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初めまして、またはお久しぶりです。
黒猫ととです。
また自分の欲望を詰め込んだだけのお話しを書いてしまいました。
お楽しみ頂けるとうれしいです!
争いの絶えなかった古の時代
失われる命と破壊される自然を憂いた神は、選ばれし者に特別な力を与え、人々は平和を手に入れた。
シュナの先祖は『記憶する者』という力を与えられた。その使命は、戦争や争いの醜さを後世に伝え残す事。その為に現代の記憶者であるシュナには、戦果の時代の祖先の記憶が継承されている。
とは言え、神がこの力を与えたのは千年以上前の話しだ。当時、読み書きが出来るほどの教育を受けられる人は限られていたが、今では赤子や幼い子供を除いてほとんどの人間が読み書きが出来る時代だ。
かつての戦争の記憶は、書物となり、人々は学問としてそれを学ぶ事が出来る。
戦争の実態を継承し、語る事で後世に記憶を残していたシュナの能力は現代ではお役御免となっている。つまり、記憶者としてはやる事がない。
ならばこの能力を神へ返上してしまいたいのだが、その方法など分かるはずもなく、シュナはあの戦禍の中で感じた束の間の喜びも、当たり前だった苦しみもはっきりと覚えている。胸を焦がすような恋心さえも。
シュナが記憶する者としての能力を手放したい1番の理由はこの恋心である。
千年も前、シュナの祖先はある男に恋をした。
当時、戦禍の中で自暴自棄に陥ったしがない魔導士と敵国の騎士だった2人は、想いは通じても人生を共に歩む事は叶わなかった。
それ以降、輪廻する魂に引き寄せられるように、姿や立場がどれだけ変わろうとも、千年前に恋をした男の魂を受け継ぐ、あの頃の熱情を思い起こさせる相手が現れる。
だがその願いは、千年叶う事はなかった。そんなことは最初から分かっていた。過去の記憶を継承するのは自分以外にいないのだから。
それでもどうしようもなく、その人の事を想ってしまうのだから、人の心とはどうしようもない。
それは、神から与えられた罰でもあった。
今代の記憶者、輪廻の魔女と呼ばれる事もあるシュナは、宮廷の研究室で魔導士をしている。輪廻の魔女の特性の他に、シュナは治癒魔法や援護魔法に秀でていた為、宮廷での仕事といえばそちらばかりだ。
そして、シュナの心が惹かれずにはいられない相手も、この宮廷に籍を置いている。
宮廷騎士、セレネ第一皇女の側近を務めるロウェル・ストルキオ。辺境伯の次男の産まれでまだ年若いが、代々優秀な騎士を輩出するストルキオ家の名に恥じない実力を持っている。
と言う事を密かに調べてしまうぐらいに、シュナの心は囚われている。
ただのしがない魔導士と、超有能な近衛騎士。今代でも想いが通じ合うのは望みうっすうすの薄である。
「なら、出会いたくなかったのに……」
「あら、誰の話し?」
「っ!?!?!?」
書庫で書棚の埃をはたきながら独り言を呟いたシュナだったが、まさかの返事が返ってきた事に驚いて思わず肩をすくめた。
振り返るとそこにはクスクスと笑みを浮かべたセレネがいた。
「脅かさないで」
普段、麗しく淑やかなセレネはシュナの3歳年下な事もあってか、無邪気でイタズラ好きな一面も持っている。
この国の時期王女と城の使用人と言う立場ではあるが、幼少期からの仲であるため、非公式の場ではその関わりは気安い。
シュナが驚いた事が満足だったようで、セレネは上機嫌だ。
「それで?誰に会いたくないの?」
「……別に?何か用なの?」
セレネの問いを受け流すと、今度は不満そうに口を尖らせる。
「友人が日の光を浴びているか見に来たのよ」
「…………」
こう言うよく分からない事を言う時は、つまり何かから逃げてきたと言う事だ。
暇さえあれば足を運んでいるこの書庫は確かに、城の北側に位置しているが、窓が一つもない真っ暗闇なわけでもないし、シュナも一日中引きこもっている訳でもない。外に出れば日の光が当たるのは当たり前だ。
「はやく戻ったら?」
「息抜きくらいさせてよ。お父様ったら、早く相手を決めろって煩いんだから」
「あぁ……」
セレネは現在齢15だが、国王の一人娘である為、いずれこの国の王位を継ぐ事になる。その後の、後を継ぐ者を産むことも、王女となるセレネの勤めであり、その相手は相応の人でなければならない。
皇族であるが故に恋愛結婚が出来ないながらも、いくつかの選択肢の中から相手を選ばせようとする国王陛下はかなり温情があるように思うが、それでもセレネは不満らしい。
「面倒なら適当に選んでしまえば?愛が無くても子供は産めるんだから」
淡々とシュナが言うと、セレネは眉間に皺を寄せ、頬を大きく膨らませた。その姿は実年齢よりもだいぶ幼く見える。
「もう!そんな事言わないでよ。一生の相手なのよ?」
そうは言ってもなぁ、とシュナは小さくため息を吐いた。
初めて恋をした千年前から、輪廻の魔女の恋は叶っていない。かつて、輪廻の魔女と呼ばれた魔女達は、生涯独身の者もいれば、婚姻関係を結んだ者もいる。
ただ、そのどれも、1番に想う相手では無かった。
「あなたもそろそろ考えたら?ずっと1人と言うわけにはいかないでしょう?」
「………私は貴族じゃないし、血筋を残す必要も無いから」
輪廻の魔女の特性は、血筋で受け継がれるものではない。いつか、シュナがこの世を去る時に適性のある者が選ばれ、この魂と記憶を受け継ぐ。
既に記憶する者として用無しとなっているシュナの事情を知るものは今やほとんどいない。その知識を悪用しようとする者からシュナを守るためでもある。
つまり、シュナは側から見ると、数多いる魔導士の中の1人でしかない。だが、セレネはそれを許してはくれない。
「ロウェルの何がいけないの?」
「それは………」
シュナは自分が想いを寄せる男の名前を出されて、分かりやすく目を泳がせた。




