佐藤は元中間管理職
「こちらはシュクルさんの仮登録タグです。これからシュクルさんは講習や実際の採集、討伐の経験を少し積んで、問題なければ本登録になります。その時までに自分のポジションや戦い方を選んでくださいね。講習はあそこの掲示板に日時が貼ってありますから、自分で確認して下さいね。
では魔獣猪の買取額から銀貨一枚を引いた銀貨二枚と銅貨四枚をお渡しします」
「このお金をギルドに預ける事はできますか?」
「できますよ。シュクルさんは七歳とは思えませんね。とても優秀だ。あそこで飲んだくれているその日暮らしのおっさん達に聞かせたい」
「では銀貨二枚預けます」
「ではタグをここにかざして下さい」
黒いボードみたいのにかざすとピっと鳴った。これぞ正に異世界魔道具だな。憧れる。どんなシステムなのだろう?カバー外して中見たい。異世界電子マネーか?
井戸とかアナログなのに⋯⋯⋯⋯
せっかくなので講習の日時を確認する。平日は学校があるしな。週末かな?でもサボリもありだ。それも経験だよな。
「まずは森での歩き方講座だな。決まり事を知らないと色々失敗して、森で私が狩られる。それは避けたい」
佐藤は知っている。人々は「新人さんなんだから失敗しても仕方がないよ~」と口で言いつつ、心で「チッ面倒臭ぇな」と思っているという事を。
本当に仕方ないと思ってくれている人は、人生に揉まれまくって疲れた中間管理職と問題児の子育てで揉まれまくった親達だけだと。
「そして武器を選ばないと。困ったなぁ何がいいのかすらわからない。まずはすべての武器の長所、短所を聞くべきかな。うん。すべての講座へ行くか。ポイントのためにも全部行こう。すべての武器を試そう」
あの空の裁判官もすべて受けろと言っていたし。よし、あれこれ考えるのは止めよう。
「さて、今日はまだ時間があるな。この午後からの毒草講座?へ行こう。カウンターで申し込むのかな?」
「え?君、この毒草講座へ行くの?じゃあお昼終了の鐘が鳴ったらそこの階段を上がって緑のドアへ入ってね」
「はい」
講習のために残りの銅貨四枚で、少し書きやすい筆記用具を購入しよう。学校ではチョークと木炭のような物を使う。基本計算や字の練習には黒板を使うが、絵を描く時や工作に使うための紙もある。だが藁半紙よりも質が悪い紙で、表面がザラザラしている。
これから覚える事も多いだろうし、メモは必須だな。午後講習までに買わなくては。
あと何か食べたい。このままでは驚かれるので、そばの噴水で血を落としてから向かおう。この町は想像していたよりも安全そうだ。
「こんにちは~」
「はい、こんにちは。おや?小さいお客さんだね。何かお使いかな?」
「書きやすい筆記用具が欲しくて来ました」
「へぇ~偉いね。もう字が書けるのかな?もしかしてお手紙を書きたいの?」
「いえ自分、鳥頭ならぬうさぎ頭なんで記憶力に自信が無く、忘れないように文字に起こすのです」
「へぇ~たまげた。どんなお勉強をしてるんだい?」
「まずは毒草ですね」
「⋯⋯⋯⋯」
やっぱり値段に応じて紙の質も色々だな。色が白いほど高いな。黒っぽいというか茶色っぽいのは安い。まぁまぁな質であればいい。お?少し可愛いのもあるな。女の子用かな?そういえば後輩が⋯⋯
『佐藤さんはラブレターとかもらった事あるんですか?』
『⋯⋯⋯⋯無いよ』
『ラブレターとか憧れるんですよねー!紙媒体とか。俺世代はメールじゃないですか。直筆とかいいなって』
『そうか(告白なんてメールでもないです――お前わざと俺に聞いただろ)』
イカン。嫌な事を思い出した。俺だって中学から携帯持ってたわ。スマホじゃなかったけど。それに高校の下駄箱に扉が無かったのが敗因です――!女の子が恥ずかしがってラブレター入れられなかったんです――。
さてペンも見るか。
「お?鉛筆だ!鉛筆がある」
「これは黒煙を細くして木で挟んだ物だよ」
なるほど。鉛筆サイズに長細くした木で黒煙を挟み、金具でずれないように止めてあるんだな。
「あの紙とこれにします」
「ありがとうね銅貨二枚だよ」
高い⋯⋯⋯⋯大切に使おう。異世界初のショッピングは紙と鉛筆だった。
さて気分を変えて何か食べよう。