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episode.08



「つまり、デートしたのに進展なしって事!?」

「で!?デートでは…ない、ような……」


宮廷の書庫は、もはやシュナとセレネの密会場所と化している。セレネが背の低い本棚の上に座り、足をブラブラさせ、しがない宮廷魔導士とこれほど気軽に話している所を家臣が見たら卒倒するに違いない。


人前では気高く振る舞う事を覚えたセレネだが、昔はかなりお転婆娘で、どちらかと言うと今の状況の方が彼女の本質であるのは間違いない。


「男女が2人で出かけて食事したのがデートじゃなかったらなんなのよ」

「…………お詫び?」

「本気?」

「…………」


怪訝そうに眉を顰めるセレネに対し、シュナは居心地が悪そうに目を逸らした。


セレネが大きくため息を吐く。


「ロウェルが運命の人で間違い無いのよね?」

「間違えるはずが無い」

「なら、どうしてそんなに頑ななの?彼は間違いなくあなたが好きなんだから、受け入れたらいいじゃない」

「それは…………」


そんな事をしたらきっと心臓が破裂して死んでしまう。正直、間違いなく自分が好きだと言う時点でキツイ。


「お互いに心から望んで結ばれるのがどれだけ幸せな事だと思っているの?」

「…………」


セレネにそう言われると返す言葉も無い。


セレネは次の時代にこの国を背負う者として、政治的な面も考慮した上で婚姻関係を結ぶ相手を決めなければならない。そこに、愛や情は必要とされていない。


温情な現国王はセレネにいくつかの選択肢を与えてはいるようだが、国家の中枢人物の皆が、そのやり方に同意しているわけでは無い。


それに比べたら、贅沢な事を言っていることは分かっている。でも………


「千年…叶わなかったの。今更どうすれば良いかなんて、分からない………」


好きな人が自分を好きになるなんて考えられない。


俯くシュナに対して、セレネは小さくため息をついた。


「あなたが特別な記憶を継承している事は分かっているわ。だけど、それに縛られなくて良いのよ。過去の事ではなく、今に目を向けて。どうしたいかは、過去では無く、今のあなたが決めるのよ」

「………………」


ジンと目頭が熱くなるのを感じたシュナは、キュッと奥歯を噛んだ。年下の、妹のように思っているセレネからそんなことを言われるとは思っていなかった。


「だけど、どうすれば…」


戸惑うシュナに対して、セレネはパァっと表情を明るくした。


「そんなの簡単よ!想いを伝えるのよ!!」

「そ、れは………難しい…ような…?」

「そんな事ないわ。それに、あなたが動かなければ何も変わらないのよ?」


ガシッと手を握られてしまっては逃げる事も出来ない。


せめてもの抵抗でジリっと後退りしても、簡単に間合いを詰められ、状況は何も変わらなかった。


「好きなんでしょう?」


セレネの問いに、僅かながらもコクコクと頷くシュナに、セレネは満足そうに笑みを浮かべた。


「報告、楽しみに待っているわ」


ひょいっと本棚からセレネが降りるとほぼ同時に、書庫の扉が開けられる。


「お迎えに上がりましたよ、セレネ皇女」


シュナの体が一瞬で緊張したのに対して、セレネはわざとらしくため息をついた。本棚から身を降ろしたのは、ロウェルがここへやってくる気配を感じ取ったからなのかもしれない。


「迎えなんて必要ないわ。もう子供じゃないもの」

「なら、子供みたいに脱走するのはやめたら?今頃部屋の見張り役が叱られているよ、可哀想に」

「気づかないほうが悪いのよ」


会話の流れを聞くに、どうやらセレネは見張り役を掻い潜って部屋を抜け出し、こんな場所で駄弁っていたらしい。


城の、皇女の部屋の見張り役がポンコツなのか、セレネに忍びの才能があるのか…。


シュナはチラリと視線をロウェルに向けたが、その視線が合うことは無かった。その事にホッとしたのも束の間、セレネが口を開く。


「そういえばあなた達、2人で食事に行ったのよね?どうだったの?」


素知らぬ顔で言うセレネは、面白がってやっているに違いない。その話しはついさっき事細かに何も無かったと話したばかりだ。


余計な事を!と心の中で怒っていると、いつにも増して冷静で淡々とした声が届く。


「ああ、美味しかったよ。さあ、はやく戻ろう」


そう言って最も簡単に踵を返すロウェルにシュナの心がざわつく。体調が悪いのだろうか、忙しいのだろうか、それとも、嫌われるような事をしてしまっただろうか、と。


異変にはセレネも気付いたようで、チラリとこちらを見て来たが、シュナに何かの心当たりがあるはずもない。


いつもなら、少ない時間の中でも間違いなく声をかけてくれると言うのに。


セレネもロウェルのこの態度は想定外だったようで、動揺しつつも大人しく後に続いて行ってしまった。


シュナの胸にはモヤが残ったままだった。





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