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The Tamer  作者: 感謝
序章
3/6

魔王を捕まえろ③

左手を失った魔王。


彼女が血を流したのは2000年前、勇者との戦い以来のことである。


久々の異常事態に彼女は状況の理解が遅れ、思考が一瞬、停止する。


魔王が困惑する暇もなく、麒麟の力を纏った男の攻撃は続く。


打撃、蹴り、打撃、蹴り。


圧倒的な力を込めた男の猛攻に、魔王の肉体は為す術なく破壊されていく。


吹き出す血、抉れる肉、折れる骨。


原型が分からなくなる程にグチャグチャに破壊される魔王の肉体。


「これで決めるッ…………!」


男が決着を付けようと拳にほんの少し、自らも気付き得ないほどほんの少しだけ力を込めたその隙、


「〝超重力グラビティ〟」


「……ッ!?」


男の身体が地面に叩きつけられる。


「…………ッだが…………!」


重力魔法。


自らの質量が何万倍にも重く感じる中、男は立ち上がろうとする。


しかし、地面から巨大な氷の剣が無数に生え、男の体を串刺しにする。


「面白い!!」


魔王の高らかな叫びが聞こえる。


先程まであれほど破壊された魔王の肉体は、全て完治している。切り落とされた左腕も生えており、衣服までも完全に元通りになっている。血痕ひとつ残っていない。


「我をここまで楽しませてくれるとはな!」


魔王は巨大なハンマーを持ち、回転しながら男に鉄槌を叩き込む。


すんでのところで男は氷の剣から抜け出し、回避する。


魔王は自らの後ろに大量の闇のゲートを出現させ、無数の闇の腕と共に男に追撃をかける。


「やはり我の見る目は間違っていなかった! 汝のようなものを待っていたのだ!」


目まぐるしい魔王の猛攻を2本の腕で互角に返しながら男は返す。


「あんだけやってそんだけ元気なのかよ! やってられないな……ッ!」


男は大きく魔王を振り払い、間を作る。


「〝神速〟ッ!」


男の攻撃によろけた魔王に、男は瞬時に詰め寄り、追撃を始める。しかし、魔王も瞬時に対応していく。


「汝、その姿は長く持たんのだろう。」


男は少し間をあけ、応える。


「それまでに決めきる……!」


「あとどれほどだ! どれほど持つのだ!」


「あと1分……ってとこかな!」


「やはりな、人間の身体では魔力マナが持たんだろう……! だがその間は…………」


魔王は後ろに数歩引き、地面に手を添える。


「楽しませてくれよ、人間ッッ!!」


「〝流星群メテオストーム〟」


魔王の強大な重力魔法によって宇宙から引き寄せられた隕石が魔王の黒い魔力を纏い男の元へと大量に降り注ぐ。


「………………ッ!」


刹那、嬉しそうに目を見開いた魔王の眼前には魔王の極大魔法を生き延び、反撃に迫る男の姿があった。


流星群メテオストームを喰らい、死なぬか人間。


やはり、期待通り…………!


「〝朱雀、〟、 〝青龍〟、〝玄武〟、〝白虎〟、もう一度力を貸してくれぇッ!」


4体のモンスターが男の周りに現れる。


武装アームドッッッッ!!!」


麒麟の装甲の上に、朱雀の力により赤い炎の翼が、青龍の力により龍の兜が、玄武の力により鉄壁の盾が、白虎の力により神霊の剣が男に与えられる。


「人間、持たぬぞッ!」


「『1秒』はあるッッッッ!」


1秒間。


たった1秒間だった。


しかし、その1秒間で男と魔王は人間の歴史の中で行われた全ての戦争における攻撃の総量よりも多く、攻撃の応酬が行われた。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


「フハハハハハハハハハハ!!」






男の最後の一撃が魔王を切り裂いた時、魔王の体は微粒子よりも小さく、粉切れになって宙に離散した。


原子レベルで破壊された魔王の肉体は血液さえも切り刻まれ、何も残らなかった。


「仲間に…………しなきゃなのにな……」


失敗した、というふうに男は少し後悔の笑みを浮かべ、静かにその場に倒れた。



どれほどの時がたっただろうか。


確か、魔王と戦っていて…………死んだのか。


「…………ろ…………」


何か、聞こえる。


「…………ろ……げ…………」


夢…………を見ていたのか…………?


