監禁50日目
あれから恥ずかしがってザラノアールを見ないメリルと、抱きしめたいザラノアール。
そして守護神アンとの戦いの末、ザラノアールを部屋から追い出してから翌日。
今日もメリルをエスコートしながら食堂にやってきたザラノアール。
明らかに昨日よりも距離が近く、公爵夫妻は顔を見合せていた。
以前は腕にメリルを軽く掴ませて歩いていたのに、今は腰に腕を回しているのだ。
「…………王太子様メリル様おはようございます」
公爵が挨拶をすると、メリルを見ていたザラノアールが顔を上げる。
いつもより2割増機嫌よく笑顔が眩しいザラノアールと、ほんのり赤らめた顔で挨拶を返すメリル。
当然のように椅子を引いてメリルを座らせたあと、頬に口付けようとしたザラノアールをアンのわざとらしい咳払いが止める。
「………………もぅ」
軽く頬を膨らませてから椅子に座ったザラノアールの急激な変化に全員開いた口が塞がらない。
聞きたいが聞けるはずもないし、生暖かい笑顔でザラノアールとメリルを見る騎士達も上機嫌だ。
既にお菓子を渡されているし、ザラノアールの態度とそれを受けるメリルの恥ずかしそうな姿は騎士のおじ様達をそれはそれは喜ばせていた。
「……今日もあの……視察に出るんですよね?」
モルダバイルが聞いてきた事に水を含み口をスッキリさせてからザラノアールが微笑んだ。
「ええ、もう一度孤児院にいくわ。昨日あれから話していたのだけど、子供達が日常生活の中で考えられる下というものを探そうかと思っているの。子供は大人程上手に隠せないわ。必ずどこかでボロが出る。今日は連絡をしないで真っ直ぐ向かうわ」
「俺も! 行きます!」
「…………まぁ、いいけれど。できるだけ静かにしていて」
「は……はい」
昨日の失言は響いている。
もしかしたら、もっと情報を引き出せていたかもしれないのにと、あの後の会話でも仄めかしていたから反論の余地もない。
まだ若いからか浅慮な考えで、騎士として立つ位置付けになるはずなのに公爵子息の顔が出る。
どちらつかずとも取れる現在はいったいどちらの立場でザラノアールの隣にいるのだろうか。
今後守る立場である騎士として?
その割には口さがない。
公爵子息として?
その割には浅慮な考え。
どちらにしても、現在のモルデバイルに及第点は与えられそうにない。
「さて」
口元をナプキンで拭ったザラノアールは、メリルを見る。
こちらも食べ終わりザラノアールを見た。
「メリルちゃん、ちゃんと食べれたかしら?」
「ええ」
「それじゃあ、準備をして出掛けましょうか。歩きやすく足元はヒールの低いブーツにしてちょうだい」
「かしこまりました」
後半はアンに言う。
不用意な接触に目を光らせるアンの監視にため息を吐き出し、ザラノアールはメリルの肩に触れてから食堂を先に出ていった。
「メリル様もご準備に向かいましょう」
「はい」
頷いて席を立ち、夫妻に挨拶をしてから部屋を出ていった。
残された家族たちは顔を見合せている。
親密度の上がった2人をこの朝食の時間だけでわかってしまった。
言葉には出さないが、やはりザラノアールとメリルの関係性は気にしていたからこその驚きである。
「…………モルデバイル、昨日……いや、なんでもない」
聞きたい事はわかる。
だが、箝口令がと聞いたモルダバイルからは何も言えないし、夫妻も聞いてはいけないことなんだろうと静かに口を閉じた。
「こ、これは王太子様! また来て下さり……あの……」
先触れを出さずに訪れたザラノアールとメリル。
メリルはツバの広い白い帽子に、薄い水色のワンピースを着ていて、ザラノアールにエスコートされながら孤児院を見上げていた。
修繕されてそれなりに綺麗ではあるが、庭はあまり整備していない。
チラチラと窓から見える子供達は不思議そうにメリルたちを見ているが、誰も彼もが草臥れた服を着ていた。
だが、その中で何人か小綺麗な子がいた。
仕立てられたような服を着てネクタイに指を掛けている。
窓に張り付く子供達、その後ろから小綺麗な子供が何人か引っ張っていて、連れていかれていた。
「…………まあ、だれか連れていかれたわ」
ゆったりと言うメリルに、孤児院の管理者がギョッとする。
メリルの視線の先がどこか分かったからだ。
「…………まあ、少し大きな子が引っ張られていきましたけど……その子は身なりが綺麗なのねぇ。他の子より質のいい服を来ていたわ」
「そうなのかい?」
「ええ、少し背伸びしているようなスリーピースよ。4人は居たかしら」
「あっ! あぁ、それは、この領の貴族の……子供でしてっ」
焦りに焦って必死に話すが、明らかに失言だった。
メリルはまるで不思議と言うように首を傾げる。
「貴族の子供がこんな時間に?」
ザラノアールの言葉にハンカチで流れる汗を脱ぐう孤児院の管理者。
「それに、孤児院の管理者であるあなたが、貴族の子供をそれと、言うのか?」
「いっいえ……」
「……ネクタイを結んでいたように見えたのですが……今身支度を整えている感じでしたよ? 髪が……まだ……」
よく見ているメリル。
それを聞いたザラノアールが、後ろにいる騎士たちに顔を向けた。
「王太子権限で孤児院内を確認する。全て余すことなく調べるように」
「はっ!!」
ゆうに30人は超えているだろう騎士たちが一斉に孤児院に突入していった。
孤児院で働くシスターたちは叫び、何をなさいますか! と声を荒らげているのだが騎士たちは王太子殿下からのご命令ですと告げて走り回っていく。
1箇所に集められた子供達は、規定人数より多く青ざめて身を寄せあっている。
同じ服を着ているので今更よその子とも言い訳できないだろう。
「……既に子供の人数が多いようだが?」
「それは……その……」
モゴモゴとしてから、顔を上げた管理者は声を張り上げた。
「そのっ! 孤児を見捨てられたくてっ!! 」
「それなら届出を出せばいいだけだろう? 他の空きを確認して受け入れもいくらでも……」
話している最中に孤児院の中が騒がしくなった。
集められた子供たちの中に綺麗に着飾る子供が居ないからどこかにいるはずだと探していると、大きな家具を動かしたあとがあった。
普段は丁寧に隠されていたのだろうが、突然のザラノアールの訪問にそれどころでは無かったのだろう、子供達を隠す地下通路が現れたようだ。
「…………かにか、あったようだな」
ちらりと見ると項垂れて、抵抗すら無いのだろう管理者だったが孤児院の方を見ているザラノアールの隙をついてメリルに走りより手を伸ばした。
だが、メリルに着いているおじ様騎士がそれを許すはずもなく、モルダバイルが動く事も出来ない程早くメリルは守られザラノアールの腕の中にいた。
「…………私のメリルちゃんに手を出さないで欲しいわね」
冷たく研ぎ澄まされた眼差しで、しゃがみこむ管理者を見据えたザラノアールは捕まえてとだけ言って捕縛命令を出した。




