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王弟殿下のストーカー日記  作者: くみたろう
王弟殿下のストーカー日記
8/81

ストーカー日記 8


 ネネリーナは困惑していた。

 自分の前には味の染み込んだ煮魚が横たわり、死んだ魚の目が何故かネネリーナを見ているような感じがする。

 その死んだ目、私と一緒ではありませんか……? と思わず話しかけたい衝動に駆られていた。


 目の前には優雅にサンドイッチを食べながら王弟殿下と話をする王太子。

 そして、ネネリーナの隣には、その王弟殿下がいる。

 そう、ロイヤルファミリー専用のテーブルでネネリーナは着席しているのだ。


「(私は何故ここに?! )」


 プルプルするネネリーナを見たセルジュが、にっこり笑って握りしめている箸を取った。


「えっセルジュ様? 」


「僕が解してあげるね」


 サクサクと煮魚を取り分けて、皿の端に置くセルジュにネネリーナはパニックになる。


「なっ! セルジュ様! な……ななな?! 魚!! 」


「ふっ…………うんうん、魚だね」


 慌てるネネリーナにクスクス笑い出すセルジュと、向かいでも手を止めて肩を震わせるザラノアールがいる。

 笑われた!! と顔を真っ赤にさせると、小さくポソポソ何かを言っているザラノアールがいる。


「やだわ、思っていた以上に可愛いらしいじゃない」


 小さな声で聞き漏らしたのだが、なんだか随分と雰囲気が柔らかくなった気がすると、真っ赤な顔を手で隠しながらネネリーナは見た。

 無表情に近かった冷たい風貌は姿を消してにっこりと笑ったザラノアールが髪を耳にかける。

 それを見たセルジュが眉を寄せた。


「ザラ、やめてよ」


 そう言って、ネネリーナの口に魚に入れる。

 んむっ!! と声を上げると、口の端に着いた魚を綺麗にナプキンで拭いてくれた。

 目をグルグルにしながら驚いていると、いつも笑っているセルジュが不満そうにザラノアールを見る。


「ネネ様を気に入ったとか、やめてね」


「あら、いいじゃない。可愛らしい子は好きよ?」


「ん"ん"ん"?! 」


 急に飛び出したおネエさんにネネリーナは目を見開く。

 ガン見すると、ザラノアールは首を傾げた。

 おネエさんの話し方は優しい淑女のような話し方で、笑顔を見ているとネネリーナの頭がパニックを起こす。

 しかし、2人の軽快な会話はいつも通りなようで、違和感はない。

 王太子様はこれが素なのかしら……と思考の渦に巻き込まれる。


「ネネ様が可愛くて面白いのはわかってるの。先に見つけたのは僕なの。急に横から出てこないでよ」


「んむっ! 」


「邪魔なんてしないわ。ただ、セルジュが楽しそうだから見ていたいだけよ」


「悪趣味ぃぃ」


「まあ、優しさに溢れているじゃない」


「どこが?! 今まさに邪魔してるでしょ?! 」


「それよりいいの? ネネ様の口、大変な事になってるわよ? 」


「え? ………………わぁ! ごめん!! 」


 飲みきれないくらいにパンパンになっているネネリーナの口。

 手で口を抑えて必死に食べているが、どんどん追加されるご飯に必死だった。


「ごめんね」


「だ…………大丈夫、です」


 もぎゅもぎゅと必死に食べているネネリーナを不謹慎だが可愛いと見ている。

 そんなセルジュに気付いて、物凄いスピードで顔を背けた。


「(見られてます! 見られてましてよ?! なぜー!! )」


「(可愛いネネ様、耳真っ赤。可愛い可愛い可愛い。ギュッてしたいけどだめだよね)」


「(…………邪な事考えてそうだわ)」


 静かにサンドイッチを嗜むザラノアールが2人を眺めていた。

 デロデロに蕩けるような顔でネネリーナを見るセルジュ。

 よくネネリーナが気付かないものだと呆れそうだが、それも魅力なのでしょうね……と言葉にせず胸の内で留める。

 周りにいる生徒たちは不躾にならないように、だがじっくりと2人を見ていた。

 ツンツンとして気を強いネネリーナが、まるでマタタビを与えられてゴロニャンしているセルジュに構い倒されている。

 それに困惑して言葉を噛み、赤面する意外な姿のネネリーナ。

 さらに、食に貪欲であることもセルジュにバラされている事に数人の生徒がぷるぷると体をふるわせている。


「(あの見た目で空腹になりやすいのね)」


「(そういえば良く腹部を抑えていたが、そういう理由なのか)」


「(予想外な事実……ふ……お腹いたいわ……)」


 また頬をパンパンにした淑女らしからぬ姿に顔を背ける人が続出している。

 おすましする淑女が、まず見せない姿だ。

 セルジュはどんな姿も可愛いと見つめてるし、ザラノアールは真っ赤な顔で頬を膨らませているネネリーナにサンドイッチを吹き出しそうになる。


「…………いい加減にやめておけ、セルジュ」


「え? ……苦しかった? ごめんね……可愛かったからもっと見たくて」


「ドSなのかしらぁ?! (大丈夫ですわ、セルジュ様)」


 ぶっふ!!


 至る所で吹き出す音やむせる音が響く。

 ネネリーナは、はっ! と口を塞いだ。

 心の声と発言が完全に入れ替わっていた。


「ち……違いますの! ちが……違いますのぉぉぉ! 大丈夫なんです! 飲み込めています! 詰まってもおりません!! ですから……」


「ドSって思ってたんだ? 」


「ち……ちが……」


「思ったんだね? 」


「お……おもっ……」


「ん? 」


「思いましたぁぁぁぁ……ごめんなさいぃぃ」


「ふ……ふふ……」


 両手で顔を覆って絶望するセルジュの恍惚とした笑みはぞくりとする程に艶やかでいて可愛らしく目が奪われた。

 元より知っているザラノアールは勿論、その顔を見た生徒たちは、セルジュの異常性をすぐさま把握する。

 その瞬間ネネリーナへの憐れみが一気に膨れ上がった。


 ああ……この人に目を付けられたカエサエル令嬢はこれから苦労する。


 まるで仕組まれたように顔を隠してセルジュの表情を見ていなかったネネリーナは、自分の愚かさと不敬な発言にすら怒らないセルジュの寛大な心に感謝していた。

 真実を知らないネネリーナは、まるで蜘蛛の巣に掛かった獲物のように動けない状態で、少しずつ捕食されるのにまだ気付いていない。

 





 〇月✕日


 今日ネネ様とご飯食べた。

 とうしよう、可愛い。可愛い。可愛い。 ギュッてしたい。可愛すぎる。あんなの放っておけないよ。真っ赤だった。照れてた。可愛いすぎた。もぎゅもぎゅしてた。食べさせたら食べてくれた。どうしよう、可愛い。ネネ様大好き。僕もネネ様食べたい。


 …………あ、カインわすれてた。

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