「そろそろ起きろ人間。魔王の御前でそこまで深く眠れるとは、大した男だ。」


魔王城玉座の間で目を覚ました男は、周りを見渡し、唖然とした。


戦いの中であれほど破壊された魔王城は完全に修復されており、元の姿に戻っている。


道中で男が倒してきた魔王の配下も全員揃っており、玉座へ続く道の脇を大量の闇の騎士が整列して守っている。


四天王……?だったかも全員残ってるな。


そしてなにより、一番驚いたのは目の前の光景だ。


男が殺したーーーどころか、完全に消滅させたはずの魔王が涼しい顔をして玉座でふんぞり返っているのである。


「どうした人間……夢の世界に知性を落としてきたのか?」


「なんでお前……生きてるんだ?」


男の至極当然にも聞こえる質問に、魔王は少しムスッとした様子で答える。


「汝はどこまでも我を愚弄するな……。 肉体が消滅した程度で死ぬわけがなかろうて。」


なんだそれは…………反則だ。


「なんで部下の魔物共も全員ピンピンしてるんだよ。」


「アイツらは全て我の魔力が形を為しているに過ぎん。我が死なぬ限り、奴らが滅びることは無い。」


キョトンとして答える魔王を見て、男はため息をつく。


規格外過ぎる。どうやっても人間に勝ち筋なんてないんじゃないか。


「まぁ良い。 さっさと出発するぞ。 次は汝はどこに向かうのだ?」


男は魔王の発言が理解できなかった。


「え…………?」


「何をボサっとしておる。 我が汝についていくと行っておるのだ。 早く出るぞ。」


「おい、どういう風の吹き回しだ?」


「汝は我を仲間にしに来たのであろう?」


「いや、それはそうだが…………」


「ならば負けた我にそれを拒否することなど出来ん。 」


「負けた……って」


「最後に『立っていた』のは汝であろう? それにーーーー」


魔王は玉座からゆっくり通り、ニッと笑って続ける。


「汝といれば面白そうだからな。」


男は何故魔王が自分についてくるかが理解できなかった。


確かに俺は魔王を仲間にするために来た。


命をかけてでも、力ずくでも連れて帰るつもりだった。魔物使いの名に賭けて。


しかし、俺は間違いなく死んでいた。そもそも、こんなデタラメな奴に勝ち筋など最初からなかったのだ。


なのに……何故だ。


まぁいい。そんなことはどうでもいいのだ。


とりあえず今はこいつが仲間になったということが重要なのだ。 それ以上でも以下でもない。


それにーーーーーー


あいつの気持ちが何だか、わかる気もするしな。


男はこれ以上考えることを辞め、フッと笑うと立ち上がり、魔王に顔を向け、手を差し出す。


「俺はルイ。タケダ・ルイ。魔物使いだ。 魔王、お前の名前は?」


魔王はルイの元へ歩み寄り、出されたを握り返し、応える。


「我が名は セシリア・キルシェ・ルシフェリウス。魔王だ。」



魔王を仲間に迎え入れたルイは、魔王と共に魔王城を後にした。



道中にて。


「そういえば、お前らが生きてるのは分かったが、なんで俺までいきてるんだ? 間違いなく死んだと思ったんだか。」


セシリアは少し顔を背けて答える。


「…………我が直接殺した訳では無いからな。勝手に死ぬなということだ。」


「えっ、セシリアお前、死人を生き返らせたり出来るのか……?」


少し引き気味のルイ。


「死にたての死人の1人や2人、魂を現世に引き戻すことなぞ造作もない! 我を誰だと思っている!」


「……死人を生き返らさる魔法って、禁術の類だろ……」


「魔王に倫理を説くか。 頓狂な奴め!」


高笑いするセシリア。何故だがとてもご機嫌だった。


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