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episode.14



千年祭。前夜祭。


街は大いに賑わい、人々は終戦と平和な日々に感謝し祝杯をあげる。


店はどこもかしこも大盤振る舞い、昼間は子供達が広場を駆け回り、夜になっても明かりが消えることはなく、お祭り騒ぎとはまさにこの事だ。


人混みを得意としないシュナは相変わらず王宮で普段通りの仕事をこなしていたが、宮廷騎士や魔導士は街の秩序を守ったり、城の警備を固めたりと、問題が起こらない為に忙しそうにしている。


明日はシュナを含む能力者が、王族と共に人々の前に登壇し、平和の象徴としてお披露目される。


憂鬱極まりないのだが、小心者のシュナは長年の決まりを破る事も出来ず、言われるがまま登壇するしか無い。


普段、シュナの隠れ家となりつつある書庫の窓からは、いつもよりも明るく灯った街の明かりがよく見える。


「いよいよ明日ね」

「……………こんなところにいてよろしいのですか?セレネ皇女」

「やるべきことはきちんとやったわ。だからその話し方はやめて」


ムスっと頬を膨らませるセレネに、シュナはクスッと笑みを浮かべた。今日は職務から逃げ出したわけではなく、あくまでもシュナの友人としてセレネはここに来ていた。


「聞いたわよ。あなたのドレスをロウェルが用意したって」

「………………」


その話しにはどう反応したら良いのか分からない。「はは…」と乾いた笑いを返す事で手一杯だった。


そんなシュナに、セレネは困ったように笑いながらため息をついた。


「覚悟を決めたって事で良いのかしら?」

「い、いや…それは、その……」

「あの男の愛はかなり重いわよ。そう簡単には逃げられないんじゃないかしら。ああでも、逃げる必要は無かったわね。あなたにとっても、運命の相手だものね」

「………………面白がってるでしょ」

「良いじゃない。私だってたまには友達と恋バナの一つや二つ、してみたいのよ」

「恋バナ………?」


恋バナとは、果たしてこんなものだっただろうか?とシュナは古い記憶をたどった。


そんなシュナに構う事なく、セレネは窓から街の灯りを眺めながら言う。


「明日、婚約の発表をするわ」

「……………へ!?」

「隣国の第三王子よ。元々付き合いはあったし、この婚姻が成立すれば隣国との平和協定も強固に出来る」


思わず「誰の!?」と口に出そうになったシュナは直前で言葉を飲み込んで正解だった。あやくう、自意識過剰陰キャ魔女になるところだった。


「………それで、いいの?」


セレネはこれまで、国王に提示されてきた政略的結婚の相手に対して首を振り続けてきた。彼女自身、恋愛結婚が出来るとは思っていなかっただろうが、それでも何かこだわりがあったのだろう。


セレネは清々しい表情で窓の外を眺めていた。


「彼の事を恋愛的な視点で見た事は無いけれど、両国にとって最適解を考えてくれる人よ。きっと上手くやれるわ」

「…………………」


ずっと叶わないと知りながら恋をしてきたシュナと、恋をする事すら叶わないセレネ。


相反する2人だが、そこには確実に友情がある。


恋に憧れを懐くセレネの前で、自分だけ恋をして良いのだろうかとシュナは俯いた。セレネはそんなシュナの心情を目敏く感じとっていた。


「私に同情なんてしたら許さないわよ。あなたは、今まで苦しんできた千年分と、私の分も、今世で思いっきり恋をするのよ」

「だけど…どうすれば良いか、分からないし……」

「そんなの私も知らないわ。自分で考えなさい。むしろ私が教えて欲しいくらいよ」


ツンとしてみせるセレネだが、すぐにその表情は綻ぶ。


「大丈夫よ。ロウェルはきっと、あなたの全てを受け入れてくれるわ」

「…………………」

「でも、あまり待たせすぎていると男は狼になるらしいわ。一体どう言う事なのかしらね」

「っ////////」


恋愛経験の乏しいシュナだが、知識だけは持ち合わせている。恋人同士になった男女がいずれどうなるのか、しっかりばっちり知っている。


「顔が赤いけれど、何を想像したのかしら?」

「なっ!?な、なにも?」


歳下のセレネに揶揄われているのは不本意だが、彼女が皇女としてでは無く、セレネ自身として接してくれる事を嬉しく思う。


セレネが婚約を発表したら、こんな風に気軽に友人として会う機会が与えられるのか分からない。


「変わってしまうのは……怖い…」


セレネとの関係も、ロウェルとの関係も。


「変わらなければいけない時もあるのよ。私たちは、()()生きているんだから」


清々しい表情のセレネを見ていると、その前向きな姿勢が羨ましく思う。輪廻の魔女はずっと、過去に囚われて後ろを向きながら生きてきた。それはシュナも変わらない。


先人に習い、過去に争う事すら諦め、今世でもまた、何も変わる事なく生涯を終えるものだと思っていた。


「変えても、良いのかな。私は輪廻の魔女なのに」


輪廻の魔女の恋は叶わない。叶えてはいけないとすら思える。これは、神から与えられた罰なのだから。


セレネが、奥手なシュナの手をとる。


「変える時が来たのよ」

「…………」

「って言うか、こんなに条件が揃っているのにチャンスを無駄にしたら、あなた歴代の魔女様に呪われるわよ」

「…………それは…こわい……」


歴代の輪廻の魔女の性格は様々だ。シュナのように奥手な者もいれば、そうではない者もいた。


本当に彼女達に呪われるような事があれば、シュナはきっと、あの世でも苦しむことになるだろう。


「明日、あなたがどんな衣装を着るのか、楽しみにしているわ」


今夜、街が眠りにつく事はない。


けれどセレネとの時間は有限だった。


セレネが書庫を去る直前、「そうだ!」と何かを思い出したようにこちらを振り返った。


「一応伝えておくけれど、この先私やあなたの立場が変わっても、あなたと私の友情は変わらないって事、よく覚えておくのよ?じゃあね、おやすみ」

「おやすみ………」


忙しない妹の姿に、セレネは心が温まるのを感じていた。





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