監禁48日目
近くの為5分ほどだろうか、すぐに着いたカフェ。
貴族御用達で、壁が厚く音が漏れない個室に通されたメリルは、ザラノアールに椅子を引いてもらい座った。
すぐ後ろにいるアンがスカートを直し、紙ナプキンを膝に広げているのをモルダバイルは黙って見ていた。
ザラノアールに対する姿を見て、このメイドはメリルのメイドでは無いと思ったのだろう。
だが、アンは変わらずメリルに仕えている。
この子は本当になんなんだろうと思うが、ザラノアールがいる手前ジッとメリルを見ることも出来ない。
「それで、何が聞きたいのか……は、何となくわかるんだけれどもね」
運ばれて来た紅茶を飲み、あら美味しい……と言うザラノアールに、悩みながら口を開いた。
「王太子様……ご一緒に来られたメリル様なのですが……キャロライン様は宜しいのですか……あの……メリル様は一体……」
予想通りの質問にカップを置いたザラノアールがジッと見てきて狼狽えるモルダバイル。
「まずメリルちゃんについてだけど、貴方が聞きたい事は父上が出している箝口令に引っかかるのよ」
「箝口令……」
「勘違いしないで欲しいのは、メリルちゃんは何一つ悪いことはしていないの。むしろ私たちがメリルちゃんに迷惑を掛けたのよ。もう……取り返しの効かないことをする所だったわ」
はぁ……と息を吐き出すザラノアールの姿になんとも言えない顔で見つめるモルダバイル。
「だから、貴方がメリルちゃんに聞いたとしても、メリルちゃんは何も話せないの」
「それは、キャロライン様が居るのに許しているということですか」
「許す……ねぇ」
含みのある言い方に眉間に皺が寄る。
無意識の行動は未熟だからと流してはいけないものでザラノアールとメリルに着いている騎士のおじ様がピクリと反応する。
「王族の馬車で来てるのよ。メリルちゃんはそれに乗っているの。視察は父上も知っていること、なのに何も言われてないのはなんででしょうね? 私が無断で連れてきてるなら、王家から何らかの連絡が来ているだろうし、キャロライン嬢に連絡が言っていると思うけどどう思う?どちらにしても、それに貴方が不信感を持つことは不敬よ。王族である私のすることに口を出すのだから。緊急時で正規の騎士であるならまだわかるけれど……貴方は違うでしょ。」
痛いところを突かれたと言葉を無くすモルダバイルに静かに紅茶を飲みながら話を聞くメリル。
男女間の問題で、特に王太子の相手となれば未来の王妃となる。
そこに突如として現れた少女。
不審に思うのは最もなのだ。
だが、まだ周りに周知されず、護衛騎士や侍女も友好的。
王家からの連絡も今現在でさえ届いていない。
それが答えなのだろう。
だが、キャロラインの事だけが気がかりなモルダバイル。
まだ何も発表されていない今、モルダバイルはどこまでいってもメリルはキャロラインの邪魔をする少女だと認識してしまう。
王家が迷惑を掛けた少女。
だから視察に連れていけなんていう、無理な頼みをザラノアールがきいたのだろうと。
王命により箝口令が敷かれている為、モルダバイルはこれ以上何かを言うことは無かった。
だが、潔癖気味なモルダバイルはやはりメリルへ感じる不信感を脱ぐうことは出来ず、仲良く手を繋いで前を歩くメリルを無表情で見ていた。
「あら、美味しそうね」
「ギリンというお菓子です。今流行りだしているんです」
「そうなのね、メリルちゃんたべ……るわよね。ひと袋頂けるかしら」
「か……かしこまりました!!」
メリルに確認しようとしたザラノアールは、既に前のめりで目を輝かせているメリルに笑い、購入を決めた。
「あ!ごめんなさい、あと3袋いいかしら」
購入数を増やすメリルにモルデバイルは好意で買ってもらうのに……と不快感を顕にするが、行きの馬車での行動を知っているザラノアールは笑った。
「まあ、お土産かしら」
「ええ、休憩中に食べれるように。小さいから良いかと思うのだけど……まずいかしら」
「いいえ、大丈夫よ。あのおじさん達また喜んじゃうわね」
「おじさんって……せめておじ様で……」
そうじゃないです、メリル様。
そう言いながらアンが荷物を受け取る。
おじさんかおじ様かの違いは差異だったらしい。
「…………お茶も!」
「それは屋敷にあるから大丈夫じゃない?」
「…………そう、ですよね」
はっ! として照れ笑いするメリルに可愛いわぁ……と眺めているザラノアール。
「……あの、お土産ですか?」
「はい。護衛騎士や一緒に来ているメイドにです。行きの馬車でもご自分用にと持ってきていたお菓子を全員に振舞っておりました」
「………………令嬢が、そんな事を?」
普通はそんな事しないだろう。
モルダバイルは先を歩く2人を追いかけながら様子を見ていた。
おやつに目がなく、騎士やメイドの為にお土産を購入。
その金額はザラノアールから出される為に、毎回ペコペコと頭を下げて、その度にザラノアールはとろけるような笑みを浮かべる。
だが、宝石やアクセサリー、ドレスにはまったく反応せず、勧められても高級品ですよ! と止める姿すらあった。
「…………何を思っていらっしゃるか分かりませんが、メリル様は良い方ですよ」
「…………そう、みたいですね」
普段の2人を見ているようで自然体の姿にモルダバイルは混乱していた。
王家が気にしなくてはいけない少女。
だが、その少女はまるで悪意がない。
なぜ、そんな悪意がない少女がキャロライン様の邪魔をするのだろう。
「………………そうか、王太子様が好きなのか」
ポツリと零れた言葉は誰の耳にも届かなかった。




