監禁52日目
そして夕食の時間が来てメリルはザラノアールにエスコートされて食堂にやってきた。
最後だからと白とクリーム色にレースをふんだんに使ったドレスを着ているメリル。
いつの間に準備を……と驚いたが、ザラノアールが事前に用意をしていたようで、アンがバサッ! とドレスを出した時には自分が着るのも忘れて美しいドレスに見入った程だ。
レースは繊細で美しく重なり、ボリュームはあるが膨らまないドレスはメリルのふくよかな体を膨張させるようには見えなかった。
「王太子さま」
食堂に来たザラノアールとメリルだが、全員の眼差しはザラノアールに向けられる。
あら、無視かしら……と思っているが肝心のザラノアールの意識はメリルに向かっていた。
エスコートで椅子に座ったメリルはザラノアールに礼を言い、微笑むと穏やかで優しい笑みが返ってくる。
「お待たせしたかしら」
「いえ、来ていただきありがとうございます。では……」
座ってザラノアールが話しかけたのをきっかけに食事会は開始された。
晩餐会らしい豪華な食事が運ばれてきて、この地方でよく食べているメリルには見慣れない食事なんかも興味が湧く。
そっと食べて舌鼓を打っている間に、さっそくとザラノアールと話すリプラント公爵家の面々。
最初は今回の視察、事件解決の感謝からはじまりジワジワと息子モルダバイルの話になる。
騎士として上がるのでよろしくお願いします、というものだが、これにザラノアールは返答なく小さく微笑んだだけに留まる。
それに焦りを見せる公爵と、ひきつり笑いの夫人。
失言や失態をしたと知らない両親は、この反応のなさに不安を覚えたのだが、その意味を知るのは今から数ヶ月後の事だ。
騎士とはなるがロイヤルファミリー直属から適正なしとして外される事になる。
そして、娘の不躾な視線がザラノアールに向けられる。
彼女は兄の代わりに家に残り、夫を婿養子にする義務がある。
だから、どんなにザラノアールを好きになったとしても報われることはないのだ。
いや、家柄的に第2夫人となることは可能だが、それもザラノアールが希望した時のみ。
その場合は親戚から跡を継ぐものを選ぶことになるだろう。
モルダバイルに対してのザラノアールの反応がイマイチである事から娘の第2夫人としての後押しもしたいと感じたのか、夫妻はにこやかに娘シルビアの魅力を伝える。
だが、そうなのねと微笑むだけでザラノアールに印象付ける事は難しいと判断したのか居心地悪そうに顔を見合わせる夫妻だった。
「…………疲れたわ」
滞在最終日の夕食の時。
ある意味1番ザラノアールの精神を削ったのはこの時間かもしれない。
明らかに取り入ろうとする態度はその内心を透けて見せて、あぁ、結局ほかの貴族と変わらないわね、とザラノアールに印象付けた。
妹であるシルビアはザラノアール滞在中であっても婿探しに動かなくてはいけなかった為、そこまで接触する機会が無かったのでこんなにザラノアールに執着しているとは思わなかったメリル。
食事中、じっとりとした視線を幾度となく向けられ居心地が悪かったのだ。
それも、明日には終わるのだ。
「…………はぁ、結局デートらしい事は出来なかったわね」
「何をしに来たと思ってるんですか」
「視察よ! わかってるわよ! ……でも、少しくらい一緒にゆっくりしたいって思ってもいいじゃない。はぁ、あの頃に戻りたいわ……いや、戻っちゃ駄目だけど」
「……あのころ?」
メリルが不思議そうにザラノアールを見ると、にこやかに笑うザラノアール。
「ええ、私がメイドの姿でメリルちゃんのお世話をしていた時よ。あの時は部屋に2人だけ……一緒にゆっくり出来る時間があるあの時は楽しかったわ……不謹慎だけどね」
ふふ、と笑って過去を思い出す。
確かに、今よりも体調が悪くて不安だったけれど、当時のザラであった頃の方が心の距離感は近い。
2人だけの空間で、自然体でお互いが居るだけの空間が穏やかで落ち着いていて、居心地が良くて。
「…………そうね。あの頃は……」
小さく呟いたメリルの言葉をザラノアールは全て聞き取れなかった。
なぁに? と聞き返されても、メリルはただ笑うだけ。
それから少しだけ話をしてから部屋に帰ったザラノアールを見送ってから、メリルも眠りについた。




