佐藤の一度ついたオッサン属性は水垢よりも取れない
「シュクルちゃん、この絵見て~」
「うん。これは個性的で他の神髄を許さないね」
「シュクルちゃん私の粘土見て!」
「おぉこれは箱に仕舞うのがもったいないな。箱に戻して蓋で潰すと凄い形相になるだろう」
「シュクルちゃんこの計算合ってる?」
「ほう。ショーンの計算は進歩を感じるね。もう手足の指を使わなくなったの?」
「僕ショーンじゃないよ?」
私は気づいたら先生ポジになっていた。
「シュクルちゃんありがとうね。今年は新入生が多くて手が足りないのよ。最近この辺りも人口が増えているからね。新しい先生も増えるといいのだけれど」
人口増えているのか。それは危険も増すな⋯⋯母から男爵家の心得は習得しているが今後はそれだけでは足りないかもしれない。となるとアソコだな。ここは異世界らしくいくか。ポイントも欲しいし。
さてアソコは通学の時に見たから場所は知っている。何となく「私普通に歩いてるよ?」みたいな雰囲気を出しつつ外の張り紙をガン見して要項は確認済みだ。
「しかしこの見た目。ナメられるだろうな。どうしょうかな。あれで行くか」
今日、学校はお休だ。朝から私は仕事の薪割りを瞬殺し、アソコへ行く。
「緊張するな。でもこれは大抵の異世界転生人の登竜門だ。アソコに行ってこそ異世界転生のさらなる高みへと進めるのだ。なに大丈夫だ。おっさんが少しお洒落な美容院へ入るくらいのもんだ。一人でキャバクラに行くより全然イケる」
御託を並べて時間稼ぎしているが行き交う人々に変な目で見られている。
これはいけない。勇気を持っていざ冒険者ギルドへ!!!
「こんにちわ~うっ、臭!」
初体験冒険者ギルドは臭かった。オッサン臭い。加齢臭だか汗だか風呂入っていない匂いだか酒だか⋯⋯しかし臭さに負けてはいられない今日の目的を果たさねば!いざ登録へ!
「こんにちは~」
「あら可愛いわ⋯⋯⋯⋯キャァ――!!誰か治癒師を!!」
「え?サラさんどうしましたか?ん?え?君どうしたの?!」
「新規登録に来ました」
「そうじゃないよ!血だらけじゃないか!」
「いや、これは返り血ですので。確かに洗濯で大変な思いをするとは思いますね」
これは母に怒られる案件だ。バレる前に父の魔法で証拠隠滅してもらおうかな。
先日父の書物でエロいのを見つけた。それをネタに脅そう。正直あんなのエロじゃない。R15指定の小エロだ。だが脅しネタとしては十分だろう。
「君怪我はないんだね?それでギルド登録したいと」
「はい。七歳から登録できると外の掲示板で見ました。登録お願いします」
「わかった。それじゃあこの用紙に記入してね。字は書けるかな?それと登録料がかかるけど大丈夫?銀貨一枚だよ」
「お金は無いのでこれを持ってきました」
「⋯⋯⋯⋯さっきからそうじゃないかな?って思っていたよ。その魔獣猪の血で君は汚れたのかな?」
「そうであり、そうではないですね。ですがこれで払えますか?」
シュクルは登録料が払えない。銀貨一枚は一万円くらいの値段だ。貧乏な家族にお金は強請れない。なので朝一で獲物を狩り、血抜きをした。
そして初めてのギルドで舐められたくなかったシュクルはその血を体に塗った。これで見た目はなんとなく強そうだし、ちょっとヤバそうだから人攫いも手を出さないだろうと思っての行動だ。
「うん。買取へ回すけど足りるよ。でもこの魔獣猪どうしたの?君が倒したの?」
「最近この豚が私の所へ来るんですよね。貧乏だけどひた向きに生きる、育ちざかりな私達への天の恵みだと思うのですが」
「これ豚じゃないよ?魔獣だからね。この魔獣猪は誰彼構わずそばにいる者を体当たりで攻撃するんだ。毎年春から秋まで数十人ものけが人を出すほど狂暴なんだよ」
「そういえば学校の授業中に読みました。難易度の低い森にいる魔獣ですね」
「君は学校で何を学んでいるの?失礼だけど、君はうさぎ獣人だよね?狩りするの?」
「私の狩りで普段清貧な食卓に色どりと肉欲を与えています。ああ、違いますよ?肉欲とはお肉を食べたい欲求です」
「⋯⋯そうか。偉いね。じゃあ登録しようね。君はシュクル・ラ・パンさんだね。あれ?ラ?ラがつくのは貴族だよね。シュクルさんは貴族なの?」
「一応そうです」
この国の貴族は「ラ」か「ル」が名前につく。
「もしかしてあの北の男爵家の子かな?確かに可愛いもんな。うん。君は冒険者になるんだね?これから頑張ってね。では冒険者タグを作ってくるから待っていてね」
「はい」
登録はできたみたいだ。よかった。しかし⋯⋯⋯⋯
「お嬢ちゃん一人なのか?」「こんな所でどうしたんだ?」「血まみれじゃないか!」
臭いおっさん達がうるさい。
「冒険者登録に来ました。うちは貧乏で明日を生きるのが大変なんです。少しでも家計の足しになればと思い、ここへ参りました」
「偉いなぁ!まだ小さいのに!」「狩りを教えてやろうか?」「可愛いな~」
臭いが悪い人達じゃない。むしろいい人達だった。元おっさんなので馴染みやすい。
それからおっさん達にギルド内の設備を教えてもらった。
「ここがトイレだ」
「まぁトイレは重要ですね。昔予期せぬ渋滞で漏らしそうになりました。あそこで堂々と下車して路肩に放出する勇気が私にはありませんでした。ポイントが増えないわけです」
「ここで酒が飲める」
「それはかなり心惹かれますね。今世では寂しい自室での一人飲みは封印⋯⋯できるかなぁ⋯⋯⋯⋯発泡酒はOKにしょう」
「ここはテーブルだ」
「見ればわかりますね。でもボコボコじゃないですか。ここで書き物は無理ですね。はぁパテとかで穴埋めたい。クレヨンぽい傷隠しで木目調にぬりぬりしたい。」
「ここがゴミ箱だ」
「分別は無しですか?紙と骨を混ぜて捨ててもいいんですか?ゴミ箱が歪んで釘が少し出ていますよ?あぁ打ち込みたい」
「シュクルさんどこ?あれ?おっさん冒険者と馴染んでる⋯⋯⋯⋯」