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episode.07



「お、俺のところ…と言うのは……?」


恐る恐る尋ねるキキを見下ろすようにテオが視線を向け、不敵に笑った。


「俺の隊の拠点だ」

「………………私は、イルトの人間ですよ…?」

「故郷は捨てたんだろう?ならば関係無い」

「でも…………」


いくらなんでも、他の人が簡単に頷くはずが無い。自分がテオの元へ行けば、彼と、彼の仲間にも危害が及ぶかもしれない。


ここで別れなければ、きっと後悔することになる。この戦争の果てに、キキが幸せを掴むことはきっと無い。


「私は……あなたと一緒には……っ!?」


震える声で決意を述べようとしたキキの口元を、テオは自身の手で塞いだ。


「お前は俺を助けた。ならば共に来い」


強引で自分勝手で、けれども逆らう事が出来なかったのは、あと少しだけでもテオのそばに居たいと願ってしまったからだろう。


テオはその夜、キキを連れて自身が統率する騎士団の基地へと戻った。キキを見たものの意見は賛否両論だったが、テオを助けたのがキキだと知れると、反対意見の者はグッと押し黙った。


「お前を連れてきたのは俺だ。何も心配するな」

「…………ありがとうございます」


それからは本当に奇妙な生活だった。


キキは毎日テオが行く所に連れて行かれ、そこで誰を治癒しようがテオは何も言わなかった。


テオが眠るところで眠り、テオが食べる時に食べ、テオが戦うところで治療する。それほどテオとの時間は長かった。


ある日の夜、屋上で座り込んでいるテオを見つけたキキは、なんとなくそのすぐ隣に座って夜空を見上げた。


テオはお酒の入ったグラスを片手に空を眺めていた。


「面倒だな。お前と一緒にいるのは」


気だるそうなその声に、キキの心臓はドクドクと音を立てた。キキはテオに出て行けと言われたら出て行かなければならない。


強引で自分勝手で気まぐれなテオは、人を生かすも殺すもその時の気分で決めるような人だった。キキと共にあるうちに、人を無闇に傷つけることは減ったが、それでも相手を無力化させるために剣を振るう事は何度もある。


テオがキキと共にいることに飽きたら、この関係はすぐにでも終わりを迎える。面倒とはつまり、そういう事だろうかとキキは言葉を返せずにいた。


テオはまた、お酒の入ったグラスに口を付ける。


「殺してしまったほうが早いというのにな」

「…………命を粗末にするべきではないわ」

「戦とはそういうものだろう」

「戦争なんて、早く終わればいい」


その思いが変わる事はない。


「お前が、本国の女であれば………いや」

「…………」


テオが自嘲するように笑うのを隣で感じながらも、その顔を見る事は出来なかった。せめて、涙が流れないように歯を食いしばる。


「おい」

「………なに?」

「本国は負ける。恐らく、そう遠くないうちに白旗をあげるだろう。その前にお前は他国に渡れ」

「え…?」


思わず顔を上げるとキキの頬を涙が伝い、テオはそれを少し乱暴に拭った。


「名を変え、目立たないようにしていれば、そう簡単には見つからん」

「………死んでもいいからあなたと一緒にいたいって言ったら、どうする?」

「命を粗末にするものではないと言ったのはお前だろう?」

「………」


つい先程の自分の言葉を返されたキキは、グッと押し黙るしかない。


きっと、望んだ答えは返ってこない。それが分かっていても、聞かずにはいられない。


「………一緒に、来てはくれないの…?」


月夜を眺めていたテオの鋭い視線が、再びキキを捉える。


「この戦争の果てに互いが生きていられたら、お前を見つけ出してやる」

「…………………」


その強気な言葉に、キキの目からは再び涙が溢れ出る。


歯を食いしばっても止まることのない涙に、テオは面倒そうに大きなため息をついた。


「本当に面倒だな。お前と一緒にいるのは」

「……絶対に死なないと約束して」

「お前、俺を誰だと思っている?人の事よりまずは自分の心配だろう?」


テオはキキの頭をグシャグシャと撫で、再び月夜を見上げた。


そのいつになく穏やかな横顔は、千年経った今でもハッキリと覚えているのだ。






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