――仲良し双子♡エメとアデリーン ――
去年貴族学院を卒業した双子の魔術師エメとアデリーン・ラ・マンシュ伯爵令嬢。
とても優秀な二人は卒業後、国の最高峰と言われる王宮魔術師団に入団した。
「エメ、どんな研究しょうか?」
「そうだねアデリーンは何がいい?私はミニブタがいいな。だってミニブタって言われてるブタってまだまだ大きくない?猫くらいの大きさの空飛ぶブタって可愛いよね?」
「そうだね!私はトイレの形状かな?どれも同じ形で個性がないもの。斬新で先進的な可愛い魔法トイレを作りたいわ!」
魔術師団の仕事はもちろんあるが、皆それぞれに研究も行っている。二人は可愛い物が大好きなので可愛い物についての魔術研究を行う事にした。
「そもそも可愛いって何かしら?」
「確かに!じゃあここにあるパンとリンゴ、どっちが可愛いかなぁ?」
二人はパンとリンゴを見つめる。パンは柔らかくて可愛い。リンゴは赤くて丸くて可愛い。
「じゃあこの動物図鑑を見てみましょう?」
ふわふわの毛は可愛いけど、肉食獣は怖い。草食動物のうさぎやハムスター系は超可愛い。鳥はくちばしと足が可愛くないけど、鳩の首のピンクっぽく光る所は気になる。
「分かったわ!可愛いは柔らかくて赤っぽくて丸いふわふわな毛の草食動物ね!」
「でも赤っぽいふわふわな毛の草食動物は見た事ないわ。羽を持つ鳥くらいよ?」
「う~ん。やっぱりミニブタじゃないかしら?なら――」
「「?!」」
魔術師団の棟に尋常じゃない魔力を持った人物が入って来たのを感じた。何事だろうか。
魔術師団棟の入り口には危険を回避するための魔法が仕組まれていて、ある一定量以上の魔力を持つ登録された魔術師または物以外が棟に入ると、魔術師達が魔力に気づく様になっている。
「「行ってみましょ!」」
二人は野次馬心丸出しで、魔法が発動した入り口に急いで向かった。
着いた先は表入り口の受付だった。すでに何人もの超出不精な魔術師達が巣穴からヨロヨロと出て来ていて、受付付近にある柱に隠れてその人物を観察していた。初めて見た人が何人もいる。
二人もどんな魔物が受付にいるのかとドキドキしながら見てみると⋯⋯
「「あ!!可愛いい柔らかそうなピンクのふわふわな草食動物よ!!!」」
二人の研究は満場一致で決まった。
「「何か受け取ったわね。あ、帰るみたい――え?ええ?いないわ!」」
「き、消えた?!瞬間移動?!」「何者なんだ?!」「どこだ?」「え?魔術か?」「いや、魔術の痕跡がない」「じゃあどうなっている?!」
「おい!外にいるぞ!何か大きい物を持って行ったぞ?!何かの装置か?!」
「何の装置なんだぁ!!魔法陣をちょっと、先っちょだけ見せてくれー!」
「きゃあ!エメ!凄いわ!あれは妖精よ!」
「アデリーン!きっと精霊よ!」
シュクルが嫌がらせでパクった彫刻騒動の裏にはこんなやり取りがあったそうな。
「シュクル~こちらがエメさんで~こちらがアデリーンさんよ~」
「「こんにちは!シュクルさん初めましてエメとアデリーンです!」
「ど、どうも⋯⋯シュクルです⋯⋯」
ギルド長が窓を開けて室内に二人を引き入れたのだ。怖。間近で見ても違いがわからないほど似ている。ちなみに胸辺りまである水色のストレートヘアーに金色の目をしている。たまにこの目が光の加減で光って見えてシュクルにストレスを与える。
対面の椅子に座っているのに上半身がみょ~ん!とこっちに伸びている。怖。
「シュクルが~氷魔法を使いたいのだけれど~使い方がわからないの~教えてもらえるかしら~?」
「「え?シュクルさんは植物魔法を使う精霊ですよね??」」
「⋯⋯あの⋯⋯どうして私の属性を知っているのですか?精霊ってこのドピンクのですよね?これもご存じなんですか?」